研究ブログ

2017年4月の記事一覧

情報って何?(6):教育での応用例(2/3)

前回、教育のポイントは体験や試行錯誤で、これを『情報化』(システム1→システム2)と捉えました。
今回は、講義での具体的な教材を取りあげて、この情報化について見ていきます。特に、昨年度から
9年担当してきた「データ科学」を担当しなくなったので、どんなことをしてきたのかまとめてみた
いと思います。この講義がきっかけで「小学生に教えるフーリエ変換」という体験もでき、自分に
とっても思い出深い講義です。結論めいたことを先に書くと『講義を作るのは教員だけではなく、
学生さんとのコラボで作るもの』ということでしょうか。
 
以前の担当者は、画像認識の授業をされていて、引継ぎの時には「データ科学という名前なんだから、
画像認識である必要はなくて、自分の研究で扱うデータに関連したことを教えればいいですよ」と
いった趣旨のアドバイスを受けました。しかし、画像認識の中でフーリエ変換が扱われていて、
物理学科出身の自分には懐しかったので、基本的に同じ内容を引継ぐことにして、少しずつ改善
していきました。そして、平成21年度から「これなら分かる応用数学教室―最小二乗法から
ウェーブレットまで」(金谷 健一)を教科書として、この流れに沿った授業にしました。
 
この教科書では、具体例からより抽象的な理論を構築するという流れになっています。
例えば、最小二乗法は、まずデータを直線で近似(単回帰)する場合の直線の求め方から始まり、
二次関数、三次関数からn次多項式での近似と進みます。議論の流れは同じで、何が共通して
いるか(本質的か)が見えやすくなっており、これを受けて、最終的には一般の関数による近似と
なります。つまり、前回のエントリと同じく、例から始めて帰納的に仮説を取りだし、
演繹的に証明する、という流れが基本です。
 
さらに、1コマの授業のフォーマット自体を試行錯誤し、学生さんたちがまず自分たちで考えてから、
その後説明する、という形式にしています。反転講義とも似ていますが、これは説明と演習を行う
場所を変えた(家で説明を読む・見る、学校で演習する)のに対し、そもそも未知のことを考えることを
重視しています。例えば、最小二乗法でいうと、「n個のデータを直線で近似する時に、どういう
直線がよいか、傾きと切片を求めなさい」というところから始まります。授業では、まだ最小二乗法が
何であるかは説明しておらず、多くの場合、データ点と求めるべき直線の間に垂線を引き、垂線の長さ
(つまり、距離)の和を最小化しようとします。しかし、距離を求めるのは意外に難しいことに気付き、
どうしようとなったあたりで、少しヒントを出したります。
 
このようにすることで、定義を頭ごなしに与えられてきたものでも、どういう意味があるのかを自分で
考えることになります。例えば、ある年の授業中に、学生同士で話しながら実習をしている時に、
ある学生がボソッと「内積の意味が分かったかも」と言ったのを聞いたことは、非常に嬉しい経験でした。
 
このような試行錯誤以外にも、様々な体験型の教材や問題を考えてきました。
以下に列挙しておきます。まず、サンプリング定理や周波数に関連して
  • CD+ダンボールによる手作りプリズム
  • 自作のウォーターパール(写真)
  • ツウィンクルピクト
  • 扇風機とマルチストロボ
といったものを使いました。ウォーターパールとツウィンクルピクトは、こちらのエントリ(ウォーターパールの仕組み)に写真がありました。また、直交基底による情報の表現に関して、ブロックの形を送る時にどうやって送ろうか、という状況を考え、「矩形波ブロック(実質はアダマール基底)」を送るということにしました。こちらのエントリ(小学生に教えるフーリエ変換)の4色の図です。これを元に、iPadアプリによる矩形波ブロックの計算するHTML5+JavaScriptのアプリも作りました。
 
このような体験は、比較的学生さんに好評だと思っていますが、特に受けが良いという学年があります。学年のカラーなんでしょうか。このような年に、面白い実習問題や教材が増えるように感じています。つまり、講義を作るのは教員だけではなく、学生さんとのコラボで作るものだなあと感じだ授業でもありました。
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