研究ブログ

2012年7月の記事一覧

「大リーグの経営はドライ」という説明を証明したイチロー選手の移籍

大リーグ・シアトル・マリナーズのイチロー選手がニューヨーク・ヤンキースに移籍してから1週間が経過しました。

この間、イチロー選手の移籍を巡り、各種の報道が詳細になされています。

こうした報道は、11年にわたる活躍によって球団の顔として親しまれた選手であっても、経営側との利害関係が一致しなければ他球団に放出されるという大リーグの現実を人々に教えます。

「大リーグの経営は実務主義で、名選手、大選手といっても優遇されているわけではない」といった類の記述は、大リーグの仕組みを解説した本や入門書には必ずといってよいほど書かれるものです。

このような記述は実例を伴わない場合単なる一般論として読者に受け止められがちです。

しかし、かつてロサンゼルス・ドジャースの主戦投手として活躍しながら安定感のなさからニューヨーク・メッツに放出された野茂英雄投手や、やはり成績の低迷を背景とし、球団の戦力構想から外れたことでヤンキースを去った松井秀喜選手のような事例は、「大リーグの契約はドライ」といった記述を裏書する典型的な実例であるといえます。

同様に、今回のイチロー選手の移籍も、このような記述をわれわれに思い出させるのに十分すぎるほどの事例であり、その意味で、経営や組織といった点から大リーグを検討する際にも意味のある出来事であったといえるでしょう。

<Executive Summary>
Ichiro Suzuki Trade, a Good Example to Understand a Management Structure of the Major League Baseball (Yusuke Suzumura)

Ichiro Suzuki trade is one of best example for us to understand a management structure of the Major League Baseball form the point of view of a human resources or pay-per-performance system in sports.
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【再掲】法政大学国際日本学研究所2012年度第5回東アジア文化研究会

去る7月17日(火)にもご案内しましたが、来る8月1日(水)、18時30分から20時30分まで法政大学国際日本学研究所の2012年度第5回東アジア文化研究会が開催されます。


今回は、法政大学国際日本学研究所客員学術研究員で早稲田大学エクステンションセンター講師の安井裕司氏を招き、「格差社会化と「下からのナショナリズム」~ナショナリズム論からの日中欧の比較考察~」と題して行われます。


本報告の要旨は以下の通りです。

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世界はグローバル化によって「フラット化」(T.フリードマン)しながら、同時に大都市を中心にクリエイティブな仕事に従事するエリート層「クリエイティブクラス」を生み出している(R.フロリダ)。

しかし、エリート層は人口比で少数であり、大多数の人々はグローバル化の中で成功を収めることができず(にもかかわらず、先進国の場合、安価なモノ、サービスを求めることでグローバル化を進展させるアクターであり続け)、各国は多かれ少なかれ国内の格差化に直面する。

そして、各国の格差(及び不均衡発展)は政治的には「下からのナショナリズム」を誘発する内的条件となり、国際関係上の外的要因が加わることで政治現象となる。

例えば、2012年5月のフランス大統領選挙及びギリシャの総選挙ではグローバル化に対峙する勢力が「下からのナショナリズム」として社会主義と民族主義を併せ持って台頭した。また、2010年9月、尖閣諸島を巡る日中両国間の対立も、エリート層の争いではなく、むしろ「下からのナショナリズム」が顕在化したと仮定することができる。
本発表では日中欧のグローバル化とナショナリズムの関係を主にナショナリズム理論を用いて分析する。 

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国際政治の中心の一つであるスイスのジュネーブに在住する気鋭の国際政治学者でもある安井氏の報告にご期待ください。


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法政大学国際日本学研究所 戦略的研究基盤形成支援事業
「国際日本学の方法に基づく<日本意識>の再検討―<日本意識>の過去・現在・未来」
アプローチ③ 「<日本意識>の現在―東アジアから」
2012年度 第5回東アジア文化研究会


日時
2012年8月1日(水)、18:30-20:30


会場
法政大学市ヶ谷キャンパス58年館2階国際日本学研究所セミナー室


報告者
安井裕司(法政大学国際日本学研究所客員学術研究員、早稲田大学エクステンションセンター講師)


論題
格差社会化と「下からのナショナリズム」~ナショナリズム論からの日中欧の比較考察~


司会
王敏(法政大学国際日本学研究所教授)


