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最後の更新?『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブと著作権問題

このたび『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブの更新を行いました。2013年2月以来、約3年ぶりの更新となります。



今回の更新で、デジタルアーカイブの規模は7万ページを越えました。ページ数という規模だけを見るなら、これは取り立てて大きなデジタルアーカイブとは言えません。むしろ規模ではなく学術的な価値を優先させ、価値の高い本だけを選書して丁寧に撮影した「厳選型」である点に最大の特徴があります。最初のバージョンを公開したのは2004年でしたが、それ以来約12年の間にページ数も約12倍に増えました。以下のページにこれまでの経緯をまとめていますので、どうぞご覧下さい。さて、このタイミングで新しい本を公開した理由には、実は著作権問題がからんでいます。実は新年とは、著作権保護期間が満了する時期でもあるのです。例えば青空文庫でも、毎年1月1日に、その日からパブリック・ドメインとなって青空文庫に加わった著者のリストを公表します。それと同様に、今回公開した書籍の著者の中には、2016年1月1日をもって著作権保護期間を満了した著者の方がいます。そうした書籍をできるだけ早くお届けしようと処理を進めた結果、新年早々が公開のタイミングとなったわけです。

とはいえ、このようなデジタル化を来年以降も続けられるかといえば、雲行きがかなり怪しい状況となってきました。それは、著作権保護期間の延長が、いよいよ現実味を帯びてきたことが理由です。昨年の2015年には、TPPが大筋合意し、著作権保護期間を70年に延長する流れができました。我々のデジタルアーカイブは、この延長の影響をモロに受けるのです。

このデジタルアーカイブが対象とする著者は、ちょうど著作権保護期間が満了するかしないかの境目となる時代を生きていました。そこで我々は学術的に重要な書籍を選び、著者の著作権保護期間が満了するのを待って逐次的にデジタル化を進めてきました。それがほぼ終了したいま、これからデジタル化する書籍は、これから著作権保護期間が満了する著者の書籍が対象となります。

ところが著作権保護期間が70年に延びると、今後20年の間は新たに著作権保護期間が満了する著者が出現しません。これは、私の研究者人生の間には、新規追加はもうできないことを意味します。つまり今回の更新が、「最後の更新」となる可能性も十分にあるわけです。今後20年間凍結状態が続くデジタルアーカイブは、20年後にどうなっているのでしょうか。私にも全く予想ができません。

一方、ただ20年間待つだけというのも能がないとは言えます。万が一70年に延長となれば、もはや保護期間の満了を待つという戦は無効になるわけですから、代替案としての「きちんと許諾を得て公開する」方法を、いよいよ本気で考えるべき時代が到来するとも言えます。これはなかなかしんどい道です。誰と交渉してどんな許諾を得なければならないのか、数十年もたてば不明なことがほとんど。とはいえ、その困難な道を切り開いていかねばならないのも確かです。

ごく限られた作品の著作権を守るために、他の多数の作品が巻き添えを食らうという構図は、全体として見れば文化の振興になっているのでしょうか?大いに疑問が残る点は多々ありますが、それはそれとして、現実的な解を見出していくことも同時に重要さを増してきます。今後はそうした方向でもチャレンジしてみたいと考えています。

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