研究ブログ

2016年5月の記事一覧

安倍首相の世界経済への認識と消費増税先送りは妥当か

安倍晋三首相は2017年4月に予定されていた消費税率の引き上げを2019年10月に延期するとともに、今夏に行われる参議院選挙に合わせて衆議院の総選挙を実施することを見送ることを決めました1


2015年10月に消費税を8%から10%に引き上げる予定であったものの2014年に見送った安倍首相は、「リーマンショックや大震災級の事態にならない限り消費税10%は予定通り引き上げる」と述べることで消費税の増税に意欲を示していました。


一方、安倍首相は、5月26日(木)のG7伊勢志摩サミット首脳会議で国際的な商品相場の推移を示し、2008年9月のリーマン・ブラザースの倒産を含む2008年7月から2009年2月までの商品相場の下落と2014年6月から2016年1月までの商品相場の下落とが類似していることを理由に、世界経済の現状がいわゆるリーマン・ショック前と似ているという認識を示しました2


そして、5月27日(金)のG7首脳会議で発表されたG7伊勢志摩首脳宣言は世界経済の先行きについて下方リスクの高まりを指摘するとともに、各国に構造改革とともに財政出動を求めることになりました3


しかし、実際には世界経済の現状はリーマン・ショック前に似ているという安倍首相の主張が他のG7各国から積極的な支持を得られなかったことは、首脳宣言の中に「新たな危機に陥ることを回避す る」という表現が盛り込まれたものの、どのような危機であるか具体的に言及されなかったことが示すところです。


確かに、「世界経済の現状はリーマン・ショック前の状況に似ている」という安倍首相の指摘は、各国の首脳や金融関係者にとって違和感が強く、安倍首相は消費税の増税を先送りすることを正当化するためにG7首脳会議で悲観的な分析を披露したと思われても仕方がないかも知れません4


また、増税の時期を2019年10月としたことは、2018年で自民党総裁の任期が満了する安倍首相が任期の延長を実現させるための方便とも考えられます。


それでも、2008年7月に洞爺湖サミットが開かれた際にはリーマン・ショックを発端とする世界経済の急激な減速を予想する声は例外的であったことを考えるなら、「リーマン・ショックのわずか数カ月前だった」という安倍首相の指摘5にも一定の合理性があるといえるでしょう。


あるいは、現在の世界経済が実はリーマン・ショックによる被害から根本的には立ち直っておらず、各国が量的金融緩和や財政出動を行うことでかろうじて命脈を保っているだけだとすれば、いずれ破綻を迎えるとしてもおかしくはありません。


このように考えれば、安倍首相の判断は、一面において参議院選挙の直前に増税の先延ばしを決めることで有権者の歓心を買おうという党利党略に基づいているものの、他面においては世界経済が含む構造的な問題を直視する卓見といえるでしょう。


果たして安倍首相の決断が妥当であるか否か、いずれ世界経済そのものが答えを下します。


1 消費増税、2019年10月に再延期. 朝日新聞, 2016年5月31日朝刊1面.
2 Japan's Abe Warns of Lehman Sized Crisis as per Data. MarketPluse, 26th May 2016, http://www.marketpulse.com/20160526/japans-abe-warns-of-lehman-sized-crisis-as-per-data/ (accessed on 31st May 2016).
3 G7伊勢志摩首脳宣言. 外務省, 2016年5月27日, http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000160267.pdf (2016年5月31日閲覧).
4 Japan Fails in Bid to Have G-7 Warn of Global Crisis Risk. Bloomberg, 27th May 2016,
http://www.bloomberg.com/news/articles/2016-05-27/japan-s-abe-fails-in-bid-to-have-g-7-warn-of-global-crisis-risk (accessed on 31st May 2016).
5 リスク認識が重要. ロイター, 2016年5月26日, http://jp.reuters.com/article/abe-risk-summit-idJPKCN0YH10V (2016年5月31日閲覧).
 

