研究ブログ

2020年4月の記事一覧

太陽黄経45度「立夏」の節気

5月5日15時47分

太陽黄経45度、

『二十四節気』「立夏」の節気に

移行しました。

 

次から次へと花が開き、

いつの間にか春爛漫の中にも、

 

肌にそよぐ風の変化や、

夏草の開花に、

初夏のきざしを感じ始める頃です。

 

  はじめの5月5日~5月9日にあたる

「初候」は、

「​​​​​​​​​​​​​蛙始鳴(かわずはじめてなく)」頃。

 

  

 

光の映る田んぼの中から

カエルの声が聞こえてくる頃です。


イネの苗代が育ち、

田起こしが終わって、

山から田に水を引くと、

 

「山の神」が降りてきて、

「田の神」となります。


春先に撒くイネの種に

最初の水をやる時、

「田の神」を迎えるため、

「水口祭」を行う地方もあるようです。


「田の神」は秋の収穫まで田んぼに留まり、

イネが生育するまで農民を守る

「稲霊(いなだま)」となります。


「稲霊」は、

『古事記』『日本書紀』でも、


「倉稲魂(うかのみたま)」

「豊受媛神(とようけひめのかみ)」

「大歳神(おおとしかみ)」


として登場しますが、


神は民に愛されれば愛されるほど、

幾通りの名を持つように、


東北地方では「農神(のうがみ)」

山梨・長野県では「作神(さくがみ)」

近畿地方では「作り神(つくりがみ)」

但馬(兵庫)・因幡(鳥取)では「亥(い)の神」

中国・四国地方では「さんばいさま」

瀬戸内海沿岸では「地神」


と、土地ごとの愛称で呼ばれ、

現代の人々にも慕われています。


そんな「田の神」が宿る

「依り代(よりしろ)」は、


田のそばの石であったり、

松の木であったり、

カカシであったりしますが、

 

太宰府天満宮の御田植祭で用意された依り代の一部

  

そんな「依り代」に宿る

神や精霊、魂という外来の魂のことを

神道では古くから「マナ」と言います。


「マナ」とは元々メラネシア語で、

人間の力を超越する

神聖な力やエネルギーのことです。


面白いのは、その名残りか、

『旧約聖書』「出エジプト記」第16章に、

神が作った超自然的な食べ物として、


ヘブライ語で、

「これは何だろう」を表す

「マナ(مان, mān)」が登場する事です。


他にもヘブライ語では、

全体のうちの一皿を指す食べ物の事を

「マーナー」と呼んだり、


日本でも「食べ物」、

特に「ご飯」のことを

「まんま」と言ったりしますね。


ちなみに、インド・ヨーロッパ語の

ラテン語系フランス語で

「食べる」の動詞は

manger(マンジェ) 、


イタリア語では

mangiare(マンジャーレ)です。


「マナ」は『旧約聖書』を通し、

世界中に実にさまざまな

解釈があるのですが、


Mの発音は古くから

「地母神」信仰と繋がり、

「母」を表す音でもあります。


筆者にはヒトが初めて口に含む、

母乳のような白い栄養物ー


甘く、温かく、

なんだか説明のしようがない、

懐かしい良い香りのするー


これは、なんだろう?


母と子の繋がりを通して、

子の本能的な欲求に

母親から与えられるものー。


その答えが

「マナ」にあるような気もします。


白く、ふくよかで、甘みさえ感じる

日本人の主食は、


お米。


その研ぎ汁は栄養価が高く、

戦時下にあっては、

貴重な母乳の代用にもなりました。

 

昔ならではの有機米であれば、

 

ビタミンB1、B2、B6、

そして、アンチエイジングに有効な

ビタミンEや、マグネシウムなどが

含まれています。

 

アルカリ性でもあるので、

古くから薬用として

用いられたことでしょう。

 
そして人間の身体を

「マナ」の依り代にできるのも、


神楽や舞を奉納する「巫女」や、

田植え行事にあたって、

「早乙女」となる女性たちでした。


5月5日は「端午の節句」でもありますが、

元々は「女性の節句」です。


その由来は、


田植えの主役である女性たちが、

その準備として女性だけで集まり、

 

「山の神」の良い依り代となって

無事に田植えができるよう、


菖蒲で葺いた小屋でひと晩を過ごし、

薬草である葵や菖蒲の香りで、

「禊(みそぎ)」をしたことにあります。


母なる大地の神の恵みを受けて、

秋にまた、白く艷やかなお米が

たくさん実りますようにー。


そうした祈りを込めながら、

最大限、そして最新の注意を払って、


ハレの特別な着物を着た早乙女たちが

「田の神」を田んぼに

「霊鎮(たましず)め」したのが、


「田植え」であり、

「御田植祭」ではと感じます。

 

