研究ブログ

福島第一原発による放射能汚染地図

5月15日にNHKで放映されたETV特集ネットワークでつくる放射能汚染地図 ~福島原発事故から2か月~が大きな反響を呼んでいる。

震災の3日後から福島県に入って放射能の測定を始める専門家を番組は追い始める。原発の周囲を走り回る自動車の中で空間放射線量を測ったり、土壌サンプルを取得して放射性核種を詳細に分析したり、この分野のベテランの人たちが貴重なデータを取り続ける様子が記録されている。「放射能汚染地域の現場を知り尽くした人たち」はすごいなと思った。普通の人なら、計測器の針が振り切れてしまえば、とてもここまで落ち着いて作業はできないと思う。放射能の怖さを理解し、自らの信念に基づいて行動しているからこそ、どんどん現場に入っていけるのだろう。

同時に番組では、事故後も汚染地域にとどまっていた人々の様子を織り交ぜて紹介した。特に浪江町赤宇木で集会所に避難していた人々については、初めて映像として見ることができた。この地域は特に放射線量が高いホットスポットとなっており、たとえ屋内退避を続けたとしてもかなりの累積放射線量に達しているはずである。「直ちに影響は出ない」かもしれないが、今後については少し心配にもなる。クライマックスでは、鶏の全滅、犬の追走など、心を揺さぶる映像が多くあった。ただし「あまりに効果的に心を揺さぶる」映像の効果には、少し気をつけていないと飲み込まれてしまうとも感じた。

このような全身全霊をかけた調査には遠く及ばないことは承知の上で、私自身も二次情報源としての放射線汚染地図をこの2ヶ月間にいろいろ作っていた。

放射線関連情報 | 2011年3月 東北地方太平洋沖地震 - 国立情報学研究所

特に福島県小・中学校等放射線モニタリングマップでは、福島県の小中学校1600校で4月初めに観測された空間放射線量率をマップした地図を作成することで、福島県各地で放射能汚染がどのように広がっているのかを見ることができるようにした。



このマップを見ると、福島県では原発の北西方向(飯舘村、浪江町)方向の放射線量が特に高いだけでなく、福島中通り全体でも放射線量が比較的高くなっており、むしろ相馬やいわきなど福島浜通りの方が低めになっていることがわかる。なおNHK番組に出てきた浪江町赤宇木は、この地図上で茶色(最高濃度)で示されている浪江町津島(保育所小学校中学校)から、国道114号線沿いに東に(=原発に近づく方向に)3-4kmほど進んだ場所にある。ちなみに、この国道114号線が通る谷が今回の原発事故のホットスポットになっているようであり、飯舘村は国道114号線と津島で南北に交差する国道399号線を北に進んだ方向にある。

この地図を見れば、放射能汚染は原発からの距離で単純に決まるわけではないことは明らかで、実際には放射性物質の放出タイミングとその際の気象条件が関係して決まってくる。そうした時系列(タイムライン)を追うためのデータを以下のページにまとめた。

これらの時系列を追えば、3月15日および21日に関東地方に到達した放射性物質についてもある程度の考察はできる。しかし、あくまで大まかに事態の流れを追えるというだけであって、本当に起こったことについては、まだまだわからないことが多いというのが率直なところである。

放射能汚染の解決は今後長い時間を要する問題となる。大気中での放射線量は今のところ落ち着きを見せているが、汚染が定着しつつある土壌と海水については、もっと多くの点で継続的にモニタリングを継続していく必要がある。校庭の表土除去など、やれることはどんどんやったほうがよいだろうし、その効果も数値的に検証していくべきだろう。

ただ何かを言う人たちではなく、チェルノブイリ事故調査などの経験を踏まえて使命感を持って放射能汚染のモニタリングに取り組む人たち。そういう人々の生き様を垣間見せたという意味でも、ETV特集はよい番組になっていたと思う。
2011/05/17
貴重な情報ありがとうございます。「ETV特集ネットワークでつくる放射能汚染地図 ~福島原発事故から2か月~」19日の夜の続きの20日の午前1時半から再放送があるとのことです。
http://bit.ly/lz5lbS