錯視 日誌

2012年5月の記事一覧

★ スーパーハイブリッド画像 錯視日誌(24)

 これまでの錯覚・錯視研究におけるハイブリッド画像は、高周波画像と低周波画像を合成して,遠くから見たときと近くから見たときで,同じ画像なのに異なったものが見えるという2層のものでした(これについてはたとえば錯視日誌(23)を参照)。
 今回、新井仁之と新井しのぶはこの2層の壁を破り、「非常に遠く」,「遠く」,そして「近く」で見たときに、同じ画像なのに異なったものが見えるという3層構造ののハイブリッド画像の作成に成功しました。以下に作成例を掲載します。
 ハイブリッド画像は2層ですが、今回作成したものは3層なので、スーパーハイブリッド画像(superhybrid image)と名付けました。

 今回作成したスーパーハイブリッド画像は、かなり遠くから見ると「と」、遠くから見ると「ま」、近くから見ると「れ」になるというものです。まずは次のアニメーションをご覧ください。画像のサイズを変えることによりシミュレーションしたものです。

 


 スーパーハイブリッド画像は次のものです。パソコン画面からかなり離れたところで見ると「と」が見え、少し近づくと「ま」になり、さらに近づいていくと「れ」が現れます。

スーパーハイブリッド画像と錯視(新井・新井)
止まれ! (Copyright Hitoshi Arai and Shinobu Arai, May 27, 2012)


 いかがでしたでしょうか。かなり遠くから見ると次のような感じに「と」が見えます.(視力検査か?)

縮小画像



 次に画像に近づいていくとこんな感じです。「ま」になってきました。
縮小画像


 そしてさらに近づくと次のような感じです.「れ」が見えてきます。
ハイブリッド画像拡大図(新井・新井)

 

関連サイト:錯視の科学館

記:新井仁之

本ページに記載の内容・画像の一部あるいは全部の無断転載を禁じます.
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★ ハイブリッド画像 錯視日誌(23)

 
 ハイブリッド画像とは、空間周波数の意味で高周波な画像と低周波な画像を合成して、遠くから見たときと近くから見たときで、異なったものが見えるように作成された画像です(Oliva, Torralba and Schyns,2006)。たとえば、Oliva氏のウェブにある「Marylin Einstein」は非常に有名です。
 以前,Marylin Einstein に刺激を受けて,ウェーブレットでハイブリッド画像の作成を試したことがあり,さらにかざぐるまフレームレット(新井・新井,2009)を考案してからは,かざぐるまフレームレットでもハイブリッド画像の作成をしたことがありました.ここでは,そのかざぐるまフレームレットによるハイブリッド画像を載せます.
 画像を近くから見るとバラが見え,遠くから見るとバラは見えなくなり,金閣寺がはっきりとわかるようになります.かなりパソコン画面から離れてご覧ください.

Hybrid Image by Pinwheel Framelet (Arai and Arai)
薔薇と金閣寺 (Copyright Hitoshi Arai and Shinobu Arai, 2012)

遠くから見るとこんな感じです(ただしこれは単に縮小したもの)。

縮尺版

カラー画像もOKです.これも画像からかなり離れてご覧いただくと,金閣寺がはっきりとわかり,バラの輪郭は見えなくなると思います.

錯視 ハイブリッド画像(新井・新井)
薔薇と金閣寺 カラー版 (Copyright Hitoshi Arai and Shinobu Arai, 2012)

遠くから見るとこんな感じです(ただしこれは単に縮小したもの)。

縮尺版


以上は新しい数学的手法で作ったと言う点が新しい試みです。

 ハイブリッド画像に関する解説は立命館大学の北岡明佳先生の『錯視入門』(朝倉書店)のpp.178-179をご覧ください。錯視入門にも掲載されている北岡先生の作品(高知城と金閣,2008)は、北岡先生のサイトでもご覧いただけます。
 
 ハイブリッド画像は、日本では東京大学の山口泰先生が研究をされています。

ニュース! 新井仁之・新井しのぶは、ハイブリッド画像を超えたスーパーハイブリッド画像の作成に成功しました。詳しくはこちらをご覧ください。スーパーハイブリッド画像

2012年5月27日 新井仁之、新井しのぶ
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★ 日経パソコン

日経パソコン(528日号)の巻頭「クローズアップ」で
『「傾く文字列」の自動生成に成功 目の錯覚を数学的に解明する』

という題で新井の研究が特集されました。
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★ 日本経済新聞

日本経済新聞Web刊に、私の研究のうち、文字列傾斜錯視に関する成果が特集されました。

平行なのに傾いている?不思議な文字列 
日本経済新聞Web刊、2012年5月18日

Google等で「不思議な文字列」と検索すると記事がヒットします。無料で閲覧できますので、どうぞご覧ください。

追記(2012/7/17) 現時点では,記事のごく一部が閲覧可能で,全文を見るためには日本経済新聞のサイトに登録が必要になっています.
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★ 錯視展のご案内

錯視展 数学で探る視覚の不思議
場所:城西大学水田美術館
期間:2012年5月8日-6月9日、10:00ー16:00、日・月休館、入場無料
監修:新井仁之

視覚、視知覚、錯覚を数学的な方法で研究する分野として監修者が提唱してきた数理視覚科学の研究成果、及びそこから生まれた錯視アートの展覧会です。この展覧会では、監修者が考案したオリジナル・ストーリーで展示が進んでいきます。脳内の視覚情報処理を元にして作った数理モデルをコンピュータに実装し、そのコンピューターに、
まず、『錯視を真似』させ、
そして、次に、『錯視をコントロール』させ、
さらに、『錯視を創作』させます。

数学的な分かり易い解説もあり、展示を見ながら、段階的に数理視覚科学を学ぶことができる新しいタイプの錯視サイエンスアート展です。
数学の予備知識は要りません。お気軽にご来場ください。

詳しくはこちらをご覧ください。
錯視展詳細
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★ ジャクソン・ポロック : 文字列傾斜錯視日誌(22)

 1956年8月16日、アメリカの地方紙「イースト・ハンプトン・スター」は、自動車が裏返しになっている生々しい写真とともにジャクソン・ポロックの事故死を報じました。事故直前、彼はかなりのアルコールを摂取していたようです。[1] によれば、それは半ば自殺といえるようなものとも考えられるそうです。
 ジャクソン・ポロック。
 アメリカに生まれ、アメリカで育ち、今ではアメリカが誇る前衛芸術家の一人です。しかし、彼自身は、かつてアメリカ的芸術というものはあり得るかと質問をされたとき、それを『おかしなもの』、『ちょうど、純粋にアメリカ的な数学や物理学を生み出すという考えがおかしなものに思われるであろうように・・・』([2] より引用)と言っています。
 彼の作品を見れば自ずとわかるように、少なくともポーリング技法を用いた全盛期近傍の作品に国という枠を感じることはできません。

 私がポロックの作品と出会ったのは、つい最近のことです。といってももう2年くらい前になります。ある画集を見ていたところ、その中にポロックの作品が 1 点掲載されていました。『ラベンダー・ミスト』と呼ばれる作品です。そこには具体的な対象はなく、色の塊と、多数の曲線とも直線ともつかないものが緊密に密集した何かが描かれているだけでした。その何かは抽象的な存在であり、しかし、一度見始めるとなかなか抜け出せなくなるものでした。ポロックはそれ以来、ずっと心にひっかかるアーティストでした。

【遂にポロック展に行く】
 今年の冬に渋谷駅で、ポロック展のポスターが目に入りました。開催場所は東京国立近代美術館です。ぜひ見たいと思いつつも、忙しくてなかなか行くことができませんでした。