研究ブログ

2012年6月の記事一覧

【本日開催】日本アジア研究会第16回大会

本日と明日、日本アジア研究会(ASCJ: Asian Studies Conference Japan)の第16回大会であるASCJ2012が立教大学を会場に開催されます。


今回は、ASCJの上部組織であるアジア研究協会(AAS: Association for Asian Studies) の前会長であるカリフォルニア大学サンタクルーズ校のゲール・ハーシェッター教授による基調報告のほか、45のセッションで合計175件の報告が行われます。


6月16日の本欄でもお伝えしたとおり、私も早稲田大学のマートライ・ティタニラさんがオーガナイザーを、ロイヤルメルボルン工科大学のシェリー・ブラントさんが座長を務める第28セッション"Tokyo Now and Then: A Profile of the Changing City"に参加し、昨年に引き続き発表いたします。


参加費が必要ではありますが、アジア研究の最新の動向を知るための格好の機会ですので、予定が合い、興味ある方は、ぜひご来場ください。


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日本アジア研究会第16回大会(ASCJ 2012)


<日時>
第1日目:2012年6月30日(土)、10時から20時20分
第2日目:2012年7月1日(日)、9時30分から17時15分


<会場>
立教大学池袋キャンパス


<参加費>
4000円(大学院生:1500円)

<大会の詳細>
ASCJ公式サイト
http://www.meijigakuin.ac.jp/~ascj/
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<Executive Summary>
16th Asian Studies Conference Japan (ASCJ 2012) (Yusuke Suzumura)


16th Asian Studies Conference Japan (ASCJ 2012) will be held at Rikkyo University on 30th June and 1st July. I will make my presentation in the Session 28 titled "Tokyo Now and Then: A Profile of the Changing City". Why don't you join this conference?

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【再掲】シェリー・ブラント博士講演会(法政大学国際日本学研究所)

2012/06/11 【開催案内】法政大学国際日本学研究所勉強会  | by:suzumura

すでに6月11日(月)の本欄でもご案内しましたが、来る7月5日(木)、18時30分から20時30分まで法政大学国際日本学研究所の研究アプローチ(4)「<日本意識>の三角測量―未来へ」の2012年度第1回勉強会が開かれます。


今回は、オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学メディア・コミュニケーション学院専任講師のシェリー・ブラント氏を招き、「「歌でつなごう―NHK紅白歌合戦における国民の上演―」と題して行われます。


報告の概要は、以下のような内容となっています。


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贅沢な舞台の設計、優美な衣装、そして紙吹雪の嵐によって、紅白歌合戦は日本のポピュラー音楽の年間行事の頂点に君臨している。テレビで放送される歌合戦の芝居がかった様子は素晴らしいものの、最も人々の心を捉えるのは、敵同士の無慈悲な争いからは程遠い、競い合う二つの組の間の一体感の描写なのである。本発表は、人々が共有された過去の音楽を思い出すための格好の機会となるようプログラムを構成するためにNHKが用いた戦略を、第60回紅白歌合戦(2009年)のテーマである「歌でつなごう」を引用しつつ検討する。今回は、発表者が過去10年以上に渡って行ってきたフィールドワークから描き出される紅白歌合戦の歴史的な側面を用いるとともに、美空ひばりからジェロに至るまでの重要な出演者たちの足跡も分析する。それにより、「国民」の構造が、一晩の間だけ一体となる、友好的な「パフォーマンスのコミュニティ」としての紅白二つの組の描写から始まることが議論される。最終的には、過去と未来の世代の間をつなぐ文化の類型である、作り出された伝統としての紅白歌合戦に期待される象徴的、儀式的な機能を明らかにする。
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60年以上にわたって同じ放送局から同じ日、同じ時間帯に放送され続けている世界でも他に類を見ない番組である紅白歌合戦の歴史的な展開と実地調査の結果を通して、「出演者と視聴者を結びつけ、そして一つの記憶を共有させる媒体としての紅白歌合戦」の象徴性、儀式性を検討する今回の報告は、日常的な出来事を通して「日本とは何か」という事柄を考える上でも意欲的な試みと言えます。


