研究ブログ

空襲体験記原稿プロジェクトの報告書を刊行します。

 戦災誌研究会で進めてきた原稿プロジェクトの報告書を刊行します。

 以下にアップしますので、私的目的の範囲で自由にダウンロードしてご活用ください。無断での加工・転載・メディアでの利用などは不可とします。

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 本プロジェクトは、東京大空襲・戦災資料センターが保管する、東京空襲を記録する会・東京空襲体験記原稿コレクションをデジタル化し、その活用方法を探るものです。

 対象となるコレクションは、1970年8月から、東京空襲を記録する会が『東京大空襲・戦災誌』を刊行する目的で収集した空襲体験記の入稿原稿に関する資料群です。

 

 報告書のメインは、「本所区」「深川区」の原稿データを入力した6人による、原稿分析の論文です。

 巻頭に研究代表者の山本唯人が解題論文を書き下ろし、資料編として第1回研究会での早乙女勝元(作家、元東京大空襲・戦災資料センター館長)、西尾静子(空襲体験者、『東京大空襲・戦災誌』寄稿者)の発言、巻末に原稿コレクションの暫定目録を収録しました。

 

 本コレクションは、1970年代以降、「庶民の戦争体験の記録化」(吉田裕)と呼ばれる動きの先がけになった、空襲記録運動の実態を伝える歴史的な資料群です。

 これまで所在は知られていたものの、量の膨大さからその内容は十分把握されずに来ました。今回、科研費の助成を取り、「3月10日」空襲を扱った『東京大空襲・戦災誌』第1巻分の原稿について、初めて体系的な資料整理・目録作成を行い、その約半分を占める「本所区」「深川区」分について原稿の画像データ化とテキストデータ入力を行いました。

 本書の軸になるのは、空襲体験記の原稿の作成・編集のプロセスを表す「原稿形態」の解明です。口頭で伝承される体験談と異なって、体験記の特徴は、体験者による執筆、推敲、編者による修正、削除などのプロセスが、すべて記録となって原稿上に残っていくことです。このプロセスが形になって残ったものが「原稿形態」です。

 原稿形態を踏まえることで、体験者は何を重視して原稿を書いたのか、編集者はそのうち何を削除し、何を残したのかを読み取ることができます。その意味で、原稿形態の解明は、これまで資料批判が難しいとされてきた体験記の歴史研究への活用に、光を投げかけるものです。本書の検討で、元原稿の作成・整理・収集、編集方法の違いによって、入稿原稿は14種類、未掲載原稿は10種類の形態に分かれることが、明らかになりました。

 事例研究編では、それぞれ個性的な形態を持つ6編の原稿を、データ入力を担当した20代の若者たちが読み解きました。

 

 本書が体験記を活用した研究・教育の発展、引いては、東京空襲の実態解明に寄与することを期待します。

 

2022年11月30日

研究代表者 山本唯人

*若干部数ですが冊子版を作成します。

 

 

[書誌情報]

『空襲体験記の原稿を読み、継承する
―東京空襲を記録する会・東京空襲体験記原稿コレクションのデジタル化とその読解』

発行日 2022年11月30日

著者 阿部翔真 近藤杏佳 大石亜由子 山口里沙 大滝夢夏 山口可奈
   早乙女勝元 西尾静子

編著 山本唯人

発行 戦災誌研究会

印刷 下谷オフィス

報告書1-26(目次・第1章).pdf 3.9MB

報告書27-66(第2-4章).pdf 7.8MB

報告書67-99(第5-7章).pdf 8.6MB

報告書100-103(資料編).pdf 0.2MB

報告書104-118(目録暫定)(1).pdf 13.8MB

報告書119-132(目録暫定)(2).pdf 12.6MB 

 

目次

第1章 空襲体験記の原稿を読み、継承する―東京空襲を記録する会・東京空襲体験記原稿コレクションの概要 山本唯人

 

事例研究編

第2章 同筆者における異なる期日の空襲体験記の構成およびその動機―本所区東駒形・森川寿美子の原稿を読む 阿部翔真

第3章 空襲被害とは、爆撃を受けた瞬間のみなのか―深川区高橋・小沢綾子の原稿を読む 近藤杏佳

第4章 聞き書き原稿から読み解く、戦争と体験者の心―深川区森下町・石橋静枝の原稿を読む 大石亜由子

第5章 本人による直し、自伝との比較から体験記を考察する―深川区三好町・森川直司の原稿を読む 山口里沙

第6章 布の思い出が体験記を紡ぐ―深川区富岡町・片岡綾子の原稿を読む 大滝夢夏

第7章 東京における罹災者の職業と聞き書き原稿についての考察―深川区永代・相馬長二郎の原稿を読む 山口可奈

 

資料編 第一回戦災誌研究会での発言

文字を子細に見ると、人柄が分かる。お医者さんが、聴診器を当てるのと同じように。 早乙女勝元

岩波新書『東京大空襲』を読んだことがきっかけで、体験記を書きました。 西尾静子

 

東京空襲を記録する会・東京空襲体験記原稿コレクションの目録(暫定版)

 

 

[プロジェクト情報]

日本学術振興会科学研究費補助金「東京大空襲の体験記と空襲記録運動の研究」(2019-2022年度・基盤研究(C))(研究課題番号 19K00947)(戦災誌研究会)

研究代表者 山本唯人 研究分担者 石橋星志 小薗崇明
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K00947/

[協力]

公益財団法人政治経済研究所附属  東京大空襲・戦災資料センター
久保山滉平
平澤理子

*問い合わせ 下谷オフィス(山本)
https://forms.gle/RwqS3uni95aFU52g9