Personal Blog

2014年1月の記事一覧

翁、華厳経(抄)

2014118日は京都観世会館で片山定期能を観てきました。演目は能『翁』、仕舞『老松』(脇能物)、『采女クセ』(鬘物)、『野守』(切能物)、狂言『三人長者』、能『誓願寺』(鬘物)でした。『翁』に加えて五番立のうち修羅物と雑物を除き、鬘物を二つに増やしているところに今年一年に籠められた願いがあるのでしょう。

 

『翁』は、今まで何度か書いてきたように能でも狂言でもない「式三番」で、「翁」と「三番叟」という老体の神が天下泰平・国土安穏を願って舞う、一年の始めに舞われる目出たい演目です。悲劇である能の登場人物である能役者が「翁」を、喜劇である狂言の登場人物である狂言役者が「三番叟」を務めます。「翁」と「三番叟」の面(白式尉と黒式尉)がそのままご神体なのですが、普通の能面とは異なり顎が切り離され紐で結ばれた「切顎」なので、台詞を喋るのと同時に切顎が動き、他の能を見慣れていると能面に神が憑依して生きているかのような錯覚を覚えます。これらの能面は舞台裏の鏡の間で付けられる能面とは異なり、上演中に舞台上で付けられて役者が神格を得たことを表現しています。小鼓が1個でなく3個もあることも他の能の演目と一線を画しています。「翁」の片山伸吾先生の厳かな舞が素晴らしかったです。三番叟の野村又三郎先生も、『三人長者』のシテの役とともにメリハリのある舞が素晴らしかったです。三番叟が右手に鈴、左手に扇を持って舞う『翁』特有の特殊な構成も良いですね。

 

『老松』は能舞台の背景に描かれている松のことで、大宰府に配流された菅原道真を慕って紅梅に続き老松も飛んで行ったという伝説に基づいています。『采女』は奈良の帝を恋した采女が猿沢の池に身投げし、その霊が成仏得脱する話です。霊が出てきても怨みつらみはないことになっています。『野守』ははし鷹の森羅万象を写す野守の鏡の伝説から、野守の鏡を持つ鬼神を出して鬼神に横道なしということを説くものです。右手の扇と左手の鏡の銀扇を持って大きな動きで舞う片山九郎右衛門先生が見事でした。

 

『三人長者』は、長者号を許された三人が一緒に各々の謂れを語り、喜び合うものです。喜劇の性質は薄いですが、年始にはぴったりの目出たい演目です。

 

『誓願寺』は一遍上人が熊野権現の霊夢により『六十萬人決定往生』の御札をひろめるため、誓願寺へとやってきて歌舞の菩薩となった和泉式部の霊と出会う話です。和泉式部の華やかな舞と、側面からは目を細めていながら正面からは目を見開いているように見える能面が素晴らしかったです。この世のものとは思えない情景ですね。

 

 

能楽を理解するにはその成立時の時代背景から、仏教を知っていることが重要です。ところで天台宗には「五時」と言って、釈迦が悟りを得て菩提樹の下など21日間で説いた時の「華厳時」(華厳経)、それが弟子たちにも上手く伝わらなかったので煩悩を解く為に鹿野苑で12年間説いた時の「阿含時」(阿含経、法句経などの小乗仏教)、その後祇園精舎や竹林精舎などで16年間説いた「方等時」(浄土三部経や大日経、金剛明経、維摩経などの大乗仏教)、霊鷲山などで14年間説いた時の「般若時」(金剛般若経、般若心経など)、霊鷲山やクシナガラなど最後の8年間で説いた「法華涅槃時」(法華経、涅槃経)があります。

 

華厳経は一切衆生を救う為の大乗仏教でありながら最初に説かれたものとされ、卑近な事象が説かれている小乗仏教とは異なり多分に抽象的で哲学的です。華厳経では「縁起」という、一切の事物が縁起に依る原因と結果で繋がって絶えず変化していく様が中心教義となっています。「一即一切、一切即一」の相即相入を唱える「法界縁起」のことですね。これは仏が万物にあることから起こるもので、凡人の思慮を越えている不思議な作用ということです。仏像はその表面的な形象を表しているだけのものです。以下のように「法身不思議」であります。

 

如来の法身は不思議なり。無色無相にして倫匹無く、色身を示現して衆生の為にす。十方に化を受けて見たてまつらざるもの無し。

 

キリスト教で言えば「聖霊」の概念に近いですが、キリスト教においては聖霊に依らない縁起もあるのでそこが相違点です。心も仏も衆生も一体であるというのが、仏教風の三位一体の考えです。これが最初はよく理解されなかったということらしいのですが、衆生済度は自利即利他により自分が道を求める心を起こすことで行われます。よって「初発心時便成正覚」にある通り、道を求める心に悟りが含まれているので、絶えず道を求めて励むことが衆生済度に繋がることで、「初心忘るべからず」なのです。私は神も仏も信じている訳ではなく、「華厳経」は原典が高価なのですが、古本屋でいいものが売っていれば買ってみようと思いました。他、密教関連の原典や武徳編年集成も高価なので、いいものを見つけようと思っています。