太宰府天満宮の御田植祭の様子


ちなみに、


「かぶき踊り」で有名な

歌舞伎の創始者となった、

「出雲阿国(いずものおくに)」も

出雲大社の巫女であったようです。

 

「次候」(5月10日~5月14日)は、

「蚯蚓出(みみずいづる)」頃。

   

 

 

ミミズが活発に活動する頃です。


ミミズは土の中を動き、

空気の通り道を作ったり、


土や落ち葉を食んで、そこに含まれる

有機物や小動物を消化吸収して、

 

リンや窒素を含んだ排泄物を

栄養分として土に返し、

 

土壌改良をしてくれる益虫です。

 

また鳥や小動物、

さらに雑食性のイノシシやクマなど、

大型動物の食料となったり、

 

食物連鎖の始まりを構成する

役目も担っています。

  

ところで、

  

九州出身の筆者は、

山の中で大きな

青色のシーボルトミミズに出くわし、

びっくりした事があります。

 

ミミズにも色んな種類があったのです。

 

他にも国内で見られる大型ミミズには

ナラオオミミズや、

外来のハッタミミズが知られますが、

 

実は外来種と言えば、

耕作地によく見られ、

日本固有と思われていた

ヤマトジュズイミミズが、

 

中国の長江下流・雲南・西ヒマラヤ、

また中国北東部や朝鮮半島にも

生息していることが分かりました。

 

もしかしたらミミズも、

私たち日本人のご先祖さまと一緒に、

渡来したのかもしれません。

 

またミミズは漢方薬で、

 「赤竜」「地竜」

 「蚯蚓(きゅういん)」と呼ばれる

 解熱や喘息に効く生薬でもあります。

  

特定のミミズは、

血栓を溶かす酵素を持っていることも

知られています。

  

長い歴史から、人類はミミズと

共生する術も知っていたのですね。

 

「末候」(5月15日~5月19日)は、

「竹笋生(たけのこしょうず)」頃。

  

 

 

夏の季語でもあるタケノコが顔を出すと、

いよいよ初夏の始まりです。

  

タケノコと聞くと、

子どもの頃に「タケノコ掘り」した

楽しかった一日を思い出す人も

多いのではないでしょうか。

  

タケノコを掘り起こすためには、

やっと持ち上げられるようになったクワで、

 

意外と地中深くまで、

根気よく掘り進めることが必要で、

なかなか力も要るため、

 

最後は、いつも笑顔の

優しいおじちゃんたちと交代して、

  

やわらかい腐葉土の上に

ごろんとタケノコが現れた暁には、

  

「大人はやっぱりすごいなぁ。」

 

と、尊敬の眼差しを向けていた事を

思い出します。

  

皮を剥ぐのは子どもの仕事ですが、

扱うと、お風呂に入るまで、

タケノコの毛がまとわりついて

チクチクしたものです。

  

家族みんなで採った旬のタケノコを

鷹の爪と一緒に

米の研ぎ汁で湯がいた後は…

 

サンショを添えた

シンプルな酢味噌あえや、

 

定番のタケノコご飯が

美味しかったなぁ!

 

(文責:松田佳子)

 

【脚注】

 

【参考文献】

  この記事を執筆するにあたり、以下を参照させて頂きました。

 

【参考サイト他】

 ・ヤマトジュズイミミズ、日本産ミミズ大図鑑。
https://japanese-mimizu.jimdofree.com/%E3%83%9F%E3%83%9F%E3%82%BA%E3%81%AE%E5%88%86%E9%A1%9E/%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%82%BA%E3%82%A4%E3%83%9F%E3%83%9F%E3%82%BA%E7%A7%91/%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%83%88%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%82%BA%E3%82%A4%E3%83%9F%E3%83%9F%E3%82%BA/(2020-05-03)

 

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【タグ】

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太陽黄経30度「穀雨」の節気

4月20日11時24分

太陽黄経30度、

『二十四節気』「穀雨」の節気に

移行しました。

 

今年も実り豊かな秋を迎えるために

この時期の雨は欠かせません。


太陽の日照時間が長くなって、

空気はぬくもり、湿り始めます。


天の恵みとしてもたらされた雨粒が

万物を育み、

生命の営みのサイクルが本格化して

成長の段階を迎えます。

 

はじめの4月20日~4月25日にあたる

「初候」は、

「​​​​​​​​​​​​葭始生(あしはじめてしょうず)」頃。

 

  

 

水辺のアシの背が伸びてくる頃です。


アシはヨシとも呼ばれ、

イネ科の多年草で背が高く、

高さ2~3mにもなります。

アシは葦、芦、蘆、葭、などと書きます。

 

