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【追悼文】李登輝博士について思ったいくつかのこと

昨日、台湾の元総統の李登輝博士が逝去しました。享年97歳でした。


農政学者あるいは中華民国総統としての李博士の事績、そして政治家ゆえとも言うべき毀誉褒貶[1]については周知の通りでありましょう。


ところで、李博士の取り組みの一つとして知られるのが、いわゆる中台関係を「特殊な国と国の関係」とし、「一つの中国」に対して「二国論」を唱えた点であることは、広く知られるところです。


台湾側の態度の変化が中国当局の反発を招き、両岸の緊張関係をもたらしたこと、それとともに「戒急用忍」を旨とし、拙速を戒めて慎重に事柄を進めるという慎重さに基づていることは、黄偉修先生(東京大学)のご著書『李登輝政権の大陸政策決定過程(1996~2000年)』(大学教育出版、2011年)の第4章に詳述されています。


同書が教えるのは、李博士が1996年に直接選挙で総統となってから2000年に退任するまでの大陸政策の周到さであるとともに、必ずしも組織的な調整を経てはいなかったという点です。


その意味で、しばしば「台湾の民主化の父」や「親日家」と称される李博士は、そうした美称以上に、現実的であり冷厳でもある政治家であったと言えるでしょう。


それだけに、今後、実証的な研究がさらに進み、李博士の実像がより立体的に描かれることが期待されるところです。


[1]理想求め権力闘争. 日本経済新聞, 2020年7月31日朝刊9面.


<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of Dr. Lee Teng-hui (Yusuke Suzumura)


Dr. Lee Teng-hui, the Former Taiwan President, had passed away at the age of 97 on 30th July 2020. On this occasion I express miscellaneous impressions of Dr. Lee.

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