興味があり、予定の合う方は、ぜひご来場ください。


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文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(平成22年~平成26年)
「国際日本学の方法に基づく<日本意識>の再検討―<日本意識>の過去・現在・未来」
アプローチ(4) 「<日本意識>の三角測量―未来へ」
2012年度第1回勉強会 「「歌でつなごう―NHK紅白歌合戦における国民の上演―」


<日時>
2012年7月5日(木) 18:30-20:30


<会場>
法政大学市ヶ谷キャンパス58年館2階国際日本学研究所セミナー室


<報告>
シェリー・ブラント氏 (ロイヤルメルボルン工科大学メディア・コミュニケーション学院専任講師)
*英語での報告となります。日本語の通訳がつきます。


<通訳>
パット・サベジ氏 (東京藝術大学)


<司会>
安孫子信 (法政大学国際日本学研究所所長・文学部教授)


<申込方法>
標題に「アプローチ④第1回勉強会(7/5)参加希望」、本文に氏名、所属、住所、電話番号をご明記の上、下記までご連絡ください。


法政大学国際日本学研究センター事務室
nihon@hosei.ac.jp


<詳細情報>
法政大学国際日本学研究所
http://hijas.hosei.ac.jp/tabid/1044/Default.aspx
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<Executive Summary>
1st Research Meeting of Research Approach (4) of 2012 of Hosei University Research Center for International Japanese Studies (Yusuke Suzumura)


1st Research Meeting of Research Approach (4) of 2012 of Hosei University Research Center for International Japanese Studies will be held on 5th July. Speaker will be Dr. Shelley Brunt of RMIT University and theme will be ‘Let’s Connect Through Songs’: Performing the Nation in NHK’s Kouhaku Utagassen.

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法政大学国際日本学研究所2012年度第3回東アジア文化研究会

昨日は、18時30分から20時15分まで、法政大学国際日本学研究所セミナー室において、「国際日本学の方法に基づく<日本意識>の再検討―<日本意識>の過去・現在・未来」プロジェクト 研究アプローチ(3)「〈日本意識〉の現在-東アジアから」の2012年度第3回東アジア文化研究会が開かれました。


今回は、北京大学博士研究員のオリビエ・バイルブル氏を迎え、「韓国語における中国語からの借用語と日本語の語彙の影響」と題して行われました。通訳は東京大学教養学部講師の王雪萍氏でした。


日本と同様、独自の文字の体系を持たなかった古代の朝鮮半島の人々は、紀元前108年の漢の武帝による朝鮮半島の支配といわゆる漢四郡の設置によってもたらされた漢字によって、自らの言語を表記するようになりました。本発表では、まず、漢字と中国語の語彙が朝鮮半島の言語に与えた影響が考察されました。


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5世紀に朝鮮語が最初に経験した影響は、朝鮮語の固有詞を漢字の表記に合わせるために改変したり放棄する、というものでした。


第二の段階は5-15世紀に起きた「中国語の意味と発音を表記する」というもので、この結果生まれたのが音借漢字語、あるいは借用語でした。この時期は、朝鮮語の表記のために漢語の借用が行われました。


そして、1446年の世宗による訓民正音の導入を契機として起きた変化が第三の段階となります。この段階では、漢字を用いるものの朝鮮語の発音に従い、朝鮮語の発音の体系に沿わない漢語は別の言葉に置き換えるという音読漢字語あるいは漢字語が用いられました。


さらに、19世紀になると従来の中国大陸からの影響に加えて日本語の語彙の流入が始まりました。


日本では明治維新後に西洋の文物が本格的に導入され、それに対応する形で従来の漢語にも日本語にも存在しなかった新しい表現が生み出されるようになりました。「政策」、「経済」、「社会」といった和製漢語は、西洋の知識とともに日本経由で中国や朝鮮に流入しました。


また、1910年に日本による朝鮮半島の植民地化が始まると、「内鮮一体」という政策の下に、「畢業」を「卒業」に、「安民」を「警察」に置き換える、というような、漢字語を和製漢語に置き換える施策が進められました。


