研究ブログ

2012年10月の記事一覧

大東文化大学東洋研究所「茶の湯と座の文芸」研究班2012年度18回研究会

昨日は、18時10分から20時まで、大東文化大学において、大東文化大学東洋研究所「茶の湯と座の文芸」研究班の2012年度18回研究会が行われました。


今回は、前半を群馬県立女子大学の安保博史先生が『茶譜』巻五第14部「炉中灰之事 付灰調合」の校勘や本文の内容の補足を、後半を私が『茶譜』巻五第6部「炉中下火之事」の本文の確定と校勘の作業を行いました。


安保先生の担当箇所では、よい具合に燃えた炭の表面にできる衣の状態などが主題となりました。また、私の担当箇所では、前回の箇所に引き続いて、客人へのもてなしの心を根本に置く利休流の茶の湯の本質が、炭の出来栄えを優先して客人への配慮を後回しにする古田織部流との対比で説明されました。


物事のあるがままの状態を「潔清」として評価し、表面を取り繕って見栄えをよくしようとするあり方を「むさい心底」とするとともに、客人へのもてなしの心持を最優先する利休流の茶の湯への心構えは、今日でもいまだ価値を失わないものと思われました。


<Executive Summary>
Report of 18th Research Meeting of "Tea Ceremony and the Literary Arts of "The Seat"" Unit of Daito Bunka University Institute of Oriental Studies (Yusuke Suzumura)


Yesterday I attended the 18th research meeting of "Tea ceremony and the literary arts of "the seat" (Chanoyu to Za no Bungei)" unit of Daito Bunka University Institute of Oriental Studies. Professor Hiroshi Abou and I were reporters of this time. Prof. Abou reported about a condition of sumi and I reported about true hospitality in the tea cereomony.

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サントリー美術館「お伽草子 この国は物語にあふれている」展

10月28日(日)、12時40分から13時40分まで、サントリー美術館において「お伽草子 この国は物語にあふれている」展を鑑賞しました。


平安時代に隆盛を極めた物語文学は、主たる担い手であった貴族階級が衰退した鎌倉時代になるとかつての勢いを失いました。しかし、鎌倉時代末期に入り、物語文学の系譜に連なりつつ、時代の変質に合わせた新しい種類の物語が生まれ、後の『御伽草子』や御伽草子絵へと発展します。


本展では、全体を「昔むかし―お伽草子の源流へ」、「武士の台頭―「酒呑童子」を中心に」、「お伽草子と下剋上」、「お伽草子と<場>―すれ違う物語・行きかう主人公」、「見えない世界を描く―異類・異界への関心」の5部に分け、鎌倉時代末期から室町時代初期の「御伽草子の萌芽」から、いかにして人々が時代の変化に従って『御伽草子』の内容を豊かなものにしたのか、また、時代ごとの話や御伽草子絵の特徴や独自性がどの様なものであったのかが紹介されました。


江戸時代の渋川版『御伽草子』のほか、狩野元信の『酒伝童子絵巻』(1522年)や、『付喪神絵巻』や『鼠草子絵巻』(いずれも16世紀)、あるいは『大江山縁起図屏風』(17世紀)といった絵巻や屏風から、三条西実隆の『実隆公記』や山科言経の『言経卿記』といった15世紀から16世紀にかけての貴重な資料なども展示され、現在のわれわれの眼には見えないものの、もしかしたら当時の人々にははっきりと見えていたのかもしれない、不思議な世界の姿が生きいきと再現されました。


優品の多い展覧会ですので、ぜひご鑑賞ください。


<Executive Summary>
Otogi-zoshi: Illustrated Tales from Medieval Japan, Land of Stories at Suntory Museum of Art (Yusuke suzumura)


Suntory Museum of Art holds the exhibition Otogi-zoshi: Illustrated Tales from Medieval Japan, Land of Stories from 19th September to 4th November 2012. This exhibition is very fascinating with good installations. If you have a time, why don't you enjoy this nice exhibition?