<Executive Summary>
Is Prime Minister Abe Right?: His Explanation for the World Economy and Its Validity (Yusuke Suzumura)


Prime Minister Abe decided to postpone tax increase until October 2019 on 30th May 2016. His decision based on a negative recognision for the world economy described in the G7 Ise-Shima Summit. A validity of this judgement would be examined in the near future.

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【映画評】『シービスケット』

昨日は、0時から2時30分までDlifeにおいて映画『シービスケット』(原題:Seabiscuit、2003年)を鑑賞しました。


本作は、大恐慌時代の米国を背景に、潜在的な能力は持ちながらも本来の力を発揮できずにいた騎手のレッド・ポラード(トビー・マグワイア)が、やはり力はあるものの小柄な体躯のために不遇をかこっていた競走馬シービスケットとともに、幸運と周囲の支援によって米国の競馬界に君臨した最高の競走馬ウォーアドミラルに挑戦する機会を得るまでと、「世紀のマッチレース」の後のポラードとシービスケットの様子を描きます。


「競馬版ロッキー」ともいうべき『シービスケット』の最大の魅力が疾駆する馬たちの躍動的で喜びに満ちた姿であることは、『戦火の馬』や『セクレタリアト』といった馬を主人公とする映画、あるいは『ロングライダーズ』、『モンタナの風に抱かれて』などの馬が重要な役を担う作品と同様です。


そして、馬の偽りのない魅力の前に登場人物たちの影が薄くなり、物語の展開そのものも単調になりやすい点も、他の映画と同じ『シービスケット』の最大の欠点といえます。


確かに、気性の荒さではシービスケットに劣らないポラードの感情の起伏の大きさは、少年時代に体験した大恐慌の影響であることが描かれます。しかし、台詞と状況に依存し、顔の表情や体の動きを通した演技に乏しいマグワイアは人物の造形を平板にします。


また、シービスケットの馬主であるチャールズ・スチュワート・ハワード(ジェフ・ブリッジス)も、自動車の販売で巨財を得た人物が自動車事故で息子を亡くすという冒頭の描写でこそ陰影に富んだ存在感を発揮するものの、その後は「シービスケットは貧しい者、弱い者の味方だ」という信念を持つ人柄のよい田舎の紳士の域を出ず、しかも糟糠の妻に捨てられた後にマーセラ(エリザベス・バンクス)と再婚するなど、軸の定まらない人物に終始します。


それだけに、シービスケットとポラードという未完の大器を成長させるトム・スミス(クリス・クーパー)の冷徹さと中継を担当する"ティックトック"マクグローリン(ウィリアム・H・メイシー)の陽気さは、惰性的に進もうとする物語の手綱を要所要所で締めることに成功しています。特にマクグローリンは『グッドモーニング,ベトナム』(原題:Good Morning, Vietnam、1987年)でエイドリアン・クロンナウア(ロビン・ウィリアムズ)に代わってラジオの司会を努めたスティーブン・ホーク少尉(ブルーノ・カービー)が話の合間にクラクションを鳴らして番組を進める様子を髣髴とさせるものであり、1930年代のラジオ番組では当たり前であった演出を1960年代になっても用いているホークの古色蒼然とした姿を蘇らせます。


このように、『シービスケット』は、馬を主人公とする映画の最小公倍数的な魅力と欠点を二つながらに備え、馬と脇役の強い個性によって支えられている映画なのです。


<Executive Summary>
Cinema Review: Seabiscuit (Yusuke Suzumura)


A movie Seabisquit created in 2003 by Gary Ross and staring by Tobey Maguire was broadcasted at the Dlife on 29th May 2016. Today I introduce my review for this movie.