申込方法
下記の専用サイトからお申し込み下さい。
https://www.hosei-web.jp/fm/10233.html


詳細情報
http://hijas.hosei.ac.jp/tabid/1054/Default.aspx
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<Executive Summary>
The 5th Research Meeting of East Asia Culture Research Meeting of 2012 of HIJAS (Yusuke Suzumura)


The 5th Research Meeting of East Asia Culture Research Meeting of 2012 of Hosei University Research Center for International Japanese Studies will be held at 18:30-20:30 on 1st Auguts. Speaker is Dr. Hiroshi Yasui (Visiting Academic Researcher, Hosei University Research Cetner for International Japanese Studies; Lecturer, Waseda University Extension Center) and theme is "Unequal Socialization and "Bottom-up Nationalism""

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【参加募集】ELLTA Conference 2012

来る12月11-13日に、マレーシアのケダ州シントックに所在するマレーシア・ウタラ大学において、私もInternational Coordinate Committeeの一員を務めさせていただいているExploring Leadership and Learning Theories in Asia (ELLTA)の第2回大会が開催されます。


今回は、'Transforming Societies through Creativity, Innovation and Entrepreneurship'という主題が掲げられていますが、「創造性」や「革新」あるいは「企業家精神」といった話題以外にも、ELLTAが中心的な課題として取り組んでいる「指導力」や「学習」に関する報告も歓迎されています。


私は、昨年2月に行われたELLTAの第1回大会に参加する機会を頂戴し、ELLTAという新しい集まりの持つ親しみやすさや柔軟さを実際に体験することが出来ました。


ELLTAという若い集まりを着実に発展させるため、関係のある各分野の皆様のご参加をお待ちしております。


なお、今回の大会の詳細については、下記のELLTAの公式ウェブサイトをご覧ください。


http://ellta.org/home/


<Executive Summary>
Call for Paper: Exploring Leadership and Learning Theories in Asia Conference 2012 (Yusuke Suzumura)


Exploring Leadership and Learning Theories in Asia (ELLTA) will hold the 2nd Conference at University Utara Malaysia on 11 - 13 December 2012. Theme of ELLTA 2012 is 'Transforming Societies through Creativity, Innovation and Entrepreneurship'. Detailed information is available by the official website of ELLTA (http://ellta.org/home/). Why don't you join this conference?

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30回目の今考える夏季オリンピックの問題

現地時間の7月27日(金)、ロンドンに置いて第30回夏季オリンピック大会が開幕しました。


「盛り上がりに欠ける」、「経済効果は限定的」とも評される今回のオリンピックではあるものの、夏季オリンピックにとっては30回目の、日本にとっても夏季オリンピックに初めて参加してから100年目という節目に当たるのが今回の大会となります。


今月15日に発行された大修館書店の『体育科教育』に掲載されている私の「スポーツの今を知るために」でも、「30回目の今考える夏季オリンピックの問題」と題して今回のオリンピックの話題を取り上げました1


その詳細は以下の通りとなります。


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30回目の今考える夏季オリンピックの問題


ロンドンオリンピックの開幕が近付いてきました。


夏季オリンピックとしては1896年のアテネオリンピック以来30回目となる、節目の大会となります。
また、日本が初めて参加した夏季オリンピックであるストックホルムオリンピックが開催されたのが1912年ですから、今大会は、日本にとって「100年目のオリンピック」となります。


「30回」、あるいは「100年」といっても、単なる算術上の尺度ですから、そこに大きな意味を見出す必要はないかもしれません。


それでも、1912年には2人の選手を派遣しただけの日本が、100年後には選手と役員を含め500人を超える人員を派遣するまでになったのですから、まさに隔世の感がある、ということができるでしょう。


そして、この感慨は、近代オリンピックの歩みそのものに目を向けるときにも、再び蘇るといえるのではないでしょうか。


クーベルタン男爵が近代オリンピックを提唱した際、オリンピック憲章の基本理念は国際主義、平和主義、アマチュアリズムでした。


その後、現在に至るまでのオリンピック憲章の変更の過程は、ある意味でプロフェッショナリズムと商業主義の進出と浸透の歴史であるといえます。


例えば、東西冷戦時代、ソ連を代表とするいわゆる共産主義諸国は、「ステートアマ」という名の下に選手の地位や生活を国家が保障し、選手の実質的なプロフェッショナル化を進めました。


あるいは、1984年のロサンゼルスオリンピックは、高額なテレビ放映権料、協賛企業の1業種1社制度と協賛金の最低限度額制度の導入、既存の施設の活用や人件費の圧縮などによる支出削減の徹底、あるいはマスコットであるイーグル・サムの商品化などにより、従来「儲からない」とされていたオリンピックで2億ドルの黒字を計上し、現在に至る「儲かるオリンピック」の端緒となりました。