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東京交響楽団第604回定期演奏会

昨日は、14時から15時50分まで、サントリーホール大ホールにおいて、東京交響楽団の第604回定期演奏会を聞きました。


今回は、尾高忠明の指揮で、武満徹の『波の盆』(TV音楽の演奏会用編曲版)、マーラーの「リュッケルトによる5つの詩」、ウォルトンのオラトリオ『ベルシャザールの饗宴』が演奏されました。マーラーとウォルトンのバリトン独唱はローマン・トレーケル、ウォルトンの混声合唱は東響コーラスでした。


寸評は以下の通りです。


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尾高忠明は、その明瞭で澱みのない棒捌きが象徴するように、各声部や旋律を要素に分けて整理することに著しい手腕を発揮する。しかし、一度分けられた各要素を一つのまとまりへと束ねることは、必ずしも得意としない。


武満徹の『波の盆』(TV音楽の演奏会用編曲版)、マーラーの「リュッケルトによる5つの詩」、ウォルトンのオラトリオ『ベルシャザールの饗宴』を取り上げた東京交響楽団の第604回定期演奏会では、そのような尾高の特徴がいみじくも明瞭に示された。


この日の最大の呼び物はウォルトンのオラトリオ『ベルシャザールの饗宴』で、大編成の作品を、尾高の棒は巧みに切り分け、旋律の輪郭を鮮やかに描き出す。


「これは、こういう仕組みなっている」と、熟練した解剖学者が臓器の内容を的確に指差すように、尾高の棒も、聞き手に「ああ、この曲はこういう仕組みになっているのか」と理解させるには好適である。


それでも、演奏が終わった後に、明快に示されたはずの旋律を重ねてみても演奏が明確な像を描かないのは、手先の器用さに依存するあまり、尾高が「ウォルトンにとって『ベルシャザールの饗宴』とはいかなる意味を持つ作品であるのか」という根本的な点に重きを置かなかった結果であろうと推察される。


同じことはマーラーにも当てはまった。体が温まりきらなかったのか、バリトン独唱のローマン・トレーケルの調子が上がらなかったこともあり、淡々とした演奏に終始し、「ドイツリートの名手」と称されるトレーケルの演奏としては物足りない内容となった。


もし、情熱的な視点から扱われることの多いウォルトンやマーラーの作品を、余情を排し、楽譜に即して演奏することを試みたのであれば、どちらの演奏も十分な効果を挙げている。しかし、明確な軌跡の合間に装飾的な動きを多用する尾高の棒は、そうした即物的な演奏を志向してはいないことを示しているから、指揮者の心持と実際の演奏との間に相違の合ったことは間違いないといえよう。


一方、腑分けすることに主眼を置いた指揮ぶりが奏功したのは武満の『波の盆』で、番組を象徴するものの、決して主役にはなりえず、伴奏の位置に留まるテレビ音楽という特徴が遺憾なく再現された、伴奏音楽として優れた内容であった。


なお、前半のマーラーでは不発だったトレーケルは、後半のウォルトンで徐々に調子を上げ、最後には管弦楽と東響コーラスを従え、朗々とした歌声を披露して、ベルリン国立歌劇場の宮廷歌手の面目を保った。


また、東響コーラスも、発声にやや難があり、各声部が交わりきらないという弱味があったものの、多様な手法が用いられる難曲に最後まで振り切られず、健闘したことも、この日の収穫であった。


*東京交響楽団第604回定期演奏会, 2012年10月28日(日), 14時から15時50分, サントリーホール.
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<Executive Summary>
Stage Review: the 604th Subscription Concert of Tokyo Symphony Orchestra (Yusuke Suzumura)


The 604th Subscription Concert of Tokyo Symphony Orchestra was held at Suntory Hall on 28th October. In this time, they played Toru Takemitsu's Nami no Bon, Mahler's 5 Lider nach Rückert, and Walton's Oratorio Belshazaar's Feast. Conductor was Tadaaki Otaka, Bariton was Roman Trekel, and choras was Tokyo Symphony Choras.

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2012年度東京都高等学校文化祭音楽部門第2地区大会

本日は、10時30分から12時まで、昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワにおいて、2012年度東京都高等学校文化祭音楽部門第2地区大会を聞きました。


今回は、以下の演奏を聞くことができました。


1.東京都立広尾高等学校吹奏楽部 アッペルモント/ガリバー旅行記(指揮:和田紳一)
2.東京都立千歳丘高等学校吹奏楽部 ヴィルソン/三つのチェコ民謡(指揮:鈴木紘彦)
3.東京都立松原高等学校吹奏楽部 スウェリンジェン/センチュリア(指揮:堀内ひろ子)
4.東京都立戸山高等学校管弦楽部 デバルト/『パイレーツ・オブ・カリビアン――呪われた海賊たち』メドレー
5.東京都立新宿高等学校管弦楽部 チャイコフスキー/スラヴ行進曲(指揮:清水香南子)
6.東京都立青山高等学校青山フィルハーモニー管弦楽団 リスト/ハンガリー狂詩曲第2番(指揮:中水樹良)