1945年以降になると、今度は日本国内で和製英語が盛んに作られるようになり、韓国語も影響を受けるようになりました。


このように、韓国語は漢語や日本語の影響を受けてきましたが、韓国では2004年から外来語を韓国語の表記に置き換えようとする「国語純化運動」が始まりました。実際には置き換えは容易に進んでおらず、日常の語彙から外来語が全くなくなる、ということは起きていません。


一方、北朝鮮においては、1966年に金日成政権が言語浄化政策を進め、漢語、漢字語、和製漢語、和製英語、英語などの影響を排除した結果、言語の純粋化はある程度まで達成されました。


しかしながら、「主体思想」や「無産階級」といった北朝鮮の国家の核心をなす用語も「思想」や「階級」といった和製漢語によって表現されており、言語の純粋化は進んでもよりよい表現のためには外来語などの利用を避けられないことが示されているといえるでしょう。


このように、様々な過程を経て今日に至る韓国と北朝鮮の言語ですが、将来朝鮮半島の統一がなされたときに、外来語などが多い韓国と外来語を排除した北朝鮮との間で統一の字典が作られ得るか、興味深く思われます。
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他の言語の影響という観点から韓国語を分析した今回の発表は、かつて比較文法家の風間喜代三先生が『ことばの生活誌』(1987)と『ことばの身体誌』(1990)の中で打ち出した「言語は話し手の文化と歴史を自ずから担っている」という観点を傍証する、示唆に富むものでした。


<Executive Summary>
The 3rd Research Meeting of East Asia Culture Research Meeting of 2012 of HIJAS (Yusuke Suzumura)


The 3rd Research Meeting of East Asia Culture Research Meeting of 2012 of Hosei University Research Center for International Japanese Studies was held at 18:30-20:15 on 27th June. Speaker was Dr. Olivier Bailble (Post-doctoral Researcher, Peking University) and theme was "Chinese Loan Words in Korean Language and the influence of the Japanese Lexicon".

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「造反議員」への処分は民主党の党内統治能力を試す

昨日、衆議院において、消費税増税法案が民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決されました。


民主、自民、公明の3党の協調体制が維持されれば、参議院での審議を経て、消費税増税法案などは8月上旬にも成立する見通しです1


一方、民主党の反増税派のうち鳩山由紀夫元首相、小沢一郎元代表ら57議員が反対票を投じ、15議員が棄権ないし欠席したため1、党の方針に従わないいわゆる造反議員は少なくとも57名、最大で72名となりました。


当面は、いわゆる造反議員自身の処遇を巡って民主党の内外に多少の動きが見られるものと思われます。

ただし、すでに本欄の指摘するように2、もしここで「党内の融和」を唱えて、造反議員に下す処分を「厳重注意」などに留めれば、「数を集まれば何をやっても許される。大きな声を出したもの勝ちだ」という誤った意図を伝えてしまうだけでなく、そのようにして得られる「党内の融和」が真に賛成派と造反派の和解をもたらすかは不明であるため、今後の民主党の党運営に禍根を残すことはあり得べき現実の姿です。


従って、政権党であり続けることを重視して表面的な融和を保つという弥縫策を用いるのではなく、正しいことは正しいと評価し、罰せられるべきを罰するのでなければ、民主党は、党の規律だけでなく、国民の信頼をも維持し得ないでしょう。


民主党は、党利党略に囚われず真に優先すべき事柄の順位付けを見誤ることなく、造反議員を処分すべきなのであり、試されているのは民主党の党内統治の能力なのであります。


1 消費増税、衆院を通過、民主57人反対、分裂状態、首相「厳正に対応」. 日本経済新聞, 2012年6月27日朝刊1面.
2 鈴村裕輔, 民主党は「造反議員」を厳罰に処せ. 2012年6月24日,
http://researchmap.jp/joa51z7ec-18602/?block_id=18602&active_action=journal_view_main_detail&post_id=16255&comment_flag=1.


<Executive Summary>
The Democratic Party of Japan: The Tested Party of Its Governance Capacity (Yusuke Suzumura)


The measure of the increasing consumption tax has passed in the House of Representatives on 26th June. The matters at hand may be an attitude of the executives of the Democratic Party of Japan toward dissenters of the measure. They shall be conscious of a fact that what is tested is the decision of the DPJ's governance capacity.

