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ハイフレックス型授業での匿名コメントアプリ導入の試み(授業実践例)

怒涛の2021年度が終わった。

今年度はどうにかなるかと思われたオンライン授業だったが、一部対面での実施はできたものの、完全オンラインというわけではない、対面とオンラインを組み合わせたハイフレックス型の授業が行われた。

 

次年度以降は別形態になるかもしれないが、振り返りとして書いておく。

 

関連エントリ

https://negadaikon.hatenablog.com/entry/2020/07/31/000506

https://negadaikon.hatenablog.com/entry/2020/08/03/003532

 

勤務先では、密を避けるために、学籍番号末尾の奇数グループと偶数グループを分けて、それぞれ隔週で登校日を指定して、ある週は奇数の人がオンライン、偶数の人が対面。翌週は逆。という形でハイフレックス型の授業をしていた。

学籍番号で登校日を決めるのは、学生の希望に合わせてオンラインか対面かを選択させているとおそらくぐちゃぐちゃになる、ということからだったと思うし、それはそれでやむを得ないことだったのかなと思っている。

 

ただこの方式、とにかくやるのが大変である。オンラインか対面か完全にどちらかだけでよいのなら、学生の反応もそちらに集中できるものの、やっている教員側は、意識が教室内と画面の向こう側両方に分散せざるを得ず、画面をずっと見ていて教室の学生と目を合わせられなかったり、画面からは目が泳いでいるような状態でずっと喋ってしまっていることが(たぶん)多々あったと思う。それで学生の集中力を欠く要因を作ったかもしれない。

 

また、私はあまり授業に取り入れていないのでそこまで影響はなかったが、グループワーク系の授業は運営コストが尋常でなかったと思う。対面同士、オンライン同士でグループ分けをするのがよいのか、対面の組に何人かオンライン参加の人を混ぜる方がよいのか、それは機械で割り振れなかったらどうするのか、考えるだけでちょっと憂鬱だ。

 

そういうなかで、半ば苦しまぎれに導入したものの、そこそこ評判が良かったのが、匿名のコメントを投影・共有しているスクリーンに反映させられるコメントアプリの存在だった。

 

私はコメントスクリーンというのを利用した。

https://commentscreen.com/

 

選んだ理由は、全学のFDで他学部の先生が紹介していて、「これなら自分もできそう」と思ったから。ほかのアプリとの比較検証はしていない。ただ周囲の人はパパパコメントとかを使っている例もあるとは聞いている。

 

パパパコメントは、管理画面でコメントの一覧の取得はできないように見えるし、リアクションのアイコンもないのだと思うので(未確認)。それらを使うなら、高くてもコメントスクリーンの方が良いのかなとも思うが、これはそれぞれの授業指針に合わせてのものだろう。

 コメント管理画面

後期から導入し、学生には「対面とオンライン参加の人がそれぞれいるので、双方が一体感を感じられるように、授業の感想や質問など、その場で匿名で送れるアプリを入れます」と説明した。

コメントスクリーンでは、毎回、個別のルームなるものを作成する。

そうすると独自のURLが生成されるので、そのURLをコピーしてQRコード化し、配布するプリントに貼り付け、対面授業で参加する学生にはスマートフォンから参加させる。同時にオンラインのミーティング参加者にはチャット欄にURLを貼り付けてログインさせる。

 

なお無料版50名のやつだとすぐ上限に達してしまうので、学校版の料金体系を利用して100名までログインできるようにしていた。

 

学生のコメントが右から左にスクロールする

 

ログインした学生が授業中、スマートフォンなどからコメントを入力すると、その文字列はアプリを起動しているホストの端末の画面の右から左へスクロールしていく。画面の右から左であって、開いているアプリの右から左ではないので、PowerPointなどの画面を教室やオンラインで共有する場合には、かならずアプリを共有するのではなく画面などを共有する必要があった。

 

コメント以外にも、ハートマーク❤やいいね、泣き顔😢などのアイコンも送信できるため、授業内で時々発問をし、挙手させる感覚で、「前々回の授業で触れた〇〇、覚えてる人はハートを、忘れたのでもう一回説明が必要な人は涙を連打してー」などと指示していた。

 