青フィルのハンガリー狂詩曲は、9月に開催された第43回外苑祭コンサートでの演奏に比べ、主に中低弦の音量が増したため内声の輪郭が明瞭になり、それだけ演奏に安定感が生まれるようになりました。


管楽器と打楽器についても、おおむね練習の成果が発揮されており、例年の状況と比較しても、順調な仕上がりを見せており、12月に開催される第19回全国高等学校選抜オーケストラフェスタでの演奏が期待される内容となりました。


一方、気がかりなのは、出場した20団体のうち、指揮者が明示されている19団体で、その中の14団体の指揮者を教員が務めた、ということで、高校生が自らの手で音楽を作り上げることに価値を見出し、独自の魅力を発揮してきた2地区の正統的なあり方を考えると、違和感を覚えるものでした。


しかも、「教員であれば指揮法に精通している」、あるいは「教員が指揮をすれば優れた演奏になる」ということは主観的願望ではあっても何らの必然性を持つ命題ではありません。


実際、私が聞いた6団体のうち最初の4団体で教員が指揮を担当しており、その内容に限ってもみても、指揮法に通じず、しかも演奏者の能力を十分に活用できない場面が散見されました。


もちろん、各団体に様々なな事情や背景がありますし、以前から教員の指揮によって活動を行ってきた学校も多数ありますから、そうした学校が教員による指揮で演奏することを一概に教員の指揮を排するというのは現実的ではありません。

また、指揮者として優れた手腕を発揮する教員もいますから、そうした教員が指揮を担当することの意義を否定するものでもありません。


しかし、従来、高校生が指揮をおこなってきた団体の指揮者を教員が務め、しかもその教員が必ずしも指揮者としての適性を備えていないとすれば、これは問題があるといわねばなりません。

そして、適性を欠く人物が指揮を担当するという光景が減り、意欲だけでなく能力のある高校生がその意欲と能力にふさわしい役割を果たすことは、2地区のみならず、東京都、さらには日本の高等学校の音楽文化の一層の発展のためには、不可欠なことであろうと思われます。


<Executive Summary>
Second Area Convention of Tokyo Metropolitan High School Culture Association, Division of Musical Arts (Yusuke Suzumura)


Today I visited Second Area Convention of Tokyo Metropolitan High School Culture Association, Division of Musical Arts at Teatoro Gario Showa of Showa University of Music and listend performances of first 6 high schools including  Aoyama Philharmonic Orchestra.

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法政大学国際日本学研究所研究アプローチ(1)2012年度第4回研究会


来る11月9日(金)、法政大学国際日本学研究所研究アプローチ(1)「<日本意識>の変遷―古代から近世へ」では、通算12回目となる2012年度第4回研究会を開催します。


今回は、東京医療保健大学医療保健学部准教授の三舟隆之先生が「浦島説話の成立と展開」と題して報告します。


日本人なら誰もが知っている、といっても過言ではない『浦島太郎』の物語を対象に、奈良時代に成立した『浦島太郎』の原型である浦島子伝承が平安時代に『浦島子伝』となり、室町時代の『御伽草子』において浦島太郎が登場し、近世から近代を経て今日の形に至る過程を辿りながら、中国や朝鮮半島の神仙思想を視野に入れつつ、羽衣説話との対比も織り交ぜ、報告が行われる予定です。


誰もが知っている話の背後に横たわる知られざる物語が解き明かされるひと時、ご予定が合い、ご興味のある方はぜひご参加ください。

 

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文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(平成22年~平成26年)
「国際日本学の方法に基づく<日本意識>の再検討―<日本意識>の過去・現在・未来」
アプローチ(1) 「<日本意識>の変遷―古代から近世へ」
2012年度第4回研究会


<日時>
2012年11月9日(金)、18:30-20:30
 

<会場>
法政大学市ヶ谷キャンパス58年館2階国際日本学研究所セミナー室


<報告>
三舟隆之(東京医療保健大学医療保健学部准教授)

 