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「店-20人のイラストレーターが描く思い入れあるお店-」展

去る6月24日(日)、16時10分から16時30分まで、外苑前のオーパギャラリーにおいて、「店-20人のイラストレーターが描く思い入れあるお店-」(http://www.geocities.jp/opa_gs/html/event20120622.htm)を鑑賞しました。


本展は、町田イラストレーター専門学校の卒業生が中心となって毎年6月にオーパギャラリーで行っている展覧会で、今回は、20人のイラストレーターが、ゆかりの店、思い出の店などを版画や水彩画などそれぞれの表現方法で描き出していました。


今回の出店者は以下の20人でした。


浅妻健司
石川彩
いのうえふみ
大石香織
大木創太
勝亦勇
菊池まゆ
しまさわら
鈴木麻美
ダイソンアキラ
高井賢
田中千春
野村賢斗
葉若俊也
平戸正和
宮城遥香
村田歩美
矢作信雄
kao
山路枝里子
(以上、五十音順、敬称略)


町田イラストレーター専門学校の講師である版画家の矢作信雄さんを中心に、中堅、若手が描く日常の一齣は、表現方法の多様さも相まって興味深いものでした。


会期は6月27日(水)までですが、お時間と興味のある方は、ぜひご覧ください。


<Executive Summary>
The Exhibition "Mise" at Opa Gallery (Yusuke Suzumura)


The Exhibition "Mise (The Shops)" are held on 22-27 June at OPA Gallery (Shibuya, Tokyo). There are 20 illustrators , most of them graduated from Machida Design School, and they exhibit which are most impressive or meaningful shop in their daily life.

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ジャパン・グスタフ・マーラー・オーケストラ第9回定期演奏会

昨日は、14時から15時50分まで文京シビックホール大ホールにおいて、ジャパン・グスタフ・マーラー・オーケストラの第9回定期演奏会を聞きました。


今回は、井上惟喜の指揮でマーラーの交響曲第9番が演奏されました。


寸評は以下の通りです。


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ジャパン・グスタフ・マーラー・オーケストラの第9回定期演奏会は、井上喜惟の指揮により、マーラーの交響曲第9番を取り上げた。


曲想が断片的に連なるため、マーラーの交響曲第9番は、一体感あるいは統一感のある演奏を行うのが容易ではない作品である。


そのため、演奏者の技量の水準が高度であるか、演奏者が技術面での物足りなさを意欲で補うかのいずれかでなければ、聞き手の注意を逸らさない演奏を実現することは難しい。これに加えて、指揮者には重層的な譜面を丁寧に分析する能力だけでなく、どのようにまとめ直すかという構成力も問われる。


今回の演奏について演奏者に焦点を当てると、演奏そのものに大きな破綻はなかったものの、人数に比べて音量の小ささが気になった弦楽器、音色に洗練の余地のある木管楽器、音量はあるものの持続力に欠けた金管楽器、正確さが足りなかった打楽器と、改善が必要となる内容であった。


特にコンサートマスターの山本幸一の存在感が乏しかったことは、今回の演奏が破綻はないが迫力もない、小さくまとまる方向に進んだ原因の一つであったと思われる。


一方、指揮者の井上喜惟は、各楽器あるいは旋律の腑分けは熱心に行うものの、分解した後の再構築には関心を持てなかったようで、楽譜を左から右、上から下へと進めるだけの振りようであった。


それでいて、第4楽章では、最終小節を振り終えた後に余韻に打ちひしがれるかのような素振りを見せることは、当人にとっては喜悦の瞬間であったかも知れないものの、聞き手としては前後の脈絡のなさに唐突さと違和感を覚えざるを得ず、井上自身が体感したことを示唆しようとした何らかの感情的な要素を共有することは難しいものであった。


身じろぎ一つしない井上を目の前にした客席から咳払いが散発的に生じたのは、そのような指揮台と客席との間の距離感を反映しているものといえよう。


いずれにせよ、技術と技術を支える情感のどちらも不足し、しかも全体を牽引する指揮者の曲に対する理解に疑問符が付いた今回の演奏は、読書や喫茶の背後で耳にするにはよいものの、鑑賞そのものを目的とする場合にはやや物足りないものであった。

*ジャパン・グスタフ・マーラー・オーケストラ第9回定期演奏会, 2012年6月24日(日), 14時から15時50分, 文京シビックホール大ホール.
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<Executive Summary>
Stage Review: Japan Gustav Mahler Orchestra the 9th Regular Concert (Yusuke Suzumura)


Japan Gustav Mahler Orchestra held the 9th Regular Concert at Bunkyo Civic Hall Main Hall on 24th June. They played Mahler's 9th Symphony and conductor was Hisayoshi Inoue.