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【開催1週間前】青山フィルハーモニー管弦楽団2016年度OB・OG会

5月8日(日)の本欄でもお伝えしたとおり、青山フィルハーモニー管弦楽団では、来る6月5日(日)の10時から東京都立青山高等学校音楽室において、2016年度のOB・OG会を開催します。


今回のOB・OG会も2014年度から続けて日曜日の開催となり、開始時間も昨年と同様に10時からとなっています。また、13時からはパート練習が行われるとなっています。

青フィルの在校生の皆さんと卒業生とが一堂に会して交流する最初の本格的な機会となるOB・OG会に、皆様のご参加をお待ちしております。


<Executive Summary>
Second Announcement: Aoyama Philharmonic Orchestra Alumni Meeting of 2016 (Yusuke Suzumura)


The Aoyama Philharmonic Orchestra (APO) will hold the Alumni Meeting of 2016 at the Tokyo Metropolitan Aoyama High School on 5th June 2016.

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【追悼文】金森修先生とのささやかな思い出

去る5月26日(木)、東京大学大学院教育学研究科教授の金森修先生が大腸がんのため死去しました。享年61歳でした。


金森先生に対する私の理解は「科学哲学や科学思想史の専門家」という域を出ず、研究の内容をつまびらかに知ることはありませんでした。


そのような私が金森先生と直接に関わりを持つことになったのは、法政大学国際日本学研究所が2014年6月12日(木)に開催した国際シンポジウム「受容と抵抗-西洋科学の生命観と日本」でした。


このシンポジウムには9名の報告者が参加し、英語ないしフランス語で報告が行われました。


私は金森先生の発表"The Biopolitics of Japanese Contemporary Society"の原稿の日本語訳を担当させていただくとともに、シンポジウムの成果が国際日本学研究叢書第22巻『受容と抵抗――西洋科学の生命観と日本――』として2015年に出版された際にも、日本語版の翻訳を担当いたしました。


「現代日本の生政治学」という金森先生の論考は、1960年代に社会問題化し、「薬害の原点」とも評されたスモン薬害事件と、2011年3月11日に発生した東日本大震災による福島県における原子力発電所の事故を取り上げ、市民一人ひとりの福祉よりも企業の権益や専門家たちの内輪の人脈、利益が優先される日本の社会の状況と、そのようなあり方を許す日本の生政治学(biopolitics)の実相を検討するとともに、原子力問題に関しては、中立であることが期待されている国際的な機関も利権を優先して行動することを指摘する内容でした。


発表原稿を拝見したときから大変興味深く思われ、簡潔で明晰な文章は大変力強いもので、翻訳の作業は実に愉快なものでした。そして、論文化の際に原稿の校正をお願いしたところ、特に修正すべき点はなく、註に追加してもらいたい点がある、というお返事をいただいたことは、ありがたいことでした。


シンポジウムの後は年賀状でのご挨拶のみとなってしまったために、その後再び直接お目にかかれなくなったことは、残念なことでした。


以上が金森先生と私のささやかな思い出であり、改めて金森先生のご冥福をお祈りいたします。


<Executive Summary>
Memories of Professor Dr. Osamu Kanamori (Yusuke Suzumura)


Professor Dr. Osamu Kanamori of the University of Tokyo had passed away at the age of 61 on 26th May 2016. Today I rememer some memories concerning Professor Dr. Kanamori.

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伊勢志摩サミットは日本にとって実りある会議となったか

昨日開幕した主要7か国首脳会議、いわゆるG7伊勢志摩サミットは、本日の閉幕に先立ち、討議の成果などを盛り込んだ「G7伊勢志摩首脳宣言」を発表しました1


宣言では、世界経済について各国が状況に応じ政策総動員し、市場を歪曲する補助金など懸念するとともに、テロ対策として平和的共存、包摂的な対話を促進させ、海洋安全保障の面で東シナ海や南シナ海の現状に懸念を示し、北朝鮮の挑発的行為に最も強い表現で非難するとし、ウクライナ情勢に関してロシアのクリミア併合を改めて非難する内容となっています2