<論題>
「浦島説話の成立と展開」
 

<司会>
田中優子(法政大学社会学部教授)


<参加費>
無料


<申込専用フォーム>
https://www.hosei-web.jp/fm/10246.html
 

<詳細情報>
http://hijas.hosei.ac.jp/tabid/1100/Default.aspx
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<Executive Summary>
The 4th Research Meeting of 2012 of Research Approach (1) of HIJAS (Yusuke Suzumura)


The 4th Research Meeting of 2012 of Research Approach (1) of Hosei University Research Center for International Japanese Studies will be held on 9th November. Presenter is Dr. Takayuki Mifune of Tokyo Health Care University and theme is "Formation and Development of the Urashima Tale".

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個利個略を優先して都知事を辞職した石原慎太郎氏の不明

昨日、東京都の石原慎太郎知事が会見を開いて辞意を表明した後、都議会議長に辞表を提出しました。


これにより、筆頭副知事の猪瀬直樹氏が知事代行を務め、公職選挙法の定めに従い、50日以内に都知事選挙が行われます。


石原氏は、知事を辞職した後は国政に復帰し、民主党でも自民党でもない、いわゆる第三極の勢力を糾合し、大阪市長の橋下徹氏が代表を務める日本維新の会との連携も視野に入れているとされます1


現在、政権党である民主党の支持が低落し、野党第一党である自民党も態勢が盤石とはいえない現在の中央政界の状況を見れば、比較的に高い知名度を活かし、三度国政に復帰して一定の権勢を振るうことも可能であろうと石原氏が考えたとしても、不思議ではありません。


しかし、2011年4月に選出され、2015年4月まで任期を残しているにもかかわらず途中で辞職することは、知事選挙に際して石原氏に投ぜられた約260万人の有権者からの信託に応える行動ではなく、石原氏が機を見るに敏であるとしても、個利個略のために有権者をないがしろにする人物であることを明確に示します。


また、2011年の選挙への立候補を表明する際に、都議会において「私自身の心身の限界はありますが、身命を賭して最後のご奉公をさせていただく決心をいたしました」と発言したこと2を考えれば、石原氏の今回の行動は、「身命を賭して」職務に励むことを明言しながら、その励むべき職務を途中で放棄することになりますから、「身命を賭して最後のご奉公をさせていただく」ことを宣言した都議会を侮辱するものです。


このとき、石原氏の自発的な辞職が許されるのは、石原氏も自ら認める「心身の限界」による場合のみであります。それ故、もし知事の職を辞するのであれば石原氏の心身は限界に達しているのであって、そのような人物が国政の一翼を担うことがどこまで可能か、われわれははなはだ懐疑的にならざるを得なくなるのです。


このように考えれば、石原氏の辞職は論理的に破綻し、道義的にも許されないことであるのは、明らかです。


もし、石原氏が、自らの詐術的な行為が許容されると考えているのなら、有権者の知的水準はそれほど低くはないことを配慮すべきでありますし、言動の不一致に気付いていないのであれば、日に三省し、身を慎まなければなりません。


いずれにせよ、「現在の日本国民の政治に対する軽侮と不信は、今日このような表彰を受けたとはいえ、実はいたずらに馬齢を重ねてきただけでしかない、まさにこの私自身の罪科であるということを改めて恥じ入り慙愧するのみであります」と述べて議員を辞職した石原氏3には、発作的に職務を投げ打つという前歴があり、驚くに値しないものかもしれません。


それでも、自らの行動が、「自身の罪科」と述べた「国民の政治に対する軽侮と不信」を高めることに繋がるということを考慮しないのであれば、石原氏は便宜主義者の域を出ないと言えるのです。


1 維新と連携模索. 日本経済新聞, 2012年10月26日朝刊3面.
2 平成23年第1回定例会議事録. 東京都議会, 2011年3月11日, http://asp.db-search.com/tokyo/dsweb.cgi/documentframe!1!guest01!!13633!1!1!1,-1,1!11567!518010!1,-1,1!11567!518010!4,3,2!3!3!29531!!3?Template=DocAllFrame (2012年10月26日閲覧).
3 衆議院本会議における演説. 衆議院, 2012年4月14日, http://kokkai.ndl.go.jp/cgi-bin/KENSAKU/swk_dispdoc.cgi?SESSION=17771&SAVED_RID=2&PAGE=0&POS=0&TOTAL=0&SRV_ID=7&DOC_ID=3654&DPAGE=1&DTOTAL=1&DPOS=1&SORT_DIR=1&SORT_TYPE=0&MODE=1&DMY=18411 (2012年10月26日閲覧).


