研究ブログ

2015年5月の記事一覧

キューバへのテロ支援国家指定解除後にオバマ大統領は何をすべきか

本日、Wikitreeの国際版に連載しているコラム"Talk Anything on Sunday with Yusuke Suzumura"に最新の記事"What Shall President Obama Do After Releasing State Sponsors of Terrorism Designation Against Cuba?"が掲載されました1


そこで、今回はその日本語訳を下記に紹介いたします。


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キューバへのテロ支援国家指定解除後にオバマ大統領は何をすべきか
鈴村裕輔

米国がキューバに対するテロ支援国家の指定を解除しました。5月29日のことでした。


1982年から続いたテロ支援国家の指定が解除されたことで、バラク・オバマ大統領が進めるキューバとの国交正常化への取り組みは、今後一層進展することが予想されます。


キューバへのテロ支援国家の指定を行ったのが、「強いアメリカの復活」を標榜し、反共主義的政策を用いたことで知られるロナルド・レーガン大統領であったことと、進歩的な政策を好むものの実際には「唯一の超大国」という冷戦後の米国が占めてきた地位の揺らぎに直面しているオバマ大統領が指定を解除したことは、この33年間の米国の国内政治や国際社会の動向を考える際に、興味深い着眼点となるでしょう。


一方、米国がキューバに対してテロ支援国家の指定を行った主な理由が当時のソ連によるキューバへの武器の供与であったこと、さらにキューバに共産主義政権が樹立されてソ連の衛星国となった直接の原因が、フルヘンシオ・バティスタ政権による親米政策であったことは、見逃せません。


すなわち、1959年にフィデル・カストロがキューバ革命に成功したとき、キューバ国内の産業は、ユナイテッド・フルーツなどの米国資本の企業が独占し、大きな利益を上げていたのです。


毀誉褒貶は様々ではあるものの、キューバ革命の目的が、そのようなキューバの抑圧された状況の打破とキューバ人によるキューバ人のための政府の樹立であったことは疑いえません。


今回のテロ支援国家の指定解除を契機に1962年以来続く経済制裁も早晩緩和ないし解除されることでしょう。


しかし、それによってバティスタ時代のように少数の米国企業がキューバの富を独占するようなことになるのなら、米国とキューバの国交回復は歴史的な偉業ではなく、新たな苦難の歴史の始まりになりかねません。


それだけに、2017年の大統領退任を前に政権の遺産作りに励むとされるオバマ大統領には、目先の小さな欲に囚われることなく、両国の真の自立した関係の構築という大きな利益を目指して努力することが求められるのです。
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1 Suzumura Y. What Shall President Obama Do After Releasing State Sponsors of Terrorism Designation Against Cuba?. Wikitree Global Edition, 31st May 2015, http://www.wikitree.us/story/7732 (accessed on 31st May 2015).


<Executive Summary>
What Shall President Obama Do After Releasing State Sponsors of Terrorism Designation Against Cuba? (Yusuke Suzumura)


My latest column titled "What Shall President Obama Do After Releasing State Sponsors of Terrorism Designation Against Cuba?" was run on Wikitree Global Edition on 31st May 2015. Today I introduce the Japanese translation to readers of Japanese.

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【開催1か月前】東京都立青山高等学校同窓会2015年度総会・懇親会

来る6月27日(土)、東京都立青山高等学校同窓会の2015年度総会及び懇親会が開催されます。


今回は、2012年度以来の会場となっている渋谷エクセルホテルで行われます。


懇親会では、従来から行われている卒業後5年以内の同窓生の方の無料招待に加え、2013年度から始まった「卒業後25年の記念」の無料招待も、1990年卒業生を対象として実施されます。

青山高校の卒業生、旧教職員の皆様のご参加をお待ちしております。


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東京都立青山高等学校同窓会2015年度総会・懇親会

開催日
2015年6月27日(土)


総会開始
13時(受付開始:12時30分)


懇親会開始
14時(受付開始:13時30分、終了予定:16時30分)


会場
渋谷エクセルホテル東急6階
150-0043 東京都渋谷区道玄坂1-12-2


総会会場
フォレストルーム


懇親会会場
プラネッツルーム


参加費
5,000円
*以下の方は無料招待となります。
(1)2011年3月~2015年3月の卒業生
(2)1990年3月の卒業生(卒業後25年記念)


詳細
東京都立青山高等学校同窓会公式ウェブサイト
http://aokou.org/oshirase/dousoukai/2015/06soukai.html
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<Executive Summary>
Annual Convention and Social Gathering of 2015 of Almuni Association of Tokyo Metropolitan Aoyama High School (Yusuke Suzumura)


Annual convention and social gathering of 2015 of Almuni Association of Tokyo Metropolitan Aoyama High School will be held on 27th June 2015 at Shibuya Excel Hotel Tokyu.

