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2020年1月の記事一覧

太陽黄経300度「大寒」の節気

1月20日11時39分
 太陽黄経300度、
『二十四節気』「大寒」の季節へと
移行しました。

「冬至」と「小寒」の節気を過ぎて
太陽の脚光が少し長くなりますが、
寒波の影響により、
一年で最も最も寒さ厳しい頃です。

この時期を待って
武道では恒例の「寒稽古」が行われます。

「大寒」の初日は「大寒日」でもあり、
西洋占星術で言うところの、
宝瓶宮(みずがめ座)の始まりでもあります。

はじめの1月20日~1月25日にあたる
「初候」は、
款冬華(ふきのはなさく頃。

Image: フキ, CC, Wikipedia. 

まだ雪が残る大地を割って、
フキノトウが芽を出す頃です。


フキはキク科フキ属の多年草で、
キクやタンポポのように、
小さな小花が集まることで、
一輪の花のように見えます。

これを「頭状花序(とうじょうかじょ)」と言い、
周囲の緑の部分は葉柄ですが、
葉に先駆けて花芽が出たものが
フキノトウです。

実は個体によって雄花と雌花があり、
雄花は黄色い花粉が目立ち、

雌花はその花粉を受粉するために、
小花の雌しべを精一杯伸ばして、
雄花より背も高くなります。

そんな出始めのフキノトウは
春一番を告げる山菜として、
実は縄文時代から食されており、
平安時代には栽培も始まっていました。


今でも天ぷらや和え物などのメニューで
家庭でも親しまれていますね。

その独特の香りとほろ苦さは
春到来を実感する
味ですが、
花が咲く前の蕾の状態を
食用にします

ミネラルやビタミンが豊富なフキノトウは、
薬草として新陳代謝を活性化したり、
フキ独特のフキノール酸が咳を鎮めたり、

また香り成分であるフキノリドは、
胃腸の働きを整える効果もあります。

アルカロイドは毒にも薬にもなる成分ですが、
適量であれば腎臓と肝臓の機能を強化し、
新陳代謝を高めてくれる効果もあります。

そして天然フラボノイドの一種である
ケンペロールには、免疫力を上げるため、
抗がん作用も期待できます。

春の草木の芽がジェモセラピーの
原料となっているように、

蕾ならではの測り知れない
生命エネルギーを内包する薬草の
代表と言えるでしょう。


ただし、肝毒性のあるペタシテニンや
ピロリジジンアルカロイドが含まれるため
天ぷら以外には灰汁抜きも忘れずに。

尚、地下茎は有毒です。

「次候」(1月26日~1月30日)は、
水沢腹堅(さわみずこおりつめる」頃。



一年の中でも極寒の季節となり、
冷え込みの厳しい朝、

湖や小川、滝など、
水の流れのある場所でも、
氷が厚く張るのを目にするようになります。


例年、最低気温が報告される頃で、
雨が多い年でも
これからしばらくの間は、
雪がちらつくかもしれません。

太陽は毎日少しづつ、
確実に高度を上げています。

春の訪れは眼の前です。

「末候」(1月31日~2月3日)は、
鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)」頃。


現代ではいつでも手に入る卵。

本来は太陽の光が戻ってくるこの時期に
春の気配を感じた鶏が交尾を始め、
有精卵を生み始めるのが自然なものです。

日照時間が長くなるにつれて、
産卵率が上がるため、
春から初夏にかけての
有精卵こそ「旬」の卵とのこと。

中でも冬越えのために
沢山の脂肪と栄養分を蓄えた雌鶏が産む
春一番の
栄養価の高い卵は、
「大寒卵」と呼ばれ、

これを食べると一年間、
健康と金運に恵まれるという縁起物です。


実は、非常に面白い事に、

ヨーロッパのフランス・モナコ・ベルギー・
ルクセンブルグ・スイスと言った
フランス語(旧ガリア)圏に、

同じようにこの時期の卵を使う
伝統行事が残っています。

それは、毎年2月2日の
ラ・シャンドゥレール
La chandeleur)の日に、

丸く黄金色に焼いたクレープを