また、1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻と西側諸国による1980年のモスクワオリンピックの参加拒否、さらには東側陣営による報復措置としての1984年のロサンゼルスオリンピックの不参加などは、オリンピックと政治、あるいはスポーツと政治が不可分であることを示す、典型的な事例ということができます。


このほか、オリンピックの開催権は各都市に与えられるにもかかわらず主賓の座を開催都市が属する国や地域の元首が占めるという、古代ギリシアの都市国家制度を近代の国民国家に模倣するために生まれる矛盾が解消されないままであること、あるいはオリンピックの開催には中央政府による財政保証が必須になっていることなどは、近代オリンピックが抱える構造的な問題として見逃すことができません。
確かに、こうした事柄は、「人類が等しく享受するスポーツの祭典」というオリンピックの崇高

な理念の前では、ささいなことかもしれません。しかし、光が強くなれば、それだけ影が見えにくくなるように、華やかな祭典が行われるときだからこそ、その華やかさの背後にいかなる課題が存するかを考える必要があるでしょう。


もし、30回、あるいは100年といった数字に何らかの意味をもたせるとするのなら、まさにこのような問題や課題を正面から見据えることが重要になるのです。
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たとえ4年に一度でも2年に一度でも、「オリンピックの何が問題か」を考えることは、われわれにとって決して意味のないことではないといえるでしょう。


1 鈴村裕輔, 30回目の今考える夏季オリンピックの問題. 体育科教育, 60(7): 73, 2012.


<Executive Summary>
Thinking Now about Problems of Summer Olympics (Yusuke Suzumura)


In commemoration of the opening of the London Olympics, I introduce my current column "Thinking Now about Problems of Summer Olympics" run in Taiikuka Kyoiku.

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一問一答「イチロー選手のヤンキース移籍」

現地時間の7月23日(月)、日本時間の7月24日(火)に大リーグシアトル・マリナーズのイチロー選手がニューヨーク・ヤンキースに移籍して以降、昨日までの3日の間に様々な方から種々の質問を頂戴しました。


野球が社会的な話題になるときに質問相手として思い出してもらえるのは「野球史研究家」を標榜する私としては、実にありがたいことです。


ところで、皆さんから寄せられた質問には、表現こそ違え、共通する内容も少なくありません。そこで、今回は、この3日間に頂戴した質問の中から主なもの6件を選び、それらに対する私の回答をご紹介したいと思います。


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--イチロー選手はどうしてマリナーズからヤンキースに移籍したのですか?


ヤンキースは、7月19日(木)に左翼手のブレット・ガードナー選手が肘の故障のために今季の復帰が絶望的になったことが判明したため、代わりとなる選手を探していました。


ガードナー選手は、打撃には取り立てて見るべきところはないものの、2011年の盗塁王と機動力があり、守備も平均以上の能力を示しています。


そのため、ヤンキースはガードナー選手と同程度の機動力と守備力を持つ選手の獲得を目指し、打撃は低迷するもののいまだ守備と走塁には定評のあるイチロー選手が獲得交渉の対象となったのです。


--マリナーズはどうしてイチロー選手の移籍に同意したのですか?


イチロー選手とマリナーズとの間で結ばれている現行の契約は、今年で満了となります。そのため、マリナーズはイチロー選手と契約の交渉を行わねばならない時期を迎えていました。


7月15日にはゼネラルマネージャーのジャック・ズレンシック氏がイチロー選手との契約更新を明言しましたが、球団の有力な関係者や報道陣の一部が「高い年俸に見合った活躍をしないイチローとの再契約は許し難い」と批判的な態度を取ったことで状況は流動化し、ズレンシック氏もその後はイチロー選手との再契約について言葉を濁すようになりました。


こうした状況は、イチロー選手が「チームにとって不可欠な選手」ではなくなっていることを示しています。


また、移籍時の記者会見で「若い選手が数多くいるこのチームに留まる必要はないと感じた」という趣旨の発言をしたことは、こうした周囲の批判に対するイチロー選手の回答であることを示唆します。

これに加えて、従来のマリナーズとの契約では認められていた、特定の球団への移籍を拒否する「ノートレード条項」の破棄や、左投手が登板する試合では控えに回る可能性があること、右翼ではなく左翼を守備することなど、イチロー選手にとっては不利と思われる条件を受諾してヤンキースに移籍いることは、イチロー選手自身にとって、マリナーズに留まる積極的な理由が見出されなかったことを伺わせます。


--イチロー選手の背番号はどうして「51」ではなく「31」なのですか?