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民主党は「造反議員」を厳罰に処せ

読売新聞の報道によれば、消費税の増税を中心とする、いわゆる社会保障と税の一体改革に関連する法案の衆議院での採決について、民主党議員のうち、反対票を投ずる意向の者が約50人、欠席ないし棄権を予定しているものが13人いる、ということです1


自民党と公明党が賛成の意向を示しているため法案そのものは可決される見通しですが、消費税の増税の賛否を巡る党内の分裂が深まりを見せることに民主党執行部は危機感を強めているとされます1。野田佳彦首相の支持派はいわゆる造反議員を厳罰に処すべきだとの意見を強めているのは2、造反議員の切り崩しに向けた揺さぶりを試みていることを示唆しているといえるでしょう。


それでは、なぜ造反議員の数が増えるのかといえば、民主党執行部内に「党内の融和」を標榜し、仮に採決において反対票を投じたり欠席ないし棄権しても寛大に対応しようとする勢力が存することが最大の理由といえるでしょう。


輿石東幹事長や、主流派、反主流派のどちらにも与しない、いわゆる中間派がそうした寛大な処分を模索する勢力の中心です。


確かに、厳罰に処することで造反派が全員追放されれば民主党は衆議院の過半数を割り込み、少数与党として厳しい政権運営を強いられることは容易に想像されます。


もし政権党であり続けることを第一に考えるのであれば、政権を維持するために少数与党への転落を避けるために寛大な措置を取ることは妥当な選択といえるでしょう。


しかし、今回の消費税の増税は私利私欲のためではなく、日本の国家財政の構造的な赤字を解消するための選択なのですから、政権党であり続けることを優先することは党利党略以外の何物でもなく、国民の選良として恥ずべき選択といえます。


そして、そのような倒錯した考えに基づいて「党内の融和」を唱えることは、造反派に「数を集まれば何をやっても許される。大きな声を出したもの勝ちだ」という誤った意図を伝えてしまうだけでなく、今後、民主党が同様の場面に遭遇するときにも、同じ結果をもたらすことになるでしょう。


党の利益を優先したために有権者の信頼を損ねただけでなく、党の規律も弛緩した民主党が政権の座を維持するなら、そのような事態こそ国民にとって不利益であり、民主党にとっても最も忌むべき状況ということになります。


「党内の融和」という耳に心地よい言葉に目を眩ませることなく、造反議員に厳罰をもって臨んでこそ、民主党は国民の輿望を担いうる政党でありえるのです。


1 民主造反60人超す. 読売新聞, 2012年6月24日朝刊1面.
2 厳罰か分裂回避か 民主、造反処分で神経戦. 日本経済新聞, 2012年6月24日朝刊2面.


<Executive Summary>
Punish Dissenters Severely: Executives of the Democratic Party of Japan Must Do What They Shall Do (Yusuke Suzumura)


It is reported that there are more than 60 dissenters in the Democratic Party of Japan who will vote against the bill of the increasing consumption tax. However if executives of the DPL will be closed with a minor proceeding, they tell the incorrect information to those who dissent to this bill and will dissent to another bills in the future. In this meaning, they shall punish such dissenters severely not only to the existence of the DPL but also the Japanese people.