片手に金貨を握りしめてから、

わざと高く宙に放り、
上手に着地できるかどうかで、
一年の健康と金運を占うものです。



卵を使ってこんがりと焼く
太陽のように丸く平らな焼き菓子は、

クレープからクッキー、ワッフルに至るまで
フランス語でガレット(Galette)と言う
総称で呼ばれ、

卵はフランス料理に欠かせない
食材のひとつです。

そして、フランス語で
シャンドル(Chandelle)はろうそくを指し、
この伝統行事は「光」を灯す
「聖火」に由来しています。

つまり、ケルトの太陽神
ベレヌスにちなんだ
お祝いの日です。

 

ブリテン島のアイルランドでは、

光り輝く女神、ブリギットの祭り、

「インボルグ」となりました。


ケルト神話はのちにローマ神話と習合し、
ベレヌスは『ガリア戦記』の中で、
ギリシア神話のアポローンの他、
ローマ神話のメルクリウスとも同一とされています。

メルクリウスは英語読みでマーキュリー、
つまりここで暗示されているのは
「水銀」です。

また太陽神アポローンの
聖獣のひとつとして
「鶏」があり、

勝どきを告げる
「鶏」は
今でもヨーロッパ各地で

「背景はよく分からないけど、
古い時代からある民族的な印」

と囁かれながら、
伝統デザインとして紋章に使われています。

現在はカトリック圏となり、
人々はその起源を忘れていても、

このように、
かつてガリアの地に拡がっていた
太陽信仰の名残りが
人々の暮らしの歳時記の中に見え隠れするのです。


Image: ワロン地域, CC, Wikipedia. 

またそれよりずっと古い時代に、
これらの地域に重なるように暮らしていた
ネアンデルタール人も、
すでに鳥を食し、
積極的に火を使用していたようです。

鳥の飼育に関しては、
紀元前2500年頃の古代エジプトで
すでにガチョウ(またはエジプトガン)の
飼育が行われていた事が分かっています。

古代エジプトとガリアは、
古代インド・ヨーロッパ族として
古い時代から繋がっていますから、

どこからが直接の起源かについては
筆者にもよく分かりません。

「鵜飼い」との関係も気になるところです。

ところで、

日本で「鶏」が聖鳥として
扱われているところと言えば、
奈良の「石神神宮(いそのかみじんぐう)」が
有名ですよね。

鉄製「布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)」を
御神体として、
古代軍事氏族の物部氏が祭祀し、

武器庫としての役割も果たしていたという
布留山の麓に鎮座する神社ですが、

境内では「神使」として、
天然記念物「東天紅」をはじめとして
沢山の「鶏」が、放し飼いにされています。

「鶏」の語源は、よく
「庭(に飼う)鳥」だと言われますが、

羽の色が「水銀」の原料である辰砂、
つまり「丹(に)」に似ていた事から、
「丹色の羽の鳥」という説があり、

筆者としては、むしろ、

「辰砂」の色から連想するのは
鶏冠(とさか)の色であり、

「丹生(にう)鳥」からの
音韻転化であると考えます。



Image: 辰砂, CC, Wikipedia. 

また、諸説ある「鳥居」の起源の一説に、

「神使」の「止り木」説もあるのだとか。

つまり、ここからは
「聖鳥」の棲む空間ですよ、と
人々に知らせる結界の役割を果たし、

それが「石」であるならば、
「神」や「神使」「天使」など、
つまり”聖なる意識存在”の
依代でもあった事でしょう。

太陽と共にあり、
眩しい日の出と春の到来を告げる、
私たちに身近な「鶏」。

その背景には、人類と共にあった
長い長い歴史の記憶が
あるのかもしれませんね。

(文責:松田佳子)

◆Facebookページ「日本比較神話学会」
https://www.facebook.com/JapanMyths/

 
(参考サイト他)
この記事を執筆するにあたり、以下のサイトを参照させて頂きました。
 


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