ヤンキースの「51」は、1991年から2006年まで16年にわたって活躍したバーニー・ウィリアムズ選手が着けていた背番号です。


1990年代のヤンキースを代表するウィリアムズ選手はイチロー選手にとっても尊敬の対象であり、しかもいまだにヤンキースのファンの間で根強い支持を保っているだけに、「51」を利用するのを遠慮したのです。


--「ヤンキースはイチロー選手に約200万ドルを支払う」という新聞記事を読みましたが、イチロー選手の年俸が200万ドルになってしまうのでしょうか?


正確には、イチロー選手の年俸が200万ドルになるのではなく、2012年のイチロー選手の年俸のうち、ヤンキースの負担する金額が200万ドルとなります。


具体的には、今季のイチロー選手の1700万ドルの年俸のうち、マリナーズはすでに1030万ドルを支払っており、未払い分は670万ドルとなっています。


マリナーズは、この670万ドルの約67%に相当する450万ドルを肩代わりするため、ヤンキースはイチロー選手に年俸として220万ドルを支払うだけで済むのです。


--イチロー選手は来年もヤンキースに残留できるのでしょうか?


イチロー選手が来年もヤンキースに残留できるかは予断を許しません。


今回の移籍はガードナー選手の代役を務めることが最大の目的のため、2013年にガードナー選手が復帰すれば、イチロー選手は左翼の守備位置を失うことになるでしょう。


一方、マリナーズ時代の定位置であった右翼は、現在はニック・スウィッシャー選手が守っています。


スウィッシャー選手の守備力は平均的ですが、長打力があるとともに打率に比べて出塁率が1割以上高いなど、選球眼の良さも兼ね備えており、打撃でチームに貢献できる選手です。


2011年以来、打撃に関して存在感を発揮できていないイチロー選手が右翼の定位置を獲得するのは、スウィッシャー選手がいる限り容易ではありません。


ただし、スウィッシャー選手は今季でヤンキースとの間で結んだ6年間の契約が満了となるため、再契約の交渉が破談になればイチロー選手が右翼の定位置を獲得することもあり得ます。


なお、中堅は、無難な守備と豪快な打撃が特徴のカーティス・グランダーソン選手が守っています。


2013年の契約更新の選択権を球団が保有しているものの、打線の中心であることを考えれば放出される可能性は低く、イチロー選手が中堅を守る可能性は高くないといえるでしょう。


現実的には、イチロー選手はスウィッシャー、グランダーソンの2選手のどちらかが契約を更新せずにヤンキースを去ったときにのみ定位置を獲得でき、それ以外の場合には、外野の控え、他球団への移籍、引退のいずれかを選択せざるを得ないものと思われます。


--シアトルのファンはイチロー選手の移籍をどのように評価しているのでしょうか?


イチロー選手の移籍を残念に思うという意見が主流のようであり、7月23日(月)からマリナーズの本拠地セーフコ・フィールドで行われた3連戦ではヤンキースの一員となったイチロー選手に対して観客席から大きな歓声が送られていました。


ただし、今回の移籍により、球団が高額な年俸を削減でき、若手中心のチームに生まれ変わることができる、という意見もあり、イチロー選手の移籍に対するファンの意見も様々である、といえるでしょう。
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<Executive Summary>
Six Questions and Six Answers about Ichiro Suzuki Trade (Yusuke Suzumura)


I was asked some questions about Ichiro Suzuki trade on 23rd July between Seattle Mariners and New York Yankees. Today I select typical questions and my answers with questions after hearing answers.

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【開催案内】法政大学国際日本学研究所2012年度第6回東アジア文化研究会

いささか気が早いですが、来る9月26日(水)の18時30分から、法政大学国際日本学研究所セミナー室において、法政大学国際日本学研究所の2012年度第6回東アジア文化研究会で発表いたします。


今回は、「 「日中国交正常化40年」を超えて――石橋湛山の対中国交正常化への取り組み」と題し、日本と中国の国交正常化に関する石橋湛山の取り組みを考察します。


発表の要旨は以下の通りです。


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本発表では日中国交正常化に至る過程でなされた様々な取り組みの中から、石橋湛山(1884-1973)に焦点を当て、その活動を検討する。


