研究ブログ

小林秀雄「政治家」発掘についての補足

必要があって「大妻女子大学 草稿・テキスト研究所 研究所年報 第9号」(2016)を読んでいたら、「2015年度研究集会記録」の11頁で、山本武利氏による、次のご発言があることに気づきました。

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最近、朝日新聞で小林秀雄の作品が、福岡の九州タイムスに出ていること

を大阪大学の先生が発見したと書いていましたし、天声人語にも出ていた

らしいです。われわれが作ったものを利用したということを一言言っても

らえればうれしい。言わなければいけない義務はないとは思いますが…

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完全にわたしのことなのですが、この件、「20世紀メディアデータベース」は使っていません。もう6年も前のことですが、以下、経緯を説明します。
「新潮」(2015年9月)掲載の文章に記しているように、国会図書館の憲政資料室の、プランゲ文庫のマイクロは間違いなく使っています。が、「20世紀メディアデータベース」は使っていません。証明しようがありませんが、もしアカウントのログイン記録などをたどれるのであれば、わたしがこの時期にログインすらしていないことは判明するはずです(むろん契約している図書館等で見られる可能性もある、と疑われればキリがありませんが)。

では「データベースなしにどうやって見つけたのか?」というと、

1.織田作之助が「大阪日日新聞」に掲載した新聞小説『夜光虫』の初出に当たっていた
2.当時の「大阪日日新聞」の原紙は大阪市立図書館にしかない
3.大阪市立図書館の所蔵資料には一部抜けがある
4.『夜光虫』の一部が読めない(小磯良平の挿絵も見られない!)
5.「大阪日日新聞」と同じ系列の新聞を調査しようと、国会でマイクロを閲覧
6.「四国新聞」と「九州タイムス」にも載っていることがわかった
7.せっかく「九州タイムス」のマイクロを手にしたので、『夜光虫』以外の欄も見ることにした
8.けっこう多くの文学者が書いていることがわかって飽きずに読み続けた
9.小林秀雄「政治家」に遭遇

という経緯です。データベース使ったら一発でたどり着けたことは、後でわかりました。しかし、そもそも小林秀雄の資料を探していたわけではないので、「検索する」という発想が、当時のわたしにはありませんでした。
したがって、わたしは遠回りをしたことになります。もっと近道があったのに、と言われれば、その通りだと思います。ただ、わたし自身にとっては、当時の新興地方新聞を一日一日読んでいった経験は、無駄ではありませんでした。

なお、『太宰治研究25』(和泉書院、2017)に掲載された二つのアンケートのうち「貴方は狙はれて居る」は、ミステリー文学資料館『甦る推理雑誌2「黒猫」傑作選』(光文社文庫、2002)の中の山前譲編「「探偵よみもの」総目次」を読んで見つけたもの。ただ「誌上忘年会」は、20世紀メディアデータベースで見つけたものです。したがってその旨、明記しています(『太宰治研究25』188頁)。

データベースを使わずに見つけたからすごいとか、すごくないとかいう議論に興味はありません。どのような価値がある資料なのかという説明も含めて研究者の業績ですし、そもそも見つけたものが新しい資料かどうかということは先人の研究の蓄積を参照して初めてわかることなので、見つけた研究者だけの「手柄」とすることはおこがましいでしょう。
ただ、データベースを使わずに、しらみつぶしに見て行って、思わぬ資料の発掘にいたることだってある、という事実は強調しておきたいと思います。上記の山本氏の文章は「われわれのマイクロインデックスを使えば、どこにあるかがすぐ分かりますので、自分で発見したふりをした著作者がほとんどです」というご発言の後に来ているので、山本氏は、斎藤が「自分で発見したふりをした著作者」だと断定してらっしゃるわけではありません。が、読む人に、あらぬ誤解は受けたくないなと思って、この一文をしたためました。
ただ、どのような経緯で見つけたのか、ということは個人的に聞かれることが多いですし、公開して困ることは少ないので、最近は発表した文章の中か、このようなブログになるべく書き記すようにしています。