研究ブログ

イチローが大統領自由勲章の対象になる可能性

去る4月15日(月)に発売された日刊ゲンダイの2019年4月16日号に私が隔週で担当させていただいている連載「メジャーリーグ通信」の第46回「イチローが大統領自由勲章の対象になる可能性」が掲載されました[1]。


今回は、今年3月に現役を引退した大リーグのシアトル・マリナーズのイチロー選手が、米国における文民の最高の栄誉である大統領自由勲章を受章する可能性があるかを検討しています。


本文を一部加筆、修正した内容をご案内いたしますので、ぜひご覧ください。


*********************
イチローが大統領自由勲章の対象になる可能性
鈴村裕輔


2001年、2004年の2回にわたって授賞が検討された国民栄誉賞を、イチローが三度辞退した。


代理人を通じて内々にイチローの意向を打診したところ「人生の幕を下ろした時にいただけるよう励みます」と断られたことで、イチローが国民栄誉賞を生前に受賞する機会は実質的になくなったと言えるだろう。


周知の通り、イチローが国民栄誉賞を辞退したことは日本国内で大きく報道された。


そして、米国でもマリナーズの地元シアトルのシアトル・タイムズや有力紙ワシントン・ポストなどが取り上げており、「イチロー、名誉の賞を辞退」という出来事が話題性を持っていることが分かる。


ところで、米国において、文民に対する最高の名誉は合衆国大統領が授与する大統領自由勲章だ。


大統領自由勲章は米国の国益や安全、世界平和の推進、文化活動なとにおいて特に賞賛に値する貢献を行った個人に与えられる。これまでジョン・F・ケネディやヨハネ・パウロ2世、トム・ハンクスなどの政治家、宗教家、俳優など、生前か死後か、米国民か外国人かを問わず、世界的に名を知られた人々が幅広く受章している。


もちろん、スポーツ選手も授章の対象で、大リーグからもベーブ・ルースやテッド・ウィリアムズ、ジャッキー・ロビンソンら、球史に名を残す大選手たちが栄誉に浴している。


たとえ、日本人選手として初めて米国の野球殿堂に入ることが確実視されているとはいえ、これらの人物と比べれば、イチローが傑出した功績を残しているとは言いがたいかも知れない。


それでも、あらゆる勲章が「与える側の人気取り」という側面を持つように、大統領自由勲章も多分に政治的な意味合いを含む。外国人に与える場合には、大統領自由勲章は相手国との友好親善の促進や関係改善という役割を担うし、スポーツ選手を対象とする際には大統領の庶民性の強調という意図も隠されている。


現在の日米関係は良好とされるものの、対米依存から脱却することを要求するというトランプ政権の基本的な対日政策を考えれば、「ドナルドとシンゾー」の間柄も永遠ではない。


しかしながら、米国にとって日本が中国やロシアとの連携を深めすぎることは得策でない。


このとき、米国政府が日本を軽視していないことを明示し、米国内の有権者の歓心も買うために有効な手段の一つが、著名人に大統領自由勲章を授与することであり、イチローは日米でともに名の知られた格好の対象となる。


当然ながら、米国政府の思惑はイチローの意向とは関係ない。それだけに、米国政権側が利用価値を認めれば、イチローに大統領自由勲章の授章を打診することもあり得るのだ。
*********************


[1]鈴村裕輔, イチローが大統領自由勲章の対象になる可能性. 日刊ゲンダイ, 2019年4月16日号30面.


<Executive Summary>
The Day When Mr. Ichiro Suzuki Is Awarded  Presidential Medal of Freedom (Yusuke Suzumura)


My latest article titled "The Day When Mr. Ichiro Suzuki Is Awarded  Presidential Medal of Freedom"" was run at The Nikkan Gendai on 15th April 2019. Today I introduce the article to the readers of this weblog.