ただ、このアプリ、授業ごとでの学生のリアクションに巨大な差があった。

ニコニコ動画などを見て育った人たちは仕様を一瞬で理解してくれるから教員が説明する必要はない。

授業について思ったコメントが、右から左に流れるのである。最初はかなり面白がって(珍しがって?)色々リアクションをくれていた学生たちも、数回やると飽きて来るのか、コメントが減ってくる。

 

こういうコメントの仕組みを入れると授業が荒れるのではという懸念もありそうだ。

このアプリを教えてくれた先生は、「授業が荒れたりしたことは一回もないですね」と言い切っていたが、たぶんそれは教員の心構えか、事前の約束事が徹底していたからである。

私がこのコメントシステムを導入した初回では、冒頭、使い方の概略を説明し終えるまでの間、しりとりを繰り返す2人組(?)がいた(まあ、2人かどうかわからず、あるいは1人の自作自演だったかもしれず、もっと多かったのかもしれないが、とにかく私がツッコむまでやっていた)。逆にそこでキツく言えば、委縮してコメントが盛り下がってしまうし、ゆるやかに「授業に関係することだったら何発言してもいいぞ」くらいに断っておいて、不規則発言をも取り込んで話を展開する話術が教員に備わっているかどうかが大事なのかもしれない。雑多なコメントは私語よりマシと思えるかどうかが肝であるようにも感じる。

 

私は講義系に絞って導入していたのだが、専門科目になるほど発言が減り、1年生の必修のライティングの授業だと比較的活発にコメントが出てきていた。ノリのよい学生がいるかどうかなのか、授業内容の難易度に由来するのか、いまいち原因がわからない。集中力を途切れさせないために要所要所で身近な話題から発問したりするのが大事なのかもしれない。

授業内容を確認する〇×問題みたいなのを終了間際に持ってきたときは、ちょっと盛り上がった。活用の余地はあるかもしれない。

 

 

その他、留学生などは素早い反応より、じっくり日本語を考えて質問したいということもあるだろうから、授業内容についての質問は出席確認のための小課題提出と同時に別途受け付けることにしていた。あんまりやりすぎると日本人だけ盛り上がって留学生が疎外感を感じてしまう。そういうのも避けなければならない。

 

コメントスクリーンのアプリは、演習でも入れようかどうしようか迷ったのだが、演習くらい顔と名前が一致する(させるべき)少人数の授業で、議論の練習をする場で、匿名コメントが活発化するのはどうなんだと思って見送った。しかし、ちょっとした緊張感を高める意味では、入れても良かったのかもしれない。

 

匿名でコメントするというのは、下らない質問をするなと叱られそうだという心理的な障壁を超えるのにはちょうどよく、また下らないと思っているのは本人だけで、授業をやっている側からすると「よくぞ聞いてくれた」みたいなことがあるのは常のことなのだが、発言者とコメントが紐づかないということは、発言したことを授業参加の指数として評価時に加点要素に加えていくことができないということでもある。当然、出席もこれでは取れない。別に成績良くならなくても良いから疑問はすぐにその場で聞く!という意欲的な人でないとだんだん発言しなくなってくるという面はあるのかもしれない(経験上、そのくらいの積極性をもって授業を聞いている人のほうが内容を後々までよく理解しており、成績は概して良好なのだが)

 

しかし学期終了後の授業アンケート結果を眺めていると、コメントが減ってくるから、わざわざ使わなくて良いのかというと、そうでもないらしい。今後も継続してほしいとか、オンライン組と対面組が共に学んでいることが間接的に伝わってきてよかった、とか、授業にいろんな人がコメントできる仕組みがあったのは良かったとか、使うかどうかはともかく、発言機会が許容されている感じが授業に与えている一定の安心感?はあるらしい。むろん、継続を希望する声が目立ったとはいえ、全員がコメントシステムに賛成かというとそうでもなくて「気が散るからあのシステムはやめてほしい」という声がゼロではなかった点も心にとめておきたい。

 

そうすると、結局は問題は学生のモチベーションと発言をいかにして引き出すかという教員側のファシリテーションの技能レベルみたいなことになってくるのかもしれない。これは私自身にはもっともっと修業が必要だと思った。インタラクティブだなんだといっても、深い理解を促すための工夫ということなら、結局教員の力量の問題に行きつくのだろう。

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