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2021年5月の記事一覧

ウォーターパールの仕組み:水の形編

なんだかタイトルが鬼滅の刃っぽくなってしまいましたが、今回は、ウォーターパールで水の形がなぜグネグネなるかについて説明します。この発端は、久しぶりにきたウォーターパールに関する質問でした。以前、同様の質問がきたときに「ウォーターパールの仕組み」にまとめたつもりでしたが、前回も今回も、質問した方は二つの違う現象についてを混同しているようでした。私のほうは、水が上昇して見えたり、止まって見えたりする現象(これをウォーターパールと呼ぶことにします)のほうに興味があると思いこんでいたので、もう一つのほう、つまり、水の形がグネグネして見える現象については説明していませんでした。後者の現象に名前がついているかどうかは分かりませんが、原理から考えて、ここではこのグネグネと水の形が変形する現象を「振動する水」と呼びましょう。

まずは、ふたこれら二つの現象がよく分かる動画(Amazing Water & Sound Experiment #2)を見てみましょう。上記のエントリにも貼ってあります。また、二人の質問者のどちらとも、この動画を見たようでした。

まず、「振動する水」が約20秒あたり("produce 24hz sine wave and adjust volume"という字幕が表示されて)から約1分5秒あたりまで、この現象だけが見えます。このあと1分6秒あたりで"25hz forward effect"と出てから、この現象に加えて、「ウォーターパール」が確認できます。つまり、グネグネと水の形が曲った上に、通常のスピードよりゆっくり水が落ちているように見えます。これは、動画をスローモーションにしているわけではなく、普通のスピードで再生していて、このように見えています。

この後1分45秒あたり("23hz reverse effect"の字幕)から、水が上に昇っていくように見えます。これが特殊効果や編集でないことは、1分50秒あたりで、実物の水が地面に落ちているにもかかわらず、水が上に昇っている様子が写されていることから分かります。

ウォーターパール現象の説明は、冒頭でリンクした別エントリを見てください。ここでは、もう一つの「振動する水」を説明します。結論から言うと、この現象はホースを振動させているから、水の形がそれに応じて変わっているだけです。ホースを手でブンブン振動させたら、出てくる水の形が変化するのと同じです。この動画では、手ではなく、スピーカーを通して音の振動をホースに伝えています。動画の最初のほうで、ホースをガムテープのようなものでしっかりスピーカーに固定しているのが確認できます。

ただ、音の振動による物理的な振動の振れ幅はそれほど大きくないので、振動を与えているようには見えないかもしれません。ある程度近くでスピーカーを見るか、触らないと、物理的な振動には気付かないと思います。この動画では1分30秒前後で、水の出てくるところをズームアップしてくれているので、ここを注意深く見ると、ホースが物理的に動いているのが分かります。

この振動は正弦波やサイン波、サインカーブなどと呼ばれるもので、数学的には三角関数のsin(x)の形をしています。実際、字幕にも"sine wave"(サイン波)と表示されています。普通の生活で我々が耳にする音は、複数の音が複雑に重なりあっているのですが、一つの音(例えばドの音)などは、キレイな正弦波の形をしています。逆にいうと、このような音が複数重なって、複雑な音になっています(重ね合せの原理やフーリエ変換など)。このようなキレイな正弦波の音(振動)を出すのがトーンジェネレータで、この動画の最初のほうでもtone generatorを使っていることが分かります。

正弦波の形は、例えば、こちらのページ(Wikipedia)などで確認できますが、よく見る形は二次元上の線です。この動画では、ホースの先端はある程度自由に三次元内で動くので、二次元上の線ではなく、動画のように円筒のまわりを周回したような感じに見えます。これが、かなり特殊で不思議な感じに見えるのでしょう。

一つの動画だけだと、この動画が特殊なことをしているように疑う人もいるかもしれませんが、トーンジェネレータはスマホでも動くし、スピーカーも簡単に手に入るので、誰でも作ることができます。実際、中学生向けのイベントで、同様にスピーカーの振動を使って「振動する水」と「ウォーターパール」を再現した時の動画があるので、ご覧ください。さきほど動画ほどきれいな線ではありませんが、やはり、グルグル回転したような感じになっています。また、この動画にはありませんが、振動の形を変えれば水の形が変わることも確認しています。

さて、YouTubeの動画は非常に明るいのに対し、我々の動画が暗いのは、ウォーターパールを再現するための仕組みが違うからです。YouTubeのほうは、カメラが飛び飛びの瞬間を記録していることを利用しているのに対し、我々の動画は暗くした上で、高速で点滅するストロボフラッシュを使って飛び飛びを実現しています。そのため、この現場に居て肉眼で見ても「ウォーターパール」が確認できますが、YouTubeの動画のほうは、振動する水は肉眼で見えますが、ウォーターパールは肉眼では見えません。保存した動画でなくても、カメラを通して見れば、見ることができます。実際にそのような実験をしたこともあります。一方で、我々の動画では、その場にいる人が興奮している様子が分かると思いますが、これはカメラを通さずに、ウォーターパールが見えるからです。

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