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「辻元議員へのやじ問題」が示す安倍首相の問題点は何か

昨日の衆議院平和安全法制特別委員会において、安倍晋三首相は質疑中の民主党の辻元清美氏に対して「早く質問しろよ」と不規則発言を行い、議場は安倍首相の発言を巡って一時紛糾しました1


発言者に対して着席したまま不規則発言を行うことは、安倍首相の一国の首相としての品性を疑わせるものであるといえるでしょう。


また、2月19日(木)の衆議院予算委員会で民主党の玉木雄一郎氏に対して不規則発言を行い、当時の大森理森予算委員長から「答弁席で答えることはしっかりし、野次については自己を抑制していただきたい」と注意されたこと2を考えるなら、今回の辻元氏への不規則発言によって、安倍首相は自己の行動を抑制できない、一種の幼児的な気質を有することが推察されます。


あるいは、「今すぐにも議論を始めたい」と早期に安全保障関連法制の審議を開始することを切望する気持ち3が、安倍首相をして辻元氏に対して不規則発言を行わしめたのかもしれません。


しかし、こうした理由よりもさらに重要なのは、不規則発言、あるいはやじを発する者は、相手に対して直接的に関わるのではなく、むしろ傍観者として接している、という点です。


例えば、実際に相手の投げる球を打とうとする打者や、相手のシュートを防ごうとするゴールキーバーがやじを発せず、やじを発するのが観客や控えの選手であることは、やじ迫りくるボールに対応するためには無効であって、具体的な行動をとらなけくともよい人たちにとってのみ意義のある行動であることをわれわれに教えます。


その意味で、辻元氏に対して不規則発言を行った安倍首相は、あたかもサッカーの試合を見て選手にやじを発する観客とどうよう、事態を客席から眺めているだけであって、辻元氏の質問を自らに対する問いかけとして受け止めてはいなのです。


安倍首相にとってはごく当然で、気楽な心持ちで行ったかもしれない不規則発言は、安保案連法制についての審議に真摯に望んでいないことを示唆するという点で、本人が考える以上に重要な意味を有しているのであって、決して「言論の自由」といった側面で理解されるべき問題ではないのです。


1 首相がやじ. 日本経済新聞, 2015年5月29日朝刊4面.
2 鈴村裕輔, 安倍首相の「「日教組」野次」の持つ意義は何か. 2015年2月22日, http://researchmap.jp/jo4sw8zvq-18602.
3 党首討論主なやりとり. 日本経済新聞, 2015年5月21日朝刊4面.


<Executive Summary>
Jeering Implies Prime Minister Abe Is a Sideliner of the Discussion for the Security-Related Legislations (Yusuke Suzumura)


Prime Minister Shinzo Abe jeered Ms. Kiyomi Tsujimoto of the Democratic Party of Japan at the the Special Meeting for the Security-Related Legislations of the Lower House on 28th May 2015. It implies that Ms. Abe is not a combatant but a sideliner of the discussion.

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五輪特措法の成立と五輪相の専任化が示す東京五輪の問題点

昨日、参議院本会議において「平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法」、いわゆる五輪特措法が賛成多数で可決されました1


これにより、現在18名となっている閣僚の定数が2021年3月31日まで19名に増員されて専任の五輪相が設けられるとともに、6月中に首相を本部長、官房長官と五輪相を副本部長とする推進本部が内閣に置かれる予定です1


五輪特措法を制定し、現在文部科学大臣が兼務する五輪担当相を専任とする理由は、法案によれば「平成三十二年に開催される東京オリンピック競技大会及び東京パラリンピック競技大会が大規模かつ国家的に特に重要なスポーツの競技会であることに鑑み、これらの競技大会の円滑な準備及び運営に資するため、東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部の設置及び基本方針の策定について定めるとともに、国有財産の無償使用等の特別の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である」ということになります2


これを要するに、「オリンピックは大規模で国家的にとりわけ重要なスポーツ大会だから特別措置法によって必要な手当てをしなければならない」ということになるでしょう。


確かに、オリンピックがサッカーのFIFAワールドカップと並び、大規模な競技大会であることは広く知られる通りですし、国威発揚の手段として一定の意義を有することも疑いえないところです。


しかし、現在のオリンピックが国の政策的、財政的な支援なしには成り立たないほどの規模になっているとはいえ、開催権が国に対してではなく都市に対して与えられることを考えるなら、特措法の案に挙げられた「国家的に特に重要なスポーツの競技会」という理由は現実的ではあってもオリンピックの精神にもとることは明らかといえるでしょう。