戦前期の石橋は日本の海外領土の放棄を主眼とする「小日本主義」の提唱で知られるが、この他にも、中国における排日運動への理解や日本の対中進出への懸念、あるいはイデオロギーの相違による相互理解の断絶への危惧などを世に問うており、こうした態度は戦後の中国に対する活動の基礎となるものであった。


今回の発表では、戦前期の石橋の中国に対する理解や日本の対中政策への評価などを踏まえながら、戦後の具体的な中国に対する取り組みを分析し、その意義を考察するものである。


これにより、「戦前と戦後」、「評論家と政治家」、「理論と実践」といった、ややもすれば非連続的ないし対立的に捉えられる事項の連続性や親和性を確認するとともに、日中国交正常化に至る過程の理解に新しい視点を提供したいと考えている。
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正式な案内などが完成した折には改めてご連絡を差し上げますが、ご興味があり、ご予定の合う方は、ぜひご参加ください。


<Executive Summary>
The 6th Research Meeting of East Asia Culture Research Meeting of 2012 of HIJAS (Yusuke Suzumura)


I will make my presentation at the 6th Research Meeting of East Asia Culture Research Meeting of 2012 of Hosei University Research Center for International Japanese Studies will be held at 18:30-20:30 on 26th Sptember. Theme is "Ishibashi Tanzan and His Effort toward the Normalization of Diplomatic Relations between Japan and China".

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「イチローの移籍」は何故「双方の球団の利益」となるのか

現地時間の7月23日(月)にシアトル・マリナーズからニューヨーク・ヤンキースに移籍したイチロー選手は、この日の大リーグの話題を独占しました。


米国の各媒体は今回の移籍について「双方の球団にとって利益をもたらした」といった好意的な評価を下しています1


そこで今回は、このの移籍が何故「双方の球団にとって利益をもたらしたのか」を考えることにしましょう。


まず、イチロー選手を獲得した側であるヤンキースから見れば、最小の支出によって最大の利益を得た、ということができます。


すなわち、ヤンキースにとって、7月19日(木)に今季の残りの試合に出場することが不可能になった、昨年の盗塁王でもあるブレット・ガードナー選手の代わりを務める得る、守備力と機動力のある選手を獲得することが急務でした。


ガードナー選手は2005年にドラフト3巡目でヤンキースに入団し、2008年に大リーグに昇格した、チームの将来を担う選手の一人です。


従って、獲得する選手の位置付けはあくまでガードナー選手が故障から復帰するまでの間の一時的なものとなります。


これが、ガードナー選手の後継となる左翼手を獲得する場合であれば、人的、金銭的な負担は大きな問題とはならないでしょう。そのような場合であれば、イチロー選手を獲得する代わりに経験と実績を備えた打者を放出することもあります。


しかし、今回、ヤンキースは、イチロー選手と同格の選手ではなく、今年になって大リーグに昇格し、4試合の登板経験を持つD.J.ミッチェルと、マイナーリーグAAA級のダニー・ファークハーという二人の投手を放出しただけでした。


しかも、イチロー選手の1700万ドルの年俸のうち、マリナーズが未払い分670万ドルの約67%に相当する450万ドルを肩代わりするため、ヤンキースはイチロー選手に200万ドルを支払うだけで済むのです2


この意味で、ヤンキースは将来を嘱望されているとはいえ大リーグでの実績が皆無に近い選手二人と200万ドルの負担だけで、早急に解決されるべき守備力と機動力を備えた外野手を獲得することが出来たのです。


これが、ヤンキースにとっての具体的な利益となります。


一方、マリナーズにとっての利益は、2001年以来球団を代表する選手として実績を残してはいるものの、昨年以来急激に衰えを示し始め、しかも2012年で現行の契約が終了するイチロー選手は、懸念の対象でした。


例えば、7月15日にゼネラル・マネージャーのジャック・ズレンシック氏がイチロー選手との再契約を明言すると3、2日後の7月17日はジェイ・ビューナー氏が「もしイチローがマリナーズと複数年契約を結ぶようなことがあれば、反吐が出る」と球団の方針を批判しました4


ビューナー氏は球団を代表する往年の名選手の一人であり、今もなお根強い人気を保つ人物です。


イチロー選手の登場によって定位置であった右翼を奪われ、36歳で引退を余儀なくされた、という経緯があるにせよ、球団の方針に対して有力な関係者が批判を行うことは、球団にとっても看過し得ないことといえます。


