「東洋文庫所蔵」図像史料マルチメディアデータベースに書籍を追加
久しぶりのエントリーになりますが、「東洋文庫所蔵」図像史料マルチメディアデータベースに新しい書籍を追加しました。今回は6冊を追加しましたので、合計で116冊、30,090ページになりました。
このプロジェクトは2003年ごろから始まった書籍デジタル化プロジェクトで、毎年数千ページずつ地道に増やし続けています。え、たった数千ページなの(笑)、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。実際のところ、高性能なスキャニングロボットを使えば、このぐらいのデジタル化は1時間もあれば終わるような量かもしれません。Google Books等の大規模デジタル化プロジェクトと比べたら、ウサギと亀というたとえも大げさなぐらいノロノロなプロジェクトではありますが、まあそれにはいくつか事情もあるのです。
まずデジタル化している本が貴重です。中には世界に数冊あるかどうかというレアな本もあるのです。そんな本をロボットに扱わせるなんてもってのほか、人間が丁寧に扱わなければなりません。次に本の中にある絵が細かく描かれている場合もあるため、本を壊さないように注意しながらできるだけ本をフラットに開いて、鮮明にデジタル化しなければなりません。そのために高精度のデジタルカメラを利用して撮影していますが、こうした作業手順ではどうしても一枚一枚の撮影に時間がかかってしまうのです。さらにデジタル化した後も、新たな情報を追加したりテキストを翻訳したりするなど、手間をかけたデータベースになっています。そのかいあって、シルクロードに関連する多くの研究者が利用する情報基盤に成長してきました。
さて、このプロジェクトでデジタル化した本はすべて著作権の保護期間が満了したものですので、万人が自由にアクセスできる形で公開できます。従来こうした貴重な研究資料は、図書館や所有者に許可をもらわなければ閲覧ができず、それが時には一部の研究者だけが研究資料にアクセスできるという不公平も生み出していました。かと思えば逆に、多くの資料は書庫に死蔵されたままになっているのも確かです。このような現状に対してウェブで資料を広く公開することには、どの研究者がどこにいても必要な資料にアクセスして研究を進められるという点で大きな効果があります。誰に許可するかという属人的な参入障壁を撤廃し、公平な立場でみんなが研究を競いあえるようになること、これがデジタル化とウェブ公開の最大の価値ではないかと考えています。
ただしこうした動きを進めるためには、著作権の保護期間がある時点できちんと終了することが必要です。日本の著作権の保護期間は、現在のところ著者の死後50年となっています。一部にはこれを70年に延長しようという声もあるようですが、安易に延長するとこうしたウェブでの学術資料の公開はストップします。現在でさえ、デジタル化すれば学術的に価値がある(しかも商業的にはおそらく価値がない)ことがわかっているのに、著作権の問題からデジタル化を断念した資料が数多くあるのです。著作権保護期間の安易な延長には、学術研究に対する負の影響もあるということを覚えておいていただければと思います。