また、「わが国のスポーツ人口と関連消費の拡大、あるいは文化など多大な社会的効用を生じる極めて重要な大会だ。何としても成功させなければならない」という菅義偉官房長官の指摘1も、オリンピックの意義を実利的な側面で捉えはするものの、何故、文科相が五輪担当相を兼務する現在の仕組みでは2020年のオリンピックに対応できないのかを明示できておらず、皮相的な説明に留まっていることは明らかです。


これは、「東日本大震災からの復興の象徴として東京で五輪を開催する」という、常人の理解を超えた理由によって東京へのオリンピックの招致を正当化しようとした関係者の不誠実な態度3が象徴するように、東京オリンピックとパラリンピックが具体的な理念を欠き、もっぱら功利的な側面を重視する大会であることを示します4


何より、冗費冗官の削減による行政組織の運営の効率化を目的として行われた2001年1月の中央省庁再編後に再び生じた閣僚の数の肥大化に拍車をかける五輪特措法の成立と五輪相の専任化は、安倍晋三内閣が行政改革に興味を持たないとともに、「オリンピックのため」という一言が付されれば道理に合わないことでも正当化され、不当に利益を得てもとがめられないことを、われわれに教えるといえるでしょう。


それ故、五輪特措法の成立と専任の五輪相の誕生は、現在のオリンピックが抱える問題だけでなく、オリンピックを取り巻く日本の社会の問題点をもわれわれに伝えるのであり、その意味においてのみ、具体的な意義を有しているといえるのです。


1 閣僚1増、19人に. 日本経済新聞, 2015年5月28日朝刊4面.
2 平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法. 文部科学省, http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/__icsFiles/afieldfile/2014/10/30/1353192_03_1.pdf (2015年5月28日閲覧).
3 鈴村裕輔, 東京は「2020年五輪開催候補地」としての資格を欠く. 2012年5月24日, http://researchmap.jp/jolg41xeh-18602.
4 鈴村裕輔, 理念なき開催都市東京が背負う重い責任. 2013年9月8日, http://researchmap.jp/jo0w2nxnb-18602/.


<Executive Summary>
What Is the Problems of The Act on Special Measures for the Tokyo Olympic Games of 2020? (Yusuke Suzumura)


The Bill of Act on Special Measures for the Tokyo Olympic Games of 2020 passed the House of Councilors on 27th May 2015. By this act the Minister of the Olympics established by the 31st March 2021. In thi article we discuss problem of this act.

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再び「新国立競技場」設計計画の根本からの変更を求める

昨日、下村博文文部科学大臣は参議院文教科学委員会において、新しい国立競技場の整備費の概算額について「業者との協議が整い次第、公表すると聞いている」と話し、6月下旬までに公表する意向を示しました1


一方、東京都の舛添要一知事は国が新しい国立競技場の整備費の東京都の負担額を約580億円と試算していることに対し、「全くいいかげん。支離滅裂だ」と批判しました1


新しい国立競技場の整備費を巡る国と東京都の問題が新しい国立競技場の設計に携わった者の無計画性や見通しの甘さに起因し、さらには輸入される資材の高騰が安倍晋三政権による円安誘導政策の結果でもあるという事実を糊塗しようとする、便宜主義的な態度に他ならないことは、すでに本欄の指摘するところです2


また、本欄は、打算的で便宜的な態度の代わりに求められるのが、建設費が高騰したから追加の負担を求めるといった安易な方法ではなく、高額の建設費がかかる施設が本当に必要であるのか、あるいは、現在の建築計画を破棄してより費用のかからない施設を建てることができないのかを検討する姿勢であることも求めています2


もちろん、国立競技場を解体してしまった現在となっては、国立競技場に仮設の客席を増設するという方法により事態を解決することはできません。


それでも、当初から批判のあったザハ・ハディド氏が設計した新しい国立競技場が建設費の高騰と完成の時期の遅れという具体的な問題をもたらした以上、違約金を支払ってでもハディト氏の計画を破棄し、より簡素な施設に改める判断を下すことが、最も現実的であり、現時点で最善の選択であることは明らかです。


もちろん、ハディド氏の設計図を破棄し、新しい、より現実的な国立競技場を建てるなら、東京オリンピックとパラリンピックの招致に携わった人々が国際オリンピック委員会(IOC)やハディド氏本人から批判され、あるいは非難されることは容易に想像されます。


しかし、必要なのは建設費を負担するわけでもなく、オリンピックやパラリンピックが終わったあとの施設の維持に関心を持つのでもないIOCやハディド氏の機嫌を取ることでもなければ、東京オリンピックとパラリンピックの招致の関係者の体面を保つことでもありません。


国や東京都、あるいは東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会などの関係者には、弥縫的な対応ではなく、事柄を問題を根本から解決しなければならないのであり、成熟した都市で開くオリンピックとパラリンピックにふさわしい選択なのです。


1 「支離滅裂」都知事が批判. 日本経済新聞, 2015年5月27日朝刊39面.
2 鈴村裕輔, 「500億円負担問題」を機に「新国立競技場」設計計画を根本から改めよ. 2015年5月19日, https://researchmap.jp/jo640cmh6-18602/#_18602.