また、このビューナー発言に呼応する形で、7月19日にはシアトル・タイムズのスティーブ・ケリー氏が「今やイチローはチームにとって最善の左翼手ではない。それは、キャスパー・ウェルズだ」と指摘し、エリック・ウェッジ監督やゼネラル・マネージャーのジャック・ズレンシック氏に「イチローにとって最善の選択ではなく、チームにとって最善の選択をせよ」と迫っています5


球団や選手を肯定する態度を基本とするケリー氏の批判が、球団首脳に対してビューナー発言とは違った圧力をかけた可能性は否定できず、イチロー選手の処遇が重要な課題として浮上したのでした。


こうした周囲の状況が、実績のある打者や投手ではなく、経験の絶対量の少ない投手二人を獲得するとともに、イチロー選手に対する未払いの年俸の大部分を負担する、という今回の移籍に繋がったといえるでしょう。


そして、イチロー選手との再契約を巡って起こるべき球団内外との軋轢を未然に回避するとともに、選手の若返りを図り、球団の再建に踏み出す機会を得ることが、マリナーズにとっての利益といえるのです。


一見すると釣り合いの取れない今回の移籍が「双方の球団にとって利益をもたらした」と評されるのは、こうした事情によるといえるでしょう。


1 Kepner, T, A Fading Great Lands Where It Makes So Much Sense. The New York Times, 24th July 2012, http://www.nytimes.com/2012/07/24/sports/baseball/ichiro-suzuki-trade-could-be-victory-for-both-teams.html?_r=1&ref=ichirosuzuk (accessed on 25th July 2012).
2 Eddym M, Mariners Deal Ichiro To Yankees For Pair Of Relievers. Baseball America, 23rd July 2012, http://www.baseballamerica.com/today/majors/trade-central/2012/2613769.html (accessed on 25th July 2012).
3 Gleeman, A, Mariners GM expects to re-sign impending free agent Ichiro Suzuki despite declining production. NBC Sports, 16th July 2012, http://hardballtalk.nbcsports.com/2012/07/16/mariners-gm-expects-to-re-sign-impending-free-agent-ichiro-suzuki-despite-poor-production/ (accessed on 25th July 2012).
4 Baker, G, Jay Buhner tells ESPN 710 Seattle he'd "vomit'' if Ichiro gets multi-year deal, even at huge pay cut. The Seattle Times, 17th July 2012, http://seattletimes.nwsource.com/html/marinersblog/2018708664_mariners_legend_jay_buhner_tel.html(accessed on 25th July 2012).
5 Kelley, S, What should Mariners do with declining Ichiro?. The Seattle Times, 19th July 2012, http://seattletimes.nwsource.com/html/stevekelley/2018473268_kelley20.html (accessed on 25th July 2012).


<Executive Summary>
Why Is Ichiro Suzuki Trade Evaluated "the Victory for Both Teams"? (Yusuke Suzumura)


Ichiro Suzuki trade between Seattle Mariners and New York Yankees is evaluated "the victory for both teams". In fact this trade is an imbalanced one on the surface. However if we explore the context of both teams, it may be said that this trade is not an imbalanced but a balanced exchange.

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イチロー選手がマリナーズを去った理由は何か

現地時間の7月23日(月)、大リーグのシアトル・マリナーズとニューヨーク・ヤンキースとの間で選手の移籍についての合意が成立し、マリナーズからはイチロー選手が、ヤンキースからはD.J.ミッチェル選手とダニー・ファークハー選手が放出されました。また、マリナーズは、イチロー選手の今季の年俸である1700万ドルを補填するために、ヤンキースに現金を支払いました。


今回の移籍は、左翼手のブレット・ガードナー選手がひじの故障で今季の出場が絶望的になったことで代替の選手を探していたヤンキースと、イチロー選手自身が移籍を申し出ていたマリナーズとの間で、双方の利益が合致したために成立しました。


今季で5年間の契約が満期となるイチロー選手の2013年以降の処遇は、イチロー選手自身が野球選手としての全盛期を過ぎているだけに、マリナーズにとって看過できない問題でした。しかも、今季は昨年以上に衰えが著しく、開幕当初の3番から1番、そして最近では2番と打順が頻繁に変わるなど、チーム内での位置も流動的になっていました。


過去1か月間、球団はイチロー選手の成績とチーム内での役割を観察することで、イチロー選手との再契約が妥当か否かを見極めようとしました。しかし、結果は芳しいものではなく、むしろマイケル・サウンダースやフランクリン・グティエレス、あるいはキャスパー・ウェルズといった選手の台頭が明らかになりました。