自然浄化作用があり、

他の植物を寄せ付けない

アレロパシー作用とのダブル効果で、

 

また敵から身を隠すのにも有利であるため、

水鳥やカニなどの野生生物を保護し、

独特の生態系である

「アシ原」を作り出します。


「アシ原」と言えば

エジプトの葦原「アアル」や

ヘブル語の葦原「カナン」、


また『記紀』や『大祓詞』に登場する

「豊葦原(とよあしはら)」という

日本の国の美称がありますが、

これはアシが豊かに繁る国土を表しており、

 

特定の地域、国、

あるいは地球を指すなど、スケールの大きい

色々な解釈がされていますが、

水の恵みのある処には違いないようです。


しなやかな茎は強風にも強く、

倒れては起き上がり、

まっすぐ上へと成長します。


その加工のしやすさから、

天然素材として重宝され、

 

古代から燃料、すだれ、竿、

武器(矢)、紙、ペン、

除草、肥料、食料、

生薬として活用されたほか、


ギリシア神話にも

「葦笛」として登場し、


その系統に、

「伏儀」とも「瞬」の作とも言われる

中国の「羌笛(きょうてき)」が

東アジアに伝わり、

 

竹製の単管またはパンパイプ型で

現在も雅楽で使用されている

「笙(簫)」があります。

 

Image: 榆林窟中的唐代壁畫, 笙, CC, Wikipedia.


「笙」にも種類があって、

中国貴州産の

直径約1.05cmの「玉屏簫」から、

 

福建産の「南曲」の伴奏に使われる

尺八のようなものもあります。

日本の尺八もまた仲間です。

  

さらにヨーロッパのルーマニアや

南米にも同系の笛があり、

モーツアルトの「魔笛」も

その仲間のようですよ。

 

「次候」(4月26日~4月30日)は、

「霜止出苗(しもやんでなえいづる)」頃。

   

 

霜がやみ、イネの苗が伸びる頃です。

 

朝夕の寒暖差が緩やかになり、

1日の平均気温が10℃以上で安定します。

 

農家では5月上旬から始まる

田植えから逆算して20日頃を目安に

種まきをし、発芽させます。

 

まだ柔らかなイネの苗は

「早苗」と呼ばれ、

 

「御田植祭」では

ハレの衣装を見に付けた

早乙女が植える、

田の神の宿る「神苗」となります。

 

ちなみに、

 

「委」の甲骨文字は

元々左辺に「(膝まづく)女」、

右辺に稲穂を表す「禾」が

組み合わされていました。

 

Image: http://qiyuan.chaziwang.com/etymology-1898.html

 

稲穂は田の神そのものであるため、

 

自然の大いなる働きの元に膝まづき、

人々と神の橋渡し役を務め、

秋にはその恩恵を厳かに受け取ったのも、

また女性だったようです。

 

「末候」(05月01日~5月5日)は、

「牡丹華(ぼたんはなさく)」頃。

  

 

牡丹の花が咲き始める頃です。


牡丹と芍薬はよく混同されますが、

厳しい冬を越した枯れた低木に

早春に燃えるような花芽を伸ばし、

この時期に咲く大型の花なら牡丹です。

 

色は白、黄、黄緑、ピンク、赤、紫など、

インパクトのある

鮮やかな発色とは対象的に、

 

花びらは透き通るように薄く、繊細で、

近づくと独特の薬香があります。

 

生薬「牡丹皮」として

根の樹皮に含まれる薬効成分ペオノールは

月経痛や産後回復などに用いられる

婦人薬の代表的存在です。

 

原産は中国西北部原産で、

「花の王者」と呼ぶのにふさわしい

堂々たる風格が愛され、

 

唐の玄宗の頃の記録に

同じく婦人科の妙薬であり

花が似ている草木の「芍薬」

「木芍薬」として登場し、

 

一説には隋の煬帝や

則天武后が愛でたという故事もあります。

 

唐代よりさかんに詩歌に登場し、

1929年に中国の国花が梅と定められるまで

清代(1616年~1912年)から

中国の国花として扱われました。


日本でも初めて藤氏長者となり、

「陽明家」の通称でも知られる

藤原北家近衛家の家紋が

「近衛牡丹」です。

 


Image:近衛家,CC. Wikipedia. 

 

他にも「鍋島牡丹」や「島津牡丹」が

知られています。

 

 立てば芍薬

 座れば牡丹

 歩く姿は百合の花

 

いつも周囲を明るく照らす

花ある女性でありたいものです。


(文責:松田佳子)

 

【脚注】

【参考文献】

  この記事を執筆するにあたり、以下を参照させて頂きました。

【参考サイト他】

 

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