世界経済の先行きについて下方リスクが高まってきていると指摘し、G7各国に機動的な財政出動を求めた点は、議長を務めた安倍晋三首相の意向を反映しているといえるでしょう。


一方、構造改革の重要性にも言及したことは、財政出動に消極的なドイツの立場にも配慮した結果3であり、積極派の日本やイタリア、あるいは容認派のフランスとしては予想の範囲内であるとはいえ、譲歩を余儀なくされたことになります。


あるいは、中国を念頭に置いた貿易問題や海洋安全保障問題についても、中国の進出を警戒する日米と中国との経済関係を重視し領土問題には関心の薄い欧州諸国との間に距離が生じている現状を反映した、迫力に欠ける内容にとどまりました。


また、ウクライナ問題に関してロシアに強硬な姿勢を示したことは、対露関係の改善によって北方領土問題の解決への端緒を開きたい日本や、シリア問題やイスラム国問題でロシアの役割の高さを認める米国にとって、必ずしも納得のゆくものではありません。


こうした状況は、ある意味で議長国である日本の思惑が外れたことを示唆します。それとともに、現在の世界経済を2008年に発生したいわゆるリーマン・ショックの前の状況に似ていると指摘することで消費税増税を延期するための地ならしとしたい安倍首相4にとって、各国の首脳の認識に差があったことは、今後目論見通りに事柄を運ぶことを難しくする可能性が高まったといえるでしょう。


その意味で、伊勢志摩サミットは、各国首脳が示すにこやかな表情に反して、日本が得た成果は必ずしも大きいものではなかったとのです。


1 「G7伊勢志摩首脳宣言」の主な内容. NHK NEWS WEB, 2016年5月27日, http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160527/k10010537211000.html?utm_int=news_contents_news-main_006 (2016年5月27日閲覧).
2 G7伊勢志摩首脳宣言. 外務省, 2016年5月27日, http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000160267.pdf (2016年5月27日閲覧).
3 独首相 サミットの共同声明に構造改革の重要性盛り込む. NHK NEWS WEB, 2016年5月27日, http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160527/k10010536781000.html (2016年5月27日閲覧).
4 首相「リーマン前に似る」. 日本経済新聞, 2016年5月27日朝刊3面.


<Executive Summary>
Was the G7 Summit of 2016 Fruitful for Japan? (Yusuke Suzumura)


The Group of Seven Summit of 2016 hosted by Japan and held at Mie Prefecture closed on 27th May 2016. We have to examine the results of the G7 Summit based on a critical view point.

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舛添都知事は政治資金疑惑で自らの首を絞める

昨日、東京都知事の舛添要一氏が出張先の福島県福島市内で取材に応じ、自らの政治資金の私的流用などの問題について、元検事の弁護士2名に調査を依頼したことを明らかにしました1


舛添氏は5月20日(金)に行った定例記者会見で「第三者に調査してもらう」と発言していたため2、今回の依頼は自らの発言を実行に移す、適切な行動といえるでしょう。


一方、都議会自民党の中には「世間の混乱を招いたのは事実で、深く陳謝すべき。説明責任が果たされたとも受け止めていない」という指摘があり、共産党が調査特別委員会、いわゆる百条委員会の設置を求めるなど1、舛添氏の行動を妥当とは認めない態度を示しています。


もちろん、都議会の野党である共産党に、今回の一件を手掛かりに舛添氏を辞任に追い込むとともに、自党から立候補者を出馬させて都政の運営を掌握したいという思惑があることは、容易に推察されます。


それとともに、舛添氏が調査に支障が出ることを理由に弁護士の氏名を公表せず、調査が終了する時期についても明言しないなど、疑惑が深まっているにもかかわらず強気の姿勢を崩していない点も忘れてはなりません。


すなわち、舛添氏の態度は、政治資金規正法に支出の是非についての定めがなく、政治家が「政治活動である」と主張すれば違法性を問いにくいという実情を考えれば、必ずしも違法的であるとはいえません。