実際、選手や球団に対して基本的に友好的な態度を示すシアトルの報道機関も、最近はイチロー選手に対して批判的な論調を取るようになり、シアトル・タイムズのコラムニストのスティーブ・ケリー氏は「イチローは10年連続でゴールド・グラブ賞を獲得した。しかし、今やイチローはチームにとって最善の左翼手ではない。それは、キャスパー・ウェルズだ」と指摘し、エリック・ウェッジ監督やゼネラル・マネージャーのジャック・ズレンシック氏に「イチローにとって最善の選択ではなく、チームにとって最善の選択をせよ」と迫っています1


こうした周囲の批判が、現実的に球団首脳やイチロー選手自身にどれだけの影響力を与えるかは、推測の域を出ません。


しかし、ズレンシック氏が「イチローは今後もマリナーズの一員であるだろう。彼はチームの中で大きな存在であり、生え抜きの選手だ」と、イチロー選手との再契約に前向きな姿勢を示し続けていただことを考えるなら2、ズレンシック氏の態度の変化はは、水面下で進む交渉を気取られないために陽動的な発言を行ったのか、ヤンキースとの利益の一致によって方針を変えたのか、あるいは「イチロー批判」に背中を押されたのか、のいずれかによるものでしょう。


このとき、「若い選手が数多くいるこのチームに留まる必要はないと感じた」という、移籍が公表された記者会見の席上でのイチロー選手の発言3を重ね合わせるならば、イチロー選手自身にとっては、「若い選手の出番を奪っている」という批判が移籍を申し出る心理的な要因であったことが推察されます。


これまで、マリナーズはケン・グリフィー・ジュニア選手、アレックス・ロドリゲス選手、あるいはランディ・ジョンソン選手といった、球団の顔となる選手を放出し、そのたびに観客数を減らすなど、経営面での失策を繰り返してきました。


今回のイチロー選手の移籍によってこうした現象が起きることは容易に予想されますから、そうした興行面での影響を考慮した上での放出であるなら、首脳陣はマリナーズを若手中心の球団に移行させることに舵を切ったといえるでしょう。


もし、そうした点に配慮せず、 「若手の有望選手を獲得できる「商品価値」があるうちにイチローを活用しよう」という考えからイチロー選手を放出したのであれば、マリナーズは他の球団の選手の誰もが知る選手を手放し、ヤンキースに守備力と機動力を与えだけになってしまうでしょう。


そして、イチロー選手の移籍がマリナーズとヤンキースのどちらにとって有益な結果をもたらすかは、イチロー選手、ミッチェル選手、ファークハー選手の成績が実証するのです。


1 Kelley, S, What should Mariners do with declining Ichiro?. The Seattle Times, 19th July 2012, http://seattletimes.nwsource.com/html/stevekelley/2018473268_kelley20.html (accessed on 24th July 2012).
2 Gleeman, A, Mariners GM expects to re-sign impending free agent Ichiro Suzuki despite declining production. NBC Sports, 16th July 2012, http://hardballtalk.nbcsports.com/2012/07/16/mariners-gm-expects-to-re-sign-impending-free-agent-ichiro-suzuki-despite-poor-production/ (accessed on 24th July 2012).
3 Matuszewski, E, Yankees Get All-Star Outfielder Ichiro Suzuki From Mariners. Bloomgerg, 24th July 2012, http://www.bloomberg.com/news/2012-07-23/yankees-acquire-outfielder-ichiro-suzuki-in-trade-with-mariners.html (accessed on 24th July 2012).


<Executive Summary>
Bye Bye Ichiro: Why Mariners Changes Their Original Plan? (Yusuke Suzumura)


The Seattle Mariners released Ichiro Suzuki, a right fielder, and got two young prospect pitchers D.J. Mitchell and Danny Farquhar on 23rd July. Ichiro Suzuki likely will play right field regularly until Nick Swisher returns from injury and then fold into left and right. Last week Jack Zduriencik, general maneger of Mariners, says that he has no plans to trade the outfielder and in fact expects to re-sign him for next season. Therefore, examining why executives of Mariners changes their original plan is meaning full and fascinating.

