南国雑記帳(全卓樹)

2009年12月の記事一覧

金融工学と Mathematical Finance

最近のどこかでの昼食時、偶然同席にあずかった、工学のさる偉い先生との会話です。いくつかの大業績で世界的に知られた大家で、由緒ある某学会長も勤められ、今はさる大組織の長をやっておいでの、畏れ多い方です。

何かの拍子に、彼が「金融工学という名前は怪しからん」とお怒りの叫びをあげられました。

S先生「誰がこんなものに工学という名を付けたんだ?金融崩壊のあと突然”金融工学”、”金融工学”と、世間で我々の後ろ指をさすようになった。何の関係もない我々真面目な工学屋からすれば迷惑千万な話しで、本当は金融数学 Mathematical Financeだろ。」

全「仰せの通りです。こんな空想的な危ないものには、工学関係だと手を出さないではないかと存じます、はい。」

S先生「数学屋はヤバくなるとスマートに逃げるの得意なんだよな。真面目一方の工学屋に責任おっかぶせたりりして。工学は仮に人騙すにしても、そんなべらぼうはしないもんだよ、まったく。」

全「ええ。ものから離れた分野ほど法螺も大きくなるようです。それに本当いうと、この話では理論物理屋も残念ながら同罪です。ウォール街のハイテクファイナンス主導したのは、かなりが素粒子理論のポスドクから転じた人ですから。」

S先生「うん、そうだろう。自分たちは甘い汁吸い尽くして、もうカスしか残らくなった時点で、つけを一般国民に廻す。ついでに”数学”や”物理学”の筈を”工学”と言い換えて学問の名目上のつけまで、無罪の他人に廻すなんて、まったく横着で怪しからんよ。」

全「それに関しては、私には理論がございます。」

S先生「またまた理論物理屋の手前味噌な空論かい。でも聞いてやるよ。」

全「素粒子理論のポスドクから Mathematical Finance に転じた人たちって、なんというか挫折した学歴エリートの屈折感みたいなのがあるんで、心の底のどこかに、俺の天才を理解せずこんな待遇をした社会に復讐してやろう、という思いがあったりするんじゃないんでしょうか。」

S先生「ふあはは、それはお前自身の心を振り返っての感想か。正直物理屋の独善的な傲慢さは常々怪しからんとおもってた。が、まあそういうことをあけすけにいう点、物理屋は正直だって事だけは、唯一評価できるな。」

全「お褒めいただき、痛み入ります。」

S先生「それに比べて化学屋なんかは、立ち回りが巧く、徹頭徹尾ポリティカルで誠実さの欠片もない。N先生なんか、先週の霞ヶ関の審議会で、また強引な事を言ってみんなの顰蹙買ってたよ。」

全「たしかにマスコミ上でも、そこまでおっしゃるかという威圧的なご発言まであって、ちょっと恐ろしゅうございました。」

S先生「一昔前は物理帝国主義だったのが、いまの日本の科学は化学帝国主義だよ。科研費の区分なんかも、化学だけ独立で、おまえらも数物系科学とひとまとめ。俺たちは工学でひとまとめだよ。全く酷い怪しからん話だ。」

S先生の怒りはとどまるところを知りませんでした。

数学、物理、化学と諸科学が軒並みメッタ切り、生物学が怪しからん、と言われなかったのは、単にS先生の時間の後が詰まっていて、早めに昼食を切り上げられたからにすぎないのでしょう。

審議会での政治の側からの削減要求と、学会の中の下からの突き上げの板挟みにあわれてるのでしょう。学界の偉い人は偉い人で、大変な心理的ストレスの中、心の休まらない日々をお過ごしなのだろうと、とても同情を感じました。(えっと、口先だけで感じてます。)

どのような立場でも、宮仕えはつらいものですねえ、ほんとうに。


それはともかく、学問から派生して、すぐに役立つと騙る詐欺話が出てくる場合でも、たしかに分野ごと、その学問の特徴を反映するものですね。

ものの見方を根底から変える人々方面からは、数理、量子等と称する、途方も無いぬれ手に泡の空想話。

既存のものを順次改善して快適にして行く人々方面からは、環境、エコ、ナノ等を称する、ありきたりの古いネタに看板付け替えだけの食わせ話。
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