2021年1月の記事一覧
刺身の異臭(オフフレーバー)の物質同定と発生源解明
松尾美咲, 松元美里, 太田耕平, 佐藤克久, 上村智子, 古藤田信博, 染谷孝, 上野大介
海産養殖魚における異臭物質の環境分析化学的アプローチ(におい嗅ぎGC)による推定.
https://doi.org/10.5985/jec.28.51
要旨
飲食店で異臭クレームのあった海産養殖魚を対象として、環境分析化学的アプローチによる異臭原因物質の推定に取り組んだ。
通常のGC-MS分析ではピークおよびマススペクトルを検出することができなかったことから、ヒトの嗅覚を利用したにおい嗅ぎガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography-Olfactometry:GC-O)、およびにおい物質データベースをもちいることで、原因物質を2-メチルイソボルネオール(2-Methylisoborneol:2-MIB)と推定した。
これまで2-MIBによる海産魚の異臭問題は報告例がみられない。要因として、循環式水槽の濾過装置から、放線菌や藻類由来の2-MIBが溶出したと推察された。本件は、天然物による食品汚染の事例であり、カビ毒と同様に今後の再発防止の対策が望まれる。
佐賀豪雨時の油臭の発生源解明
古賀夕貴, 井手海渡, 松元美里, 樋口汰樹, 市場正義, 上野大介
におい嗅ぎGC(GC-O)を用いた冠水被害時における油臭の発生源解明.
https://doi.org/10.5985/jec.30.29
要旨
令和元年(2019年)8月の前線に伴う大雨は、28日早朝に佐賀県大町町一帯で冠水被害を引き起こし、同地区に所在する鉄工所から金属焼き入れ油(使用済みクエンチオイル)が流出した。被災地では“油臭問題”が発生したことから、油臭の発生源特定に着手した。
被災地における悪臭を官能的に評価したところ、その臭気は“油臭と下水(生ごみ)臭”が混合したものであった。そこで油臭に着目し、現地で採取された油吸着シートを官能評価(類似度評価)に供試した。
その結果、事故発生7日後の被災地における油臭は“軽油(重油)および(または)灯油臭”であり、使用済みクエンチオイルとは別に、それら燃料油が被災地付近で流出事故を起こしたことを示唆していた。
一方で、事故発生12日後は、時間経過により軽油(重油)および灯油の成分が揮発し、比較的高分子成分を多く含む使用済みクエンチオイルの弱い臭気が残留していた。それら結果をGC-O分析により確認したところ、類似度評価と整合性のとれる結果が得られた。
匂いを利用した線虫感染ニンニクの検出技術開発
Matsumoto, M., Ueno, D., Aoyama, R., Sato, K., Koga, Y., Higuchi, T., Matsumoto, H., Nishimuta, K., Haraguchi, S., Miyamoto, H., Haraguchi, T., Yoshiga, T.
2020
Novel analytical approach to find distinctive odor compounds from garlic cloves infested by the potato-rot nematode Ditylenchus destructor using gas chromatography–olfactometry (GC–O) with heart-cut enrichment system.
J. Plant Dis. Protect., 127, 537–544.
https://doi.org/10.1007/s41348-020-00349-3
要旨
ニンニクは、香辛料などの食品や医薬品の原料として広く世界中で利用されており、現在の日本国内で流通しているニンニクの約50%は輸入品である。近年、消費者の安全安心の意識の向上によって国産ニンニクのニーズは高まっており、それに伴い減農薬・無農薬ニンニクの人気も高まりを見せている。一方で、国内のニンニク栽培圃場では、腐敗を早めて商品価値を低下させる、イモグサレセンチュウの感染による病害が問題となっている。
そのような中、農業者から“線虫に感染した病害ニンニク(感染ニンニク)には特有のにおいがある”という情報を得た。感染ニンニクが発するにおいを特定することができれば、それらの早期発見および選別技術への応用が可能となり、結果的に農薬の使用量低減につながると期待される。
本研究では、におい嗅ぎガスクロマトグラフィー(Gas Chromatograpy-Olfactometry: 匂い嗅ぎGC :GC-O)(Fig.2)、およびガスクロマトグラフィー分取システム(Gas Chromathography-Fraction System:GC分取システム)を活用し、感染ニンニクの発する特有のにおい物質の同定を目的とした。
本結果から、線虫感染ニンニクに特有のにおい物質として、プロピルメルカプタン、アリルメチルスルフィド、2-メチル-1-ブタノールがあげられた。本研究により、線虫感染ニンニクに特有の匂い物質が特定された。
将来的に本物質を指標とした線虫感染ニンニクの選別手法を構築することができれば、感染ニンニクは出荷時期を早めるなど、流通・貯蔵法の最適化に向けた技術改善につながると期待される。