また、少なからぬ人は、少なかぬ割合で、「正しいことを述べれば相手は納得してくれる」と考えています。


ただし、実際には、人間が物事を納得する順序からすれば、正しいことを聞くから納得するのではなく、相手を信頼するから納得する、という場合が多いことは、われわれが日常生活の中でしばしば体験する通りです。


傍目には「間違っている」ということを真剣な顔で信じる人がいるということは、一面では信じる人の知性が至らない場合があるものの、他面ではその人が相手を信じており、その人の話に納得している、という結果であることが多いのです。


その意味で、舛添氏は「妥当な話をすれば信頼される」と考え、信頼と納得の関係性を見間違えて行動していることは明らかであり、人々が事柄に対して納得する仕組みを考慮するなら、舛添氏を待ち受ける結果は芳しくないといえるでしょう。


そして、一連の発言を聞く限り、舛添氏は、自らの態度によって自らの立場を不利にしているということを自覚していないように思われるのです。


1 舛添氏、元検事2人選任. 日本経済新聞, 2016年5月26日朝刊38面.
2 都知事「外部へ調査依頼」. 日本経済新聞, 2016年5月21日朝刊38面.


<Executive Summary>
Tokyo Governor Masuzoe Wrings His Own Neck (Yusuke Suzumura)


Tokyo Governor Yoichi Masuzoe said that he required to attorneys to examine his political funds issue on 25th May 2016. However Mr. Masuzoe wrings his neck by himself, since it seems that he does not understand a relationship between reliability and validity.

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大リーグにも清原みたいな野球バカはいる

去る5月23日(月)に発行された日刊ゲンダイの2016年5月24日号に、私が隔週で寄稿させていただいている連載「メジャーリーグウォッチ」の第4回「大リーグにも清原みたいな野球バカはいる」が掲載されました1


今回は、大リーグ最後の30勝投手であり、1968年、1969年に連続してサイ・ヤング賞を獲得したデニー・マクレインが拳銃の不法所持や野球賭博で懲役刑に処されるまでの過程と理由を振り返っています。


以下に本文を一部修正した記事をご紹介しますので、ぜひご覧下さい。


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大リーグにも清原みたいな野球バカはいる
鈴村裕輔


大リーグの歴史の中で「堕ちた偶像」、あるいは「栄光と没落」という言葉が最も似合う選手は誰かと問われれば、誰もが思い浮かべるのは、デニー・マクレインの姿だろう。


マクレインが栄光を手にしたのは1968年、すなわち1934年のディジー・ディーン以来34年ぶりに年間30勝を挙げた瞬間だった。


秋風が吹き始めた9月14日のタイガー・スタジアムでオークランド・アスレティックスに5対4で完投勝利を収めたことで、マクレインはMVPとサイ・ヤング賞を獲得し、球界を代表する投手となった。


1969年も24勝を挙げて2年連続でサイ・ヤング賞を受賞し、マクレインの野球人生は順風満帆と思われた。


しかし、『エド・サリバン・ショー』や『スティーヴ・アレン・ショー』などのテレビ番組に出演し、ハリウッドやラスベガスへの進出を計画するとともに、1968年と1969年にはキャピトル・レコードから自らオルガンを演奏したレコードを発売するなど、何事につけても派手好みだったことが、マクレインの人生を没落へと導く。


1970年2月に拳銃の不法所持と野球賭博への関与、さらには賭博師との交際が発覚したために開幕から3か月間の出場停止処分を受け、その後も氷の入ったバケツを2人の記者に浴びせかけるなど、不祥事が相次いだのである。


そして、いつしか試合前に2本、試合中に5本、夕食前に1本、食後にテレビを見ながら3本、というように「1週間にペプシコーラを100本飲む」と言われ、誰からも愛されたオール・アメリカン・ボーイのマクレインは、不良選手の代表となったのだった。