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韓国毎日経済新聞の示唆に富む人口減少問題への視点

6月22日の日本経済新聞の国際面に、韓国の毎日経済新聞の社説「急激に老いゆく韓国――若い移民受け入れを」が掲載されました1


「人口5000万時代の韓国の未来戦略」という原題のこの社説2は、日本と同様に少子高齢化の進む韓国の現状を見据え、人口の減少に伴う経済の停滞を回避するために今から根本的な改革が必要である、とし、具体的に次の5つの方策を提示しています。


(1)人口を維持する水準まで出生率を引き上げる総合対策の立案。
(2)外国の若い人材を積極的に受け入れる開放的な文化と移民政策の推進。
(3)財政の健全性の確保。
(4)生涯学習の体制を構築し高度な知識産業を導く人材の育成。
(5)高い成長が見込める新たな分野への投資。


いずれも常識的といえる内容であり、日本において少子高齢化と人口の減少を話題にするときにも参照すべき点が含まれている、といえるでしょう。


ところで、この記事で興味深く思われたのは、人口の減少を「民族の消滅の危機」と捉えていることです。


すなわち、韓国の人口の推移を想定する場合、最も悲観的な予想では2060年の人口は3400万人であり、22世紀初頭には人口は1000万人を下回り、韓民族は消滅の危機を迎える、というのです。


毎日経済新聞と同じく日本の経済紙である日本経済新聞が社説の中で「人口減少は民族消滅の危機である」と説くことはありませんし、他の日本の全国紙や一般紙でも事情は同じといえるでしょう。


これは、民族という事柄が新聞にとって繊細な話題であるためかもしれませんし、論者の念頭に人口の減少を民族の問題から考える、という視点が足りないからかもしれません。


いずれにせよ、毎日経済新聞の論説は、日本の新聞における人口減少問題に関する議論との相違を明らかにしたという点で、示唆に富む内容であったといえるでしょう。


1 急激に老いゆく韓国――若い移民受け入れを. 日本経済新聞, 2012年6月22日朝刊6面.
2 인구 5천만 시대 대한민국의 미래전략. 매일경제신문電子版, 2012年6月20日, http://news.mk.co.kr/newsRead.php?year=2012&no=372949 (2012年6月23日閲覧).


<Executive Summary>
Population Decrease and the Problem of the Crisis of the Korean Race (Yusuke Suzumura)


Maeil Business Newspaper, a Korean business newspaper, ran an editorial titled “The Age of a Population 50 Million: The Future Strategy of the Republic of Korea” on 20th June. In this editorial Maeil Business Newspaper suggested 5 alternatives to break through the problem of population decrease. Added to this, Maeil Business Newspaper recognised this problem as the crisis of the Korean race. Such a point of view is different from that of Japanese newspapers and we may be able to learn something from such an opinion.

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野田首相は少数与党への転落を恐れず消費税増税法案を可決させよ

消費税の増税を巡り、民主党が分裂の様相を呈してきました。


党内反主流派の小沢一郎元代表は社会保障と税の一体改革関連法案を衆議院で採決する場合に反対票を投ずる意向とされており1、実際に反対票を投ずれば党紀粛正の観点からも除名の対象となることは大いにあり得ます。


また、党内の親小沢派が53人以上集まり、反対票を投ずるために小沢氏と連袂して離党するなら、与党は衆議院での過半数を下回ることになり、野田佳彦政権の基盤は弱体化せざるを得ません。


民主党内の反消費増税派は「53人以上離党すれば少数与党に転落」という事実を活用し、有利な状況を生み出そうとするということは、容易に想像されます。


しかしながら、実際には、もし53人以上の反消費税増税派が民主党を離党したとしても民主の消費税増税派、自民、公明の3党が一致すれば衆議院での可決は可能でありますから、「政治生命を賭ける」と公言し、与野党主要3党が合意した消費税の増税について、野田首相は速やかに衆議院において法案の採決を行うべきです。


もし、政権の基盤の弱体化を恐れて採決を先延ばしする、あるいは、、「党内の融和」を国家財政の構造的な問題の改善に優先させるのであれば、「政治生命を賭ける」という素志に基づき、野田首相はただちに総辞職することが求められます。


事柄の重大性を考えれば自ずと明らかになる答えに目をつむって党利党略、個利個略を重いものとする動きを戒めるためにも、野田首相と民主党には、「反消費税増税派」に対して毅然とした態度を取ることが不可欠なのです。


1 増税法案採決、造反「53人」巡り攻防. 日本経済新聞, 2012年6月22日朝刊3面.