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日本プロ野球選手会は「WBC不参加」を細心の注意をもって決断したか

7月20日(金)に、日本プロ野球選手会(JPBPA)がスポンサー料の配分を理由に2013年に予定されている第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)への不参加を表明したことが小利を求めて大利を知らない態度であることは、すでに本欄の指摘したところです1


確かに、大リーグの球団経営者たちにとって、WBCは大きな関心を引く催事ではなく、WBCの開催についても「選手が潰されなければ、どちらでもよい」というのが本心です。


それでも、「いつかは行われるだろうが、いつ行われるか分からない」といわれていた野球の国際大会を大リーグ機構が開催した理由は、一つは参加の呼びかけに対して、どの国や地域が応じるかという点を通して、大リーグリーグ機構が自らの国際的な影響力の及ぶ範囲を見極めようとしたためであり、もう一つは「アメリカ四大プロスポーツ」の中で唯一国際大会を主催することで、大リーグ機構が単なる北米大陸の競技団体ではなく、世界規模の組織であることを内外に示すことを目的としているからです。


その意味で、WBCは大リーグ機構の国際戦略の一環であり、そのため、視聴率は低く観客も少なく、しかも大リーグの選手からも「開催時期が悪い」といわれる、収支の面からみれば引き合わないWBCを、大リーグがあえて開催し続けているのです。


従って、もし日本が参加しないことによって大会が中止になる、あるいは大会の規模が縮小するなど、目に見える形でWBCのあり方が過去2回に比べて劣ることになれば、米国の報道機関はJPBPAが大会の不成功の原因であると指摘し、あるいは「日本球界は世界の野球界の発展を妨げる」と批判するかもしれませんし、場合によってはJPBPAには「条件が合わないことを理由に参加を拒むような駄々っ子」の烙印を押しかねません。


JPBPAは今回の不参加の決議を「苦渋の決断」と言います。


しかし、問われるべきは決断が苦渋であるか否かではなく、その「苦渋の決断」を下す過程で、大リーグ機構がWBCをどのように位置付けているのか、あるいは、WBCに参加しない場合にJPBPAと日本プロ野球界が受けるであろう非難をどこまで考慮したのか、という点であり、また、決断の過程でいかなる情報をどれだけ収集したか、という点なのであります。


1 鈴村裕輔, 日本プロ野球選手会は「WBC不参加決議」を撤回せよ. 2012年7月21日, http://researchmap.jp/jowq6opzs-18602/#_18602.
 

<Executive Summary>
How Serious the Japan Professional Baseball Players Association Discussed the Issue of Adoptation of the 3rd World Baseball Classics (Yusuke Suzumura)


Japan Professional Baseball Players Association (JPBPA) adopted the resolution of default of the 3rd World Baseball Classic in 2013. However what is the main problem is whether JPBPA discussed this problem carefuly and with extreme care.

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比較文明・環流文明研究会第29回研究会

昨日は、13時から17時まで、法政大学国際日本学研究所セミナー室において、比較文明・環流文明研究会の第29回研究会がありました。


今回は、科学技術・生存システム研究所の神出瑞穂先生と私が発表を行いました。


私の報告の題名は「説明責任と危機管理の政治学」で、要旨は以下の通りでした。


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現在の政治において、とりわけ説明責任と危機管理は為政者が真剣に取り組むべき重要な事柄となっている。

2011年3月に起きた東北地方太平洋沖地震とその後の福島第一原子力発電所の事故への日本政府の対応が国内外から非難されている主な理由は、災害が発生した後の対応の不備と、その後の情報の記録や開示の不徹底に求めることができる。


これは、われわれが実際に体験する、政治における説明責任と危機管理の重要性を示す事例である。


そこで、本報告では、まず政治における説明責任と危機管理について、具体的な成功例と失敗例を取り上げ、検討する。

次に、「アラブの春」と「ウォール街占拠運動」の関連を考察し、グローバル時代、サイバー時代とも呼ばれる現在、政治とメディアの関係がいかなるものであるかを考察する。
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また、「「都市農業」の可能性について」と題された神出先生の報告では、農村部だけでなく、都市部における農業生産の現在のあり方と今後の可能性がキューバ、北欧諸国などの事例を参照しながら検討され、今後の日本の都市農業についても、「市民農園型」、「ハイテク装置農業型」、「総合地域開発型」の3つのあり方が相互に補完しながら発展する可能性が指摘されました。


なお、次回の研究会は9月8日(土)に開催される予定です。


<Executive Summary>
The 29th Research Meeting of the Association for Circulative Civilization (Yusuke Suzumura)


The 29th Research Meeting of the Association for Circulative Civilization was held at 13:00-17:00 on 21st July. Speakers were Mr. Mizuho Kamide and me. My theme was "Political Accountability and Risk Management". If you have a time, why don't you join this research meeting?

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