<Executive Summary>
Withdrawal of an Incompetent Opportunist: Tokyo Governor Shitaro Ishihara and His Unscrupulous Attitude (Yusuke Suzumura)


Mr. Shintaro Ishihara, the Governor of Tokyo, quitted his post on 25th October and said to stand to the coming general election. But he was just elected as the Governor in last year and has three more years in office. Thus his attitude diminishes voters, is so unscrupulous, and demonstrates he is an opportunist who puts his own interest ahead of public interest.

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【新刊書籍案内】A History of the Takarazuka Revue Since 1914 by Makiko Yamanashi

いささか旧聞に属しますが、今年5月、近現代生活文化研究家の山梨牧子さんの著書A History of the Takarazuka Revue Since 1914: Modernity, Girls' Culture, Japan Popが、オランダの出版社Global Orientalから出版されました。


1914年に誕生し、宝塚少女歌劇団、すなわち現在の宝塚歌劇団については、日本の内外で研究の蓄積がなされているものの、特に外国の研究では日本人による情報の発信が少なく、もっぱら、「女性による女性のための舞台」という宝塚歌劇の特徴の一つを普遍的な性格と捉え、「宝塚歌劇における社会的性のあり方」や「集団的同性愛の対象としての宝塚歌劇」という外国人の研究が主流となっています。


これに対し、本書は、宝塚歌劇を、日本にレヴューという舞台の形式を定着させるとともに、大正時代から昭和初期にかけてのいわゆるモダン文化の発展の一翼の担い手と捉え、社会、文化、風俗、習慣といった点から分析する点に、既存の研究との相違があります。


また、宝塚少女歌劇団の創設者である小林一三の「少年には野球を、少女には歌劇を」という考え方に着目し、これまでの宝塚歌劇に関する研究では付加的に触れられていなかった小林一三における野球の位置付けを詳述している点も、本書の特徴です。


そして、何より重要なのは、本書が、日本人が英語で出版した最初の宝塚歌劇に関する研究書であるという点で、宝塚歌劇を通して日本の文化の変容や文化的な事象の展開を知ることができるのは、外国の読者にとっても有益といえます。


山梨牧子さんの長年の宝塚歌劇に関する研究の成果が遺憾なく示されている本書は、宝塚歌劇の研究史に画期をなすだけでなく、日本のモダン文化を知るためにも意義深い良書であり、多くの読者の目に触れることが期待されます。


なお、本書の詳細については下記の出版社の公式サイトをご覧ください。
http://www.brill.com/history-takarazuka-revue-1914


<Executive Summary>
Book Notice: "A History of the Takarazuka Revue Since 1914: Modernity, Girls' Culture, Japan Pop" by Makiko Yamanashi (Yusuke Suzumura)


Ms. Makiko Yamanashi published her new book A History of the Takarazuka Revue Since 1914: Modernity, Girls' Culture, Japan Pop from Global Oriental, a Dutch branch of Brill. It is the first English book about Takarazuka Revue Company by Japanese author. This book is beneficial not only to understand historical development of Takarazuka Revue Company but also to know Japanese modern culture.

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【開催案内】法政大学国際日本学研究所2012年度第8回東アジア文化研究会

来る11月7日(水)、法政大学国際日本学研究所アプローチ(3) 「<日本意識>の現在―東アジアから」では、2012年度第8回東アジア文化研究会を開催します。


今回は、関西大学外国語学部教授の内田慶市氏を招き、「言語接触と文化交渉学――中国言語学および翻訳論の立場から」と題して行われます。


関西大学が2007年度に文部科学省グローバルCOEとして採択された「東アジア文化交渉学の教育研究拠点形成」プログラムにより取り組んできた文化交渉学に関する取り組みの成果をもとに、中国語学と言語接触を専門とする内田氏が、イソップ童話の東漸などを事例とし、東洋と西洋の言語や文化における接触と交渉について報告する予定です。


ご予定が合い、ご興味のある方はぜひご参加ください。


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法政大学国際日本学研究所 戦略的研究基盤形成支援事業
「国際日本学の方法に基づく<日本意識>の再検討―<日本意識>の過去・現在・未来」
アプローチ(3) 「<日本意識>の現在―東アジアから」
2012年度第8回東アジア文化研究会


