貴婦人と一角獣展
「触覚」
「味覚」
「嗅覚」
「聴覚」
「視覚」
「我が唯一の望み」
一角獣:
中世の人々は、一角獣にはキリスト教的な象徴と宮廷恋愛の示唆の意味を感じ取ったと思われます。このタペスリーは道徳的意義と世俗的美意識の両方を兼ね備えていると思われています。一角獣はキリストの象徴、一角獣を大人しくさせる処女は聖母マリアの象徴と考えられていたので、キリストの受胎の象徴として一角獣が捉えられていた訳です。
動物と植物:
植物に関しては古典的な様式化と、12世紀末から13世紀初頭に現れた写実的な自然主義という2つの傾向を融合し、1500年前後に流行した千花模様と呼ばれる背景が採用されています。一方の動物は中世の寓意に従った意味を付与されているものと考えられます。登場する植物の種類はオダマキ、ジギタリス、ニオイアラセイトウ、ヒヤシンス、マーガレット、スズラン、ヒナギク、パンジー、ツルニチニチソウ、クワガタソウ、スミレ、ソラマメ、エンドウ、ジャスミン、ナデシコ、マツ、フユナラ、セイヨウヒイラギ、オレンジなど40種類にも上り、動物もハヤブサ、ヤマウズラ、オウム、ウサギ、イヌ、キツネ、ヒツジ、サル、ライオン、ヒョウ、チーターなど多岐に渡っています。
五感:
中世では五感は「触覚」「味覚」「嗅覚」「聴覚」「視覚」の順に、物質的世界から精神的世界に移って行くと考えられていました。その頂点に、謎の「我が唯一の望み」がある訳です。「触覚」は細部が他の作品と異なるのでこの作品が先に出来上がったと考えられています。「味覚」はゆったりと調和がとれて身振りが繊細で晴れやかな表情で、完成度が高いです。「嗅覚」は「味覚」よりも稠密で静的です。「聴覚」は狭苦しい構図になっています。「視覚」はピラミッド状の構成軸が鑑賞者の視線を意識して作られています。「我が唯一の望み」では幕屋があるのが他の作品と大きく異なり、より厳粛な雰囲気になっています。幕屋にある“A. MON. SEUL. DESIR. I.” とは、「我が唯一の望み」を注文主アントワーヌ2世ル・ヴィストのAと妻ジャクリーヌのIで挟んだものと思われています。 ‘mon seul désir’ は当時の指輪の銘文としてよく見られ、会場では ‘une sans fin’ (いつまでも一人の女を)という銘文が植物のモチーフとともに刻まれた指輪もありました。『ロード・オブ・ザ・リング』の世界ですね。
展覧会の図録に『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』まで登場し、イントロがそれで締めくくられているのはお茶目でしたw。以下、抜粋。
『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』の中では、地球連邦の産軍複合体の一画をになう「ビスト財団」の当主がスペース・コロニーの中に設けた広壮な19世紀風の屋敷の中に、<貴婦人と一角獣>タピスリー全6面が飾られている。財団の当主カーディアス・ビストは、リルケの「可能性の獣」を「信じる力によって養われるもの……つまり、希望の象徴」と解釈し、一角獣のように一本の角を持ったモビルスーツ(戦闘用巨大ロボット)である「ユニコーンガンダム」を開発して、謎の「ラプラスの箱」を解放し、アースノイド(地球生まれの人類)とスペースノイド(宇宙生まれの人類)たちの和解を図ろうとする。<我が唯一の望み>に描かれた宝石箱が「ラプラスの箱」に重ね合わされ、また「第六感」がガンダム・サガを通じて登場する「ニュータイプ」(直感力や反射神経が常人よりすぐれた新人類)と関係づけられるなど、タピスリーは小説版で全8話・10巻に及ぶ長大な物語全体の鍵となっている。
『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』からは、<貴婦人と一角獣>タピスリーの持つ豊かな象徴性、そして神秘的な謎が、リルケを経由して、現代のSFエンターテインメントの物語やアニメーションに、叙事詩的な奥行きを与えていることがわかる。そこには、世代を超えて多くの人々の想像力に訴え、魅了してきたこの作品の力が、端的に現れているように思う。
展覧会は2013/10/20まで大阪の国立国際美術館で催されています。
コメント有り難うございます。東京の会場では、中央に連作タピスリーを配置し、そこを中心に放射状に解読のための作品の小間を配置していたようで、なかなか面白い造りだったそうです。大阪では会場の都合上そうなっていなかったので、私も東京の展示も観てみたかったです。クリュニーでは新装された美術館にまた展示されると思うので、機会があればまた是非ご覧になって下さい。