将来の野球殿堂入りを確実視されていたマクレインは28歳で引退を余儀なくされ、通算成績も10年間で131勝に留まった。


その後はマイナーリーグに所属したりマイナー球団を経営したものの、1985年に恐喝、詐欺、麻薬の密売などにより懲役23年の刑を言い渡され、刑に服したのである。


それでは、何故マクレインは選手として頂点を極めながら一瞬にして没落したのか。


1988年に出版した自叙伝『ストライクアウト』の中で、マクレインは、何が正しく、何が間違っているのか、誰がよい方向へ導き、誰が破滅へと導くかを知らなかったために、言葉巧みに近寄るハリウッドやラスベガスのショービジネス界の関係者たちと交際する

うちに悪事に加担するようになった、という趣旨の反省の弁を述べている。


結局のところ、マクレインは野球のこと以外についてあまりに無知であり、無知であるがゆえに転落の道を進んだのだった。


大リーグ史上最後の30勝投手であるマクレインの姿は、今も昔も、野球選手の没落に一定の類型があることを、われわれに教えるのである。
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1 鈴村裕輔, 大リーグにも清原みたいな野球バカはいる. 日刊ゲンダイ, 2016年5月24日号28面.


<Executive Summary>
Denny McLain, His Splendor and Misery (Yusuke Suzumura)


My latest article titled "Denny McLain, His Splendor and Misery" was run on the Nikkan Gendai of 24th May 2016. Today I introduce the article to the readers of this weblog.


 

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ファイターズはなぜ新球場を建設するのか-大リーグの事例からの検討

報道によれば、プロ野球北海道日本ハムファイターズが現在の札幌ドームからの移転を前提に、新球場の建設に関する候補地の調査を進めているとのことです1


現在、ファイターズは球場を運営する株式会社札幌ドームに使用料などを年間で約15億円支払っており、収益力の向上と負担の軽減のため、総額約500億円の整備費を投じて、球団が保有する新球場の建設を計画することとなりました1


ところで、新球場の建設や球団による球場の保有のあり方について日本のプロ野球界に先んじているのが米国大リーグであることは、周知のとおりです。


私も、2007年に出版した『メジャーリーグに日本人選手が溢れる本当の理由』(青春出版社)で米国の自治体が公費を投入して球場を建設し、あるいは公営球場を利用する球団に対して税制面での優遇を行うなどの実情検討しています2


そこで、今回は本書の第5章「メジャーリーグ・ビジネス―球団オーナーたちの錬金術」の一部を抜粋し、参考として米国の状況をご紹介したいと思います。


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地域共同体とMLB球団とのかかわりを端的に示すのが、新球場の建設である。


MLBでは、1991~2006年の間に30球団中17球団が本拠地球場を新設した。現在も複数球団が球場建設を進めており、現在のMLBでは「新球場建設」が一種の流行となっている。


その背景には既設球場の耐用年数超過など外形的な理由も挙げられる。しかし、MLB球団の本拠地となる地域共同体の行政当局が、新球場建設を地域再開発、地域再生の一環と位置づけ、各種の支援を積極的に行なっていることも、球場建設熱の高まりを考えるうえで重要だ。


1962年のドジャー・スタジアム以来、初めて自己資金で建設された球場であるAT&Tパーク(旧パシフィックベル・パーク、SBCパーク)でさえ、総工費の5パーセントをサンフランシスコ市当局が負担している。


「野球専用で左右非対称、クラシックな外観と最新の設備」という、現在の主流である新古典主義的球場の先駆となったオリオールパーク・アット・カムデンヤーズから2006年に開場したブッシュ・スタジアムまでの16球場の総建設費は、48億9000万ドル。これに対し公的機関による負担額は32億1060万ドルで、総建設費の約65・7パーセントとなる。


さらに、自己資金で作られたAT&Tパークとブッシュ・スタジアムをこの16球場から除くと、総建設費(42億1900万ドル)に占める公的機関の負担額(31億5060万ドル)は74・7パーセントに達するのである。