<Executive Summary>
Pass the Bill on His Honour: Prime Minister and the Bill of Increasing Consumption Tax (Yusuke Suzumura)


Anti-increasing consumption tax group, represented by Mr. Ichiro Ozawa, contrives to demote Noda Cabinet to a minority government. However Prime Minister Yoshihiko Noda, the President of the Democratic Party of Japan, shall pass this bill at the House of Representatives, since once he declared staking his honour as a statesman to pass the bill.

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民主党は79日間の国会会期延長を有効に活用できるか

本日、衆議院本会議において、今国会の会期を9月8日(土)まで79日間延長することが与党などの賛成多数によって議決されました。


79日という延長の日数は、国会法の改正によって通常国会の延長回数を1回に制限した1958年以降では、1982年の94日に次いで2番目の長さとなります1


6月20日の時点で、民主党は野党に対し、「赤字国債も政治改革も国家公務員関連もある。議員立法の定数削減、1票の格差の成立も図りたいと野党に説明した」と、いわゆる社会保障と税の一体改革以外の法案についての対応が必要であることを会期の大幅な延長の理由として示しています2


しかし、順調に審議が進めば7月末には参議院で消費税の増税法案が可決される見通しであるだけに、今回の大幅な会期の延長に対して野党側が「民主党は党内分裂を避けるため、法案成立を先送りする狙いだ」と考えること2も、決して理由のないこととはいえません。


実際、「増税先行の消費増税関連法案には反対する」と明言する小沢一郎元代表3などの勢力を抱えているのですから、国会での審議と採決を強行すれば党内の増税法案賛成派と反対派とが分裂し、党勢がそがれることはありうべき事態といえます。


しかも、「日本はデフレと不景気に苦しんでいる。不景気で大増税という話は聞いたことがない」という小沢氏の主張3は、現在の日本の経済状態と経済学の教科書を見比べれば、適切なもののように思われることでしょう。


しかしながら、現実には、デフレーションが解消し、実質2%前後とみられる潜在成長率を実現したとしても構造赤字は解消されないのであり、消費増税によって国民の租税負担率を引き上げ、税収の基盤を底上げすることが不可欠であるといえます。


こうした点について明確な回答を示すことなく「大増税だけが先行するやり方は国民への背信行為であり、裏切り行為であり、我々の主張が正義、大義だと確信している」3というのであれば、小沢氏は現在の日本が抱える構造赤字を解消するための示す必要がありますし、事情は消費税の増税に反対する野党にも同じなのです。


もしそれが出来ないようであれば、小沢氏のいう「正義」や「大義」は個利個略のための「正義」や「大義」であるということになるでしょう。


そして、「民意は与えられるのではない。できる限りの判断材料を国民に与え、考えてもらう。そうして初めて民意は喚起するのだと思う」という指摘4は、「国民」の語を「消費税増税反対派」に置き換えても成り立つものですから、民主党の首脳陣は、79日間延長された国会の会期を有効に利用し、「反対派の民意」を喚起するように努めなければなりません。


それによってこそ、会期を延長した意義も発揮されるのであり、「党内の分裂を回避したいだけ」という周囲の推測を否定することが出来るのです。


1 一体改革法案、民主分裂強まる――輿石氏「あす採決へ努力」. 日本経済新聞, 2012年6月21日夕刊1面.
2 国会会期、大幅に延長、解散時期を巡り臆測、9月上旬説も浮上. 日本経済新聞, 2012年6月21日朝刊3面.
3 小沢元代表の発言要旨. 日本経済新聞, 2012年6月21日夕刊2面.
4 民意は喚起するものだ. 日本経済新聞, 2012年4月3日夕刊15面.


<Executive Summary>
79 Days Are Enough to Exert an Effort: The Democratic Party of Japan and the Issue of Increasing Consumption Tax (Yusuke Suzumura)


House of Representatives extend the Diet session by 79 days on 21st June. However the Opposition criticises this extension may be a kind of remedy to avoid a party split. To deny this suspicion, Prime Minister Yoshihiko Noda and the executives of the Democratic Party of Japan shall do their best to pass a measure of increasing consumption tax. 79 days are enough to exert such effort.

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