<Executive Summary>
Again, We Suggest to Change the Design Plan Fundamentally: the Issue of an Add-on Expense for the New National Stadium (Yusuke Suzumura)


On the issue of an add-on expense for the New National Stadium, we show a better solution for authorities. To obey or not to obey this suggestion, it would be very serious question for them.

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木も森も見ない安倍首相の奇怪な「木を見て森を見ない議論」発言

本日から、衆議院において安全保障関連法案の審議が始まりました。


これに先立ち衆議院の平和安全法制特別委員会は5月25日(月)の理事懇談会において、5月27日(水)、28日(木)、6月1日(月)に安倍晋三首相が出席して審議を行う日程を決めました1


一方、安倍首相は5月25日(月)の自民党役員会で、安全保障関連法案について野党が「自衛官のリスクが高まる」と主張していることについて「木を見て森を見ない議論が多い」、「抑止力を高め、国民の安全リスクを低くしていくための法整備だ」と反論し、野党の批判に不快感を示しました2


安倍首相の発言は、各種の世論調査において安全保障関連法案に対する不信感や懸念の声が多いことや、国民の反対によって法案の成立が遅れることに対する苛立ちを反映しているものと推察されます。


実際、4月29日(水)に米国連邦議会の上下両院合同会議で演説を行い、安全保障関連法制を今夏に成立させると表明した安倍首相3にとって、もし今国会で法案が成立しなければ、自らが明言した国際公約を履行できないことになり、米国の不信感を増長させるだけでなく、自民党内でも求心力の低下が避けられないだけに、現状に対する不満を述べたとしても不思議ではありません。


その意味で、安倍首相は自分自身の不用意な発言によって自らの進退を窮まらせかねない状況を生み出したのであり、われわれは自らの発言の責任を取ることを求められているだけの安倍首相に一片の同情の念を抱く必要もないのです。


ただし、憐れむべきは「自衛官のリスクが高まる」という野党の指摘を「木を見て森を見ない議論である」とする安倍首相の考えです。


すなわち、安倍首相は「安全保障法制の整備によって日本の抑止力を高めることで、国民の安全リスクを低くする」という論法で自説を正当化し、野党の考えは事柄の部分に着目するだけで全体を見ていないと批判します。


確かに、安全保障法制の整備が日本の抑止力を高めるとともに、抑止力の上昇が国民の安全に対する危険性を低めることが自明であるのなら、野党の批判は自衛官の危機に対してのみ注目する、偏った見方となるでしょう。


しかしながら、「後方支援も戦闘現場になれば直ちに撤収する」といった発言4が理論的には妥当かもしれないものの実現させることが容易でないことを考えるなら、安倍首相自身は森を日中に肉眼で見ているつもりでも、実際には色眼鏡や曇り硝子を通して、あるいは暗がりの中で森を見ているだけかもしれません。


このとき、安倍首相は木という各論を正しく把握できていないばかりか、総論としての森も見誤っているのですから、そのような人物の議論に信を置くことは難しくなります。


従って、「木を見て森を見ない議論が多い」という安倍首相の指摘は、実は安倍首相本人が木も森もみられていないことをわれわれに教えるのです。


1 27日から実質審議に. 日本経済新聞, 2015年5月26日朝刊4面.
2 「木を見て森を見ない議論多い」首相が反論. 日本経済新聞, 2015年5月26日朝刊4面.
3 米国連邦議会上下両院合同会議における安倍内閣総理大臣演説. 首相官邸, 2015年4月29日, http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2015/0429enzetsu.html (2015年5月26日閲覧).
4 党首討論主なやりとり. 日本経済新聞, 2015年5月21日朝刊4面.


<Executive Summary>
Did Prime Minister Abe See the Trees and the Forest? (Yusuke Suzumura)


Prime Minister Shinzo Abe pointed out that discussions on the security-related legislations don’t see the forest for the trees on 25th May 2015. However his arguments are always misdirected and he would not be able to see not only the forest but also the trees.