<日時>
2012年11月7日(水)、18:30-20:30


<開場>
法政大学市ヶ谷キャンパス58年館2階国際日本学研究所セミナー室


<報告者>
内田慶市(関西大学外国語学部教授)


<論題>
言語接触と文化交渉学――中国言語学および翻訳論の立場から


<司会>
王敏(法政大学国際日本学研究所専任所員、教授)


<申込方法>
下記の専用サイトからお申し込み下さい。
https://www.hosei-web.jp/fm/10202.html


<詳細情報>
http://hijas.hosei.ac.jp/tabid/1094/Default.aspx
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<Executive Summary>
The 8th Research Meeting of East Asia Culture Research Meeting of 2012 of HIJAS (Yusuke Suzumura)


The 8th Research Meeting of East Asia Culture Research Meeting of 2012 of Hosei University Research Center for International Japanese Studies will be held at 18:30-20:30 on 7th November. Speaker is Professor Dr. Keiichi Uchida of Kansai University and theme is "Linguistic Contact and Cultural Interaction Studies: From a Place of Chinese Linguistics and Translation Studies".

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大リーグ選手と日本プロ野球の経験

現地時間の10月21日(日)、大リーグのナショナル・リーグ優勝決定シリーズの第6戦が行われ、サンフランシスコ・ジャイアンツがセントルイス・カーディナルスを6対1で下し、通算成績を3勝3敗としました。これにより、ナショナル・リーグの優勝球団は、シリーズ第7戦の結果によって決まることになりました。


この日の試合、ジャイアンツの先発を務めたライアン・ボーグルソン投手は、2007-2008年に阪神タイガース、2009年にオリックス・バファローズに在籍し、2011年からは大リーグに復帰した、「日本球界経験者」です。


近年の大リーグでは、ボーグルソン投手のほかにも、2008-2009年に広島東洋カープに在籍し、2010年からテキサス・レンジャーズに入団したコルビー・ルイス投手、あるいは2005-2011年に中日ドラゴンズに在籍し、2012年からボルティモア・オリオールズに所属するチェン・ウェイン投手のような、日本の球団に在籍した後に大リーグの球団に復帰ないし入団し、各球団の主力になる選手が増えています。


日本で顕著な成績を残さなかった選手が大リーグで活躍していることは、一面において日米の球界の差が縮まっていることを示唆します。そして、他面において、大リーグを経て来日した選手が大リーグに復帰することは、日本のプロ野球が大リーグにとって選手の調整の場としてのマイナーリーグの役割を果たしていることを示し、「日本のプロ野球はマイナーリーグではないが大リーグでもない、「限りなく大リーグに近いマイナーリーグ」としてのAAAA級だ」という大リーグ関係者の一部が今も強く抱いている見方を裏打ちするものとなります。


しかし、例えば日本のプロ球団に在籍し、そこで受けた「基礎を徹底して教え込む」、「コーチが進んで選手に指導する」、「チームプレーを重視する」といった、大リーグとは異なる指導方法を実践し、優れた実績を残した指導者がいるのも事実です。


フィラデルフィア・フィリーズのチャーリー・マニュエル監督が試合前の打撃練習の際に選手のトスバッティングの相手を務める姿は、球場でよく目にするものの、大リーグの一般的な光景ではなく、日本的な場面と言えます。実際、ヤクルト・スワローズ在籍時の広岡達郎監督の指導方法の影響を受けて指導者として大成したことを公言しており、マニュエル監督にとって日本での経験が有益であることがうかがわれます。


また、ワシントン・ナショナルズのデービー・ジョンソン監督は、データを重視する緻密な試合運びが特徴ですが、1975年に「大物外国人選手」と期待されて読売ジャイアンツに入団しながら、華々しい結果を残せず、2年間で日本を去った経験が、絶えず忍耐を強いられる指導者の務めに何らかの寄与を果たしていることが推測されます。


日本のプロ野球を経験した選手や指導者については、成功を収めた者と同じだけ、あるいはそれ以上に成果を残せないまま球界を去った者もいます。それだけに、わずかな事例から「日本のプロ野球の経験が有効である」という一般的な回答を導くことはできません。