 

『華厳経』『楞伽経』 (現代語訳大乗仏典)
中村 元
東京書籍(2003/11)
値段:¥ 2,100


 

 

0

夜更かしの女たち、愚者には見えないラ・マンチャの王様の裸【追記】

直人と倉持の会Vol. 1 『夜更かしの女たち』、観てきました!竹中直人さんの千両役者振りは健在で、それが倉持裕さんの込み入った世界が最後に見事に収束していく様とよく合っていました。

 

まず竹中直人さんを生で観たのは初めて!最初の一言目からただならぬ存在感を示しておられました。直人さんは存在感のない役割を演じておられたのですが、存在感のある存在感のない役割という何とも言い難いキャラ立てであられました。他の役者さんも有名人ばかりなので、私が普段観る芝居とはまた違った雰囲気でした。例えば長い間、外へ行っていた人物が田舎に久しぶりに帰ってきて同窓会に出た時の、空気が微妙にずれていて不協和音の聞こえるあの独特の雰囲気が上手く表現されていました。

 

物語は登場人物や舞台をある角度と別の角度から観させる、芝居を観れば誰にでも分かるある単純な手法を使って展開されます。人間関係でも自然科学でもそうですが、一つの角度から観ていると偏った特定の見方に縛られていたものが、別の視線を介することにより全く違う印象が認識され、ドラマチックな解決をみるというものです。これは倉持裕さんの得意とするところなので、それを竹中直人さん初めそうそうたるメンバーで観られたのは感激でした。音響も倉持さんワールド全開でした。早速ファンになってしまったので、このユニットの芝居をまた観たいですね。

 

徳島から大阪への車中では横内謙介さんの戯曲『愚者には見えないラ・マンチャの王様の裸』を読みました。こちらは『ラ・マンチャの男』と『裸の王様』をモチーフに、ギリシャ時代から続く悲劇と喜劇の重なり合った重厚なテーマを扱ったものでした。いうなれば『ファウスト』の御伽話風・現代的解釈というものです。私がこの芝居をするのなら、御伽話風の抽象的な話の筋がメインなので、そこに村上春樹さんのように並行する別の現実的ストーリーを絡めて改作したものを上演したいです。『ファウスト』を上演するのは世界観が壮大すぎてどこから手を付けたらいいものやらと思いますが、横内さんの脚本は高校生もよくお世話になっている通り、アマチュアの方でも上演してある程度いいものは出来そうな芝居です。

 

「王様」というのは元来悲劇の主人公なのですね。人類学的にはある民族が災難に見舞われた時は「王殺し」により災厄を追い払おうとする風習がありましたし、人柱や動物の生贄のように厄難を追い払うために大事なものを差し出すというのは、世界のいろいろな場所に見られる風習です。「悲劇 = tragedy」の語源は、ギリシャ語で牡山羊を表すトラゴスであることからも、それは明らかでしょう。漆原友紀さん『蟲師』の今のところの最終章「鈴の雫」でも、似たようなテーマが扱われていますね。


【追記】宮崎駿さんの「トリウマ」も、仲間が死ぬと卵を産むのでこの系統でしょう。生物は元来、環境が悪くなると有性生殖をして組換えを起こし、多様性を担保して次世代に繋ぐ性質を持っています。これは繁殖の成功率も考慮しないといけないのでそう単純なものでもないのですが、環境悪化時の性と次世代へのバトンタッチという本質は現実にもあります。

 


ファウスト〈第一部〉 (岩波文庫)
ゲーテ
岩波書店(1958/03/05)
値段:¥ 903


ファウスト〈第二部〉 (岩波文庫)
ゲーテ
岩波書店(1958/03/25)
値段:¥ 1,008


蟲師 全10巻 完結セット (アフタヌーンKC)
漆原 友紀
講談社(2011/02/28)
値段:¥ 6,077


 


 

0

2014初詣

 

 

今年の初詣は、まずは讃岐神社に行きました。竹取物語の翁、讃岐国造の伝説がある神社です。

 

神社参道脇の竹林。

 

 

 

次は小北稲荷神社。地元の方が多く訪れていました。本殿よりも脇の九社の方が面白かったです。

 

それから南郷の環濠集落の山王神社。石造の弥勒菩薩は由来の古いものでした。お見せできないのが残念です。

 

 

最後は伊射奈岐神社。神楽殿を後ろからとれば趣があります。

 

猫並みに可愛い石牛。

 

神社の近くには崇神天皇陵が。

 

神社横の大和天神山古墳は道にぶった切られているのが残念。

 

神社周辺にはアラカシQuercus glaucaとかクロガネモチIlex rotundaとかマガモAnas platyrhynchosとかカルガモAnas poecilorhynchaとか、いつもの仲間も居ました。今年もよろしくお願いします。

 

 

 

0