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【開催報告】第5回佐藤和征先生を囲む会

昨日は、13時から15時30分までロカンダ・エッフェクにおいて、「第6回佐藤和征先生を囲む会」が開かれました。


「佐藤和征先生を囲む会」は、2000年4月から2006年3月まで東京都立青山高等学校の音楽科教諭を務め青山フィルハーモニー管弦楽団の第3代代表顧問として青フィルの発展に尽力された佐藤和征先生をお迎えし、佐藤先生に薫陶を受け、あるいはお世話になった卒業生たちが交流を深める会で、2006年以来2年に1回ずつ開催されてきました。


今回は、佐藤先生が2015年3月で定年退職されたことを記念し、開催の時期を当初予定されていた2014年5月から2015年5月に改めて行いました。


7名の卒業生が集まって開かれた第6回は、各参加者が佐藤先生にまつわる思い出や逸話を披露し、先生がその当時を振り返って話をされるなど、例年以上に充実したひと時となりました。


定年されたとはいえ、現在でも東京都立東村山西高等学校で再任用教員として教育活動に従事し、多忙な日々を送られている佐藤先生が貴重な時間を割いて会に参加してくださったこと、また、多くの卒業生の皆さんが佐藤先生の定年を祝うために集まって下さったことは、実にありがたいことだと、改めて青フィルに関わる皆さんの人的な繋がりの豊かさと篤さが実感された次第です。


なお、次回の第6回は2016年5月に開催される予定です。


<Executive Summary>
A Celebration Gathering for Mr. Kazuyuki Sato of 2015 (Yusuke Suzumura)


A Celebration Gathering for Mr. Kazuyuki Sato of 2015 was held on 24th May 2015. In this time 7 participants celebrated Mr. Sato's retirement from the Tokyo Metropolitan High School.

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劇団セルビシエ'第6回公演『ヴィア・ドロローサ』

昨日は、19時2分から20時37分まで、荻窪小劇場において劇団セルビシエ'の第6回公演『ヴィア・ドロローサ』(作・演出:高橋陽文)を鑑賞しました。


寸評は以下の通りです。


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2013年12月のオムニバス公演vol.1「今回、和田は、いません」以来17か月ぶりの興行となる劇団セルビシエ'の第6回公演では、高橋陽文の脚本と演出による『ヴィア・ドロローサ』が上演された。


セルビシエにおける高橋の脚本は「今回、和田は、いません」における『泥棒と惑星の等式』以来2回目だ。


今回の『ヴィア・ドロローサ』は、「記憶を失くしたイエス・キリスト」(大垣友)と飛び降り自殺をしようとして「イエス」に止められた女子高校生マリナ(タリ)、「イエス」に導きを与え進むべき道を示そうとする神「ナルシス」(横山直人)、そして「イエスの到着」を待つ「ユダ」(飯田紘一朗)ら「十二使徒」を中心に展開される。果たして「イエス」は記憶を取り戻せるのか、そもそも何故記憶をなくしたのか、あるいはマリナが自殺を試みた理由は明らかにされ、「イエス」は「十二使徒」たちの下に合流できるのだろうか。


いくつかの奇妙な出来事が表面的にも深層的にも関わり合いながら進められる物語は、「名もなき男」が「イエス」と分かる前半、「イエス」の招待と記憶を失った理由が明らかとなる中盤、そして「イエス」と「十二使徒」の関係が説明される後半の三部分に別れて進む。


高橋の脚本の特徴は、奇抜な設定が意外な結末へと至る過程が小説的であり、舞台の使い方がきわめて映画的という点に求められる。『ヴィア・ドロローサ』は場面の転換や物語の進み方がより演劇的になっており、その意味で高橋が作風の幅を広げるために様々な試みを行っていることが推察された。


確かに、人物の造詣にやや詰めの甘さを残したことや95分の舞台で8回の暗転を行ったことなどは、今後の舞台の構成や演出を考える上で、解決すべき具体的な課題となる。


それでも、「イエス」の何気ない一言や「十二使徒」が「イエス」を待つ場面などにさり気なく置かれた複線を中盤から終盤への以降の際に回収する手際の鮮やかさ、全てが明らかになった後に十字をあしらった舞台装置を見返した観客が了解する含意の奥深さ、あるいは中盤におけるベケットの『ゴドーを待ちながら』を連想させる展開は、高橋が作風の模索を行いつつも依然として自らの特徴を維持していることをわれわれに伝えるものであった。


和田幸子の脚本によって「人間性への絶対的な信頼」を哲学的に描いてきたセルビシエは、高橋の作品を通してより重層的な舞台を作ることに成功したといえよう。


また、物語の筋立てや出演者の演技の内容とともに重要なのが舞台の造作、とくに黒地の背景に上下左右に組み合わされた二本の白抜きの線である。

一見すると十字架をあしらっていると思われる二本の線が単なる十字架の模倣ではなく、過去と現在、人間と神、記憶と忘却、我と汝、あるいは観る者と観られる者という互いに異なる、しかも『ヴィア・ドロローサ』を支える要素を象徴しているということは、物語の進展に伴って次第にわれわれに明らかになってくる。