つまり、MLB球団はたった「3割の自己負担」で新球場を建てることが可能なのである。


一方、投入される公的資金は、債券の発行、自治体独自で行なっている宝くじの収益や、ホテル税、タクシー税といった税金の一部を当てることでまかなわれることがほとんどだ。


「住民全員が応援しているわけではない一球団のために税金を使うことは認められない」という反論があるものの、今日まで公的資金の投入を断念した自治体が少数派なのは、球場建設が地域再開発の一環として行なわれているという側面と、行政当局が「球団に逃げられた街」という悪評を懸念するためである。


実際には、スポーツ経済学者や財政学者たちの間からは「球団の存在がどれほど地元経済の活性化に役立っているのかはわからない」「もし球場での消費が増えたとしても、本来はほかの余暇などに使われる出費を野球観戦に振り替えただけでしかない」「自治体が球場建設費を負担すれば、それだけ収支の均衡が崩れてしまい、財政を悪化させる」という分析が提出され、警告が発せられている。


それでも、球団が地域の顔である以上、各自治体は球団引き止めのために全力を尽くさねばならない。そして、球団との関係を良好に保つために、さまざまな便益を提供する。税制面などでの優遇措置だけではなく、球場建設費用の負担なども含まれているのである。


2001年に起きたMLBの球団削減問題でミネソタ・ツインズが削減候補として挙げられると、ミネソタ州は反対の論陣を張っている。これは政治的演出というよりも、かつてNFLのミネソタ・レーカーズに去られた経験を繰り返さない、という地域住民の感情に由来する。


アメリカでプロスポーツチームを持つということは、地域にとっては重要な意味があるのだ。
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1 日本ハムが新球場計画. 日本経済新聞, 2016年5月24日朝刊1面.
2 鈴村裕輔, メジャーリーグに日本人選手が溢れる本当の理由. 青春出版社, 2007年.


<Executive Summary>
A Meaning of Building a New Stadium for the Professional Baseball Team (Yusuke Suzumura)


It is reported that the Sapporo Nipponham Fighters, a professional baseball team of Japan, plans to build its own stadium in Sapporo om 24th May 2016. On this occasion we refer my past book True Reason of Flooding Japanese Players in the Major League Baseball published in 2007 to understand a meaning of building a new stadium for a baseball team.

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【開催報告】第6回佐藤和征先生を囲む会

昨日は、17時から19時30分まで「レストランテグリル イグアス」において、第6回佐藤和征先生を囲む会が行われました。


これは、2000年度から2005年度まで青山フィルハーモニー管弦楽団の代表顧問を務められた佐藤先生に薫陶を受け、あるいはお世話になった卒業生たちが交流を深める会で、2006年以来2年に1回ずつ開催されてきました。これまでの開催の履歴は表1の通りです。


表1 佐藤和征先生を囲む会の開催履歴(第1回から第6回まで)

回数
1
2
3
4
5
6
開催日
2006年5月13日
2008年5月31日
2010年6月19日
2012年6月10日
2015年5月24日
2016年5月22日
開催時間
13-1530
13-15
13-15
12-15
13-1530
17-1930
会場
トゥ・ザ・ハーブス外苑店
日比谷園
福建菜館福新楼
広東名菜富徳
ロカンダ・エッフェク
レストランテグリル イグアス
参加者数
7
13
7
6
7
8
参加学年数
7
10
6
6
7
7


会は原則としてオリンピックが開催される年に行われるため、会場もオリンピックの開催都市にちなんだお店を選ぶことが通例となっています。


今回は今年の8月5日(金)から第31回夏季オリンピックリオデジャネイロ大会が開かれることにちなんでブラジル料理店が会場となり、7つの学年から8名の皆さんが参加し、談笑裡に散会となりました。


その後、二次会として、カフェ・ベローチェ外苑前店で19時35分から21時まで佐藤先生を含む6名が参加して茶話会を開きました。


次回の第7回は2018年5月20日(日)に開催される予定です。


<Executive Summary>
A Celebration Gathering for Mr. Kazuyuki Sato of 2016 (Yusuke Suzumura)


A Celebration Gathering for Mr. Kazuyuki Sato of 2016 was held at Iguacu Restaurant on 22nd May 2016. In this time 8 participants attended to the gathering.