それでも、日本のプロ野球が、かつてのように「功成し名を遂げた選手の最後の居場所」ではなく、大リーグへの挑戦や大リーグへの復帰を目指す選手が在籍する場所になったことは、人材の流動性の確保という点でも、人的な交流という点においても、意義のあることであろうと思われます。


<Executive Summary>
MLB Players and Coaches and Their Experiences in Japanese Professional Baseball (Yusuke Suzumura)


In current Major League Baseball, there are some players and coaches like Ryan Vogelsong of San Fransisco Giants, Colby Lewis of Texas Rangers,  Weiyin Chen of Baltimore Orioles, Charlie Manuel of Philadelphia Phillies, or Davey Johnson of Washington Senators, who had played in Japanese Professinal Baseball and distinguished achievement in MLB. It may be said that experiences in Japanese Professional Baseball was benefitial for them.

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「大リーグ挑戦」を表明した大谷翔平投手が忘れてはならないことは何か

10月21日(日)、岩手県花巻市の花巻東高校において、花巻東高校野球部の大谷翔平投手が記者会見を開き、大リーグへの挑戦を表明しました1


2012年度の高校球界を代表する投手として、10月25日(木)に行われる日本プロ野球のドラフト会議での1位指名が確実視されていた大谷投手の去就は球界関係者の注目するところとなっていましたので、今回の決断によって、大谷投手が大リーグのどの球団と契約を結ぶかが関心の対象となります。


大リーグが「国際ドラフト」の実現を目指すことによって、今後、プロ球界入りが有力視されるアマチュア選手にとって、「プロの中のどの球団か」という従来の懸案事項に加え、「日米のどちらに行くべきか」という新しい悩みに直面する機会が増えることが予想されます。


こうした悩みは、日本のプロ球界を経ず直接米国に渡る選手が増えることで次第に和らぐことになるかもしれないものの、少なくとも現時点では、「すごく難しい決断だった。気持ちが苦しい時もあった」という大谷投手1と同じ経験をする選手の数は、増えることはあっても減るものではないでしょう。


一方、日本のプロ球界を経ずに直接米国のプロ球団に入団した日本人選手で大リーグに定着した選手は、マック鈴木投手や田沢純一投手ら数えるほどですし、投手に限っていえば、50勝以上を挙げた選手はなく、マック鈴木投手の16勝が最高と、成績の面で成功を収めた選手は、現時点で皆無といえます。


これは、大リーグで成功を収めた日本人投手の多くが身に着けている、落差の大きいフォークボールや打者の手元で小さく変化するスライダーなど、「大リーグにはない、日本的な変化球」を習得することで、体格面で劣位性を補う技術を獲得する、という経験を欠くことが少なからず影響しているように思われます。


さらに、米国では、大リーグ球団と契約したアマチュア選手が大リーグに昇格するまで平均して4年かかるため、同じ4年間を日本のトッププロに位置するプロ野球12球団に正選手として在籍するためには厳しい競争を勝ち抜く必要があり、その過程でプロ選手として肉体的にも精神的にも洗練されることも、見逃せません。


そのため、功利的に判断すれば、大谷投手も、日本のプロ球団に所属してプロ選手としての技量を向上させ、その後大リーグに挑戦するほうが、成功を収める可能性が高まると推測されます。


このような先行する事例があるにもかかわらず直接の渡米を志すのですから、大谷投手の渡米の意志は強固なものであり、「自分はどういうふうになっても米国に行きたい気持ちが強い」1という発言の信憑性も高いと思われます。


その意味で、大リーグの球団との契約が成立したとしても、大谷投手は、大リーグへの昇格までの道のりは決して平坦ではないこと、そして、一度昇格したとしても定着することは難しく、さらに、成績の面で顕著な実績を残すことは想像以上に難しいことを絶えず念頭に置くことが必要となるでしょう。


1 大谷、大リーグ挑戦、花巻東、「最初から夢があった」. 日本経済新聞, 2012年10月22日朝刊33面.


<Executive Summary>
Mr. Shohei Otani and His Challenge to the Major League Baseball (Yusuke Suzumura)


Mr. Shohei Otani, an ace pitcher of Hanamakihigashi High School, revealed his intent to try for the Major League Baseball on 21st October. As a young challenger, what is most important things for Mr. Otani is to have aspirations to play in the Major Leagues and to keep his mind not to surrender to serious and hard conditions surrounding him.

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