このような象徴性の高い舞台の設計はそれだけ観衆の作品への注意を喚起するとともに、まさに目の前で繰り広げられる物語に対する理解を深めことに寄与する。

それとともに、抽象性の高い舞台装置を効果的に利用できるか否かは、上演に関わる者の実力を直接的にわれわれに教えるものである。

それだけに、『ヴィア・ドロローサ』は、構成、上演、そして装置の面でいずれも有意義な結果を残しており、次回はどのような舞台がわれわれの目の前に現れるのか、今から興味深く思われた。


*劇団セルビシエ'第6回公演『ヴィア・ドロローサ』, 2015年5月23日(土), 19時2分から20時37分, 荻窪小劇場.
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<Executive Summary>
Stage Review: Theatre Cerbiciae' the 6th Performance "Via Dolorosa" (Yusuke Suzumura)


Theatre Cerbiciae' held the 6th Performance Via Dolorosa created and directed by Akifumi Takahashi on 23rd May 2015.

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法政大学国際日本学研究所外国人客員研究員研究成果報告会

去る5月18日(月)、14時15分から16時まで法政大学九段校舎別館共同研究室4において、外国人客員研究員研究成果報告会が行われました。今回は、繆暁陽氏(北京週報社)が「なぜ日本人の9割が中国によくない印象を持っているのか?――研修レポート」と題して報告しました。

繆氏は2015年1月26日(月)から5月25日(月)まで法政大学国際日本学研究所に外国人客員研究員として在籍し、今回は4か月間の日本滞在中に行った調査と研究の成果の一部が報告されました。

報告の概要は以下の通りでした。

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2014年9月、日本の特定非営利活動法人言論NPOと中国の中国日報社は2014年7月から8月にかけて行った第10回日中共同世論調査の結果を公表した。日本側の調査は有効回収標本数が1000件であり、「相手国に対する印象」の質問について、「良くない印象を持っている」と「どちらかといえば良くない印象を持っている」と答えた者の割合は93.0%で、2005年の第1回調査以来最高の数値を記録した。一方、中国に対して「良い印象を持っている」と「どちらかといえば良い印象を持っている」と回答した割合は6.8%で、過去最低であった。また、2014年12月22日(月)に日本の内閣府が発表した「外交に関する世論調査」(有効回答件数:1801件)では、中国に対して「親しみを感じる」が3.3%、「どちらかというと親しみを感じる」と答えたものが11.4%「どちらかというと親しみを感じない」者が30.4%、「親しみを感じない」が52.6%であった。

今回は、このような調査結果を元に、なぜ日本人の9割が中国に対して親しみを感じないのかについて考察した。その際、王敏氏(法政大学)と加藤青延氏(NHK)の二人から有識者としての見解を得るとともに、両氏の意見を分析の際の参考として活用した。

第10回日中共同世論調査の結果について、日本人が中国人対して良くない印象を持つ原因として上位に挙げられるのが「国際的なルールと異なる行動をするから」、「資源やエネルギー、食糧の確保などの行動が自己中心的に見えるから」、「歴史問題などで日本を批判するから」、「尖閣諸島を巡り対立が続いているから」であった。ここから、経済力や軍事力を背景とした中国の行動に対して日本人が「良くない印象」を抱きがちであることが推察された。

次に、回答者の中国に関する情報源について複数回答により確認したところ、96.5%が「日本のニュースメディア」から情報を得ており、「中国人との直接の会話」は3.5%、「中国への訪問」が0.8%であった。これは、回答者が中国への訪問や中国人との直接の会話ではなく、ニュースメディア、とりわけテレビを通して回答者が中国に対する見方を作り上げていること、さらに中国人にとっても日本を直接訪問した結果(1.8%)や日本人との直接の会話(1.0%)よりもニュースメディア(91.4%)や中国のテレビ番組(61.4%)によって相手国の像を形成していることが示唆された。ここから、日中両国の相手に対する印象の悪さは、相手国を訪問した結果ではなく、相手国に対する直接的な体験や理解の不足によることが推測された。