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東京工業大学管弦楽団第154回定期演奏会

昨日、18時2分から20時35分まで、めぐろパーシモンホール大ホールにおいて、東京工業大学管弦楽団の第154回定期演奏会を聞きました。


今回は、前半にウェーバーの歌劇『魔弾の射手』序曲とベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」、後半にドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」が演奏されました。指揮は末永隆一、ピアノ独奏は川村文雄でした。


寸評は以下の通りです。


*********************
東京工業大学管弦楽団の第154回定期演奏会は、前半にウェーバーの歌劇『魔弾の射手』序曲とベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」、後半にドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」が演奏された。指揮は末永隆一、ピアノ独奏は川村文雄であった。


舞台下手から出てくる足取りは重く立ち姿もやや前かがみとなっており、指揮台では椅子を使用しており、末永は体調が優れないことが推察された。そして、体調不良のためか、3曲ともいずれも緩やかな速度で演奏された。


速度の遅速そのものは譜面を再現する上で決定的な要素ではない。例えば馬車が最も高速の移動手段であったベートーヴェンの時代と時速300kmを超える高速鉄道が日常生活に溶け込んだ現代とではprestoという速度記号に対する感覚が相対的に異なることからも容易に理解できよう。


むしろ、問題は演奏者が速度の変化に対応できるか否かであり、楽譜に指定された標準的な速度よりも速くなったために不十分な演奏しか出来ず、あるいは遅くなると演奏そのものが弛緩するようであれば、そのような速度の設定は適切さを欠くと言わなければならないだろう。


それでは、今回の東工大管の演奏はどうであったろうか。


より緩やかな速度になったことで旋律が細部まで明瞭に演奏され、立体感とみずみずしさを備えることになったウェーバーは、この日の最大の収穫であった。


一方、ベートーヴェンとドヴォルザークは演奏者が適応できるという意味における緩やかな演奏というよりは、奏者が時に当惑し、時に浅く踏み込むだけに留まる、弛んだ演奏となった。


あるいは、ベートーヴェンでは、川村がピアノの独奏に不慣れなのか、しばしば伴奏の陰に隠れがちであったために、譜面の1ページ目から最終ページまでが左から右へ、上から下へと読み進められるだけになり、ドヴォルザークでは3楽章までと第4楽章の後半が緩やかな速度であったにもかかわらず第4楽章の前半だけが所定の速度で演奏されたことで前後の脈絡を欠くことになり、散漫な仕上がりとなったことは、弦楽器の音がよく鳴り、金管楽器も吹き始めにやや粗さがあったものの音の伸び方が素直であっただけに、物足りなさを覚えるものといえよう。


それでも、会場であるめぐろパーシモンホールの近辺に案内の学生が配置され、適宜来場者を誘導したことは、あるいは会場側の要請によるかもしれないものの、東急東横線都立大学駅からは徒歩8分とやや距離があるため、とりわけ会場に不慣れな来場者にとって適切な取り組みであった。


*東京工業大学第154回定期演奏会, 2016年5月21日(土), 18時2分から20時35分, めぐろパーシモンホール大ホール.
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<Executive Summary>
Tokyo Institute of Technology Orchestra the 154th Regular Concert (Yusuke Suzumura)


The Tokyo Institute of Technology Orchestra held the 154th Regular Concert at Meguro Persimmon Hall Main Hall on 21st May 2016. In this time, they played Weber's Der Freoschuetz overture, Beethoven's 5th piano concerto, and Dvosak's 9th symphony. Conductor was Ryuichi Suenaga and solo piano was Fumio Kawamura.

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