ニュースメディアを通して形成される相手国の像が否定的になる理由はいくつか考えられる。そして、その中の重要な点として挙げられるのが、「悪い話を多く伝える」というメディアの特徴である。すなわち、視聴者や読者を扇動することを特徴とするメディアの情報によって「あの国は自分の国のことを嫌っている」と思った者は、「嫌っている」と考えられている国や人々に対して好感を持てなくなる。これは、人々とメディアの関係を考える際に重要な点であり、客観的な報道が求められる理由でもある。そして、「外交に関する世論調査」において20歳代の中国に対する好感度が最も高かったのは、この世代が新聞やテレビを見ず、日常的にソーシャルメディアによって情報を得ていることが原因ではあろう。

一方、中国人と直接的な交流を行うことで日本人の中に相手に対する嫌悪感や批判的な態度が生じることがある。これは、日本における中国人の行動の中に日本人が嫌悪感を抱くような振る舞いがあることともに、日中両国の習慣の違いが中国人に対して日本人が否定的な考えを抱くことに繋がっていると考えられる。また、環境問題や経済発展に伴う貧富の格差の増大といった中国自身の課題や、世論調査の母集団が統計学的には意味のある規模であっても日本国民の全般的な傾向を知るためには必ずしも十分ではないこと、さらには調査の結果を単純化していることも、「日中両国間の感情の悪化」という見方を形成するために一定の影響を及ぼしているといえる。その意味で、「日本人の9割が中国を嫌っている」という見方は、衝撃的ではあっても実際の日本人の中国に対する適切に見方を反映していないと思われる。

さて、報告者は4か月間の日本滞在中に、合計50人以上の日本人に直接取材を行い、中国に対する印象や興味を持っている中国の話題について質問した。その結果、中国を訪問した経験を持つ回答者はいずれも自らの体験に基づいた印象や話題を述べており、中国に対して苦言を呈することはあっても中国に対して否定的な態度を示さなかった。また、政治的、経済的な話題よりも文化的な側面に言及するという点でも一致していた。これに対して、中国を訪問した経験のない者は、ニュースメディアの情報によって中国に対する印象を放していた。

それでは、今後、日中両国、とりわけ報告者の母国である中国において、両国民の親近感を向上させるためにどのような取り組みがなされるべきであろうか。

第一に注意すべきは、中国は政治や経済の分野で国力を増強させる必要はあるものの、中国が立ち遅れている環境技術や品質管理といった分野で日本から積極的に学ぶ姿勢を維持するということである。第二が日本に向けて中国の情報を紹介する際、単純化した情報を伝えないこと、報道に携わる者が日本との文化的な相違性について十分な知見を持つこと、日中の類似点に注意すること、現代の中国の魅力を日本に伝えること、国家同士の関係だけでなく、民間での有効促進に向けた取り組みを紹介することが重要である。三点目として挙げられるが、一般的な交流だけでなく、エリート層の交流活動の促進など、多様な交流関係の構築が必要である。そして、最後に中国の若い世代への教育をより充実させ、日本を含む各国との交流の妨げとなるような行動や考えを改めるよう努めなければならない。

このような取り組みはすぐに何らかの成果を挙げるということは難しいかもしれない。しかし、地道な努力を積み重ねることが最終的には日本と中国のより良い関係を実現することに繋がると信じ、報告者は帰国後も両国の友好の促進のために尽力したいと考えている。
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上記の報告から、繆氏が4か月間の日本滞在中に日本の文物に触れるだけでなく、多くの日本人と交流を結ぶことで、日本の実際の姿や等身大の日本人の様子を経験したことが示されました。

そして、こうした取り組みが今後の日中両国のあり方に一つの指針を与えたといえるでしょう。

<Executive Summary>
Special Research Meeting by the Visiting Foreign Researcher of HIJAS (Yusuke Suzumura)

The special research meeting by the Visiting Foreign Researcher of the Hosei University Research Center for International Japanese Studies was held on 18th May 2015. In this time Ms. Xiaoyang Miao of the Bejing Review made the report of her research during past four months in Japan.
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湯川氏と後藤氏の死を無駄にした検証委員会の報告書

昨日、「イスラム国」を名乗る組織による湯川遥菜氏と後藤健二氏の殺害事件への対応について、政府の検証委員会は「救出の可能性を損ねるような誤りはなかった」とし、政府の対応が妥当であったとする報告書をまとめました1


報告書は、湯川氏の行方不明が発覚した2014年8月から後藤氏の妻に宛てた犯行グループからの電子メールを政府が確認した2014年12月3日(水)まで、「イスラム国」が2人の動画を公開した今年1月20日(火)まで、動画公開後の対応、と時系列に分け、「論点」、「評価」、「有識者からの指摘」などが盛り込まれています2


有識者からは「動画公開前の段階における努力が重要であった」、「柔軟な対応を検討すべきだ」との指摘があったものの対応を正面から批判する意見はなく、また、「イスラム国」が動画を流す直前の今年1月17日(土)に安倍晋三首相がエジプトでイスラム国対策として2億ドルの人道支援を表明した演説について、有識者からは「脅迫の口実にされた」、「対外発信には十分に注意する必要がある」との苦言を呈する意見が提出されましたが、政府は「内容・表現には問題がなかった」と結論付けました1


本欄では、政府の対応を検証する際に、今回の事件が発生し、人質2名の殺害という結果に至った過程を明らかにするための最低限の事項として、以下の6点を明示しています3


  1. 日本政府が2014年11月頃から2か月程度にわたって後藤氏の解放を巡って「イスラム国」を名乗る組織と交渉に当たっていた可能性のあること4の真偽
  2. 2014年11月に来日したヨルダンのアブドラ国王が安倍首相との会談の中でヨルダン側から後藤氏と湯川氏が「イスラム国」に拘束されている可能性が伝えられた際5の日本政府の具体的な対応
  3. 政府内には「イスラム国」などによる暴力行為が過激になっている状況を踏まえて1月の安倍首相の中東歴訪を先送りすべきだとの意見もあったものの安倍首相の強い意向で訪問が断行されたこと5の妥当性
  4. 湯川氏がシリアに渡航した実際の目的
  5. 後藤氏が湯川氏の救出を計画した実際の目的
  6. 湯川氏と後藤氏の殺害予告がインターネット上に公開されてからの政府による情報の開示の方法の適切さと妥当さ


今回、報告書は「特定秘密」に該当する事項が多いという理由により、公開された情報は限定的なものとなりました1。そのため、検証委員会が上掲の6点のうち、どれをどの程度まで検証したかは不明であるばかりでなく、本欄の求める徹底した調査の実施と結果の積極的な開示6から程遠い内容となっていることは、人々の遺憾とするところです。


しかし、意見を述べるものの政府の取り組みを妥当とした報告書の一端からは、検証委員会が政府の「検証は行った」という証拠作りの一端を担う役割りに留まっていることが推察されます。


何より、今回の検証は「一般に公開できない機密情報が多い」7という理由で有識者の参画がなく、政府内部で行われたため、特定秘密保護法の施行によって知る権利が制約されるのではないかという国民の漠然とした不安8が的中したことによって、2013年12月に成立し、施行された特定秘密保護法の問題が露呈されたといえるでしょう。


政府の取り組みを追認し、しかも中東などの言語・宗教・現地事情に精通した専門家育成といった情報収集・分析能力の強化、テロリストが支配する地域への日本人の渡航を抑制するための検討といった誰もが容易に思いつく事項を課題として挙げること1では、類似する事案が発生することを防げないばかりか、発生した場合に政府が効果的な対応策を施せない可能性は高まることになります。


こうして、安倍首相が「誠に無念、痛恨の極み」9とした湯川氏と後藤氏の死は、「無駄なもの」になったのです。


1 邦人人質対応「誤りない」. 日本経済新聞, 2015年5月22日朝刊4面.
2 人質解放に向けた対応、政府誤りない…検証報告. 読売新聞電子版, 2015年5月22日, http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150521-OYT1T50115.html?from=ytop_ylist (2015年5月22日閲覧).
3 鈴村裕輔, 「湯川氏と後藤氏の死」を無駄にしないために日本政府は何をすべきか. 2015年2月2日, https://researchmap.jp/jotb80csx-18602/#_18602.
4 「日本人2人殺害」脅迫. 毎日新聞, 2015年1月21日朝刊1面.
5 中東関与に難題残す、政府、危機対応を検証へ、人道支援は拡大. 日本経済新聞, 2015年2月2日朝刊2面.
6 鈴村裕輔, 検証委員会は「「イスラム国」人質事件」での政府の対応を明らかにせよ. 2015年2月11日, https://researchmap.jp/jocz9abuv-18602/.
7 邦人人質、拘束時の初動から検証、4月に報告書、秘密保護法、公開の壁に. 日本経済新聞, 2015年2月11日朝刊4面.
8 鈴村裕輔, 安倍政権は特定秘密保護法に対する国民の漠然とした不安を解消できるか. 2013年12月9日, https://researchmap.jp/jo1e9wkr5-18602/.
9 内閣総理大臣声明. 首相官邸, 2015年2月1日, http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/20150201seimei.html (2015年5月22日閲覧).


<Executive Summary>
The Examination Committee for the ISIS Japanese Hostages Crisis Could Not Do It's Part (Yusuke Suzumura)


The Examination Committee for the ISIS Japanese Hostages Crisis made its report on 21st May 2015. This report was too short to apply to the future similar crisis, since it is useless to evaluate actual activities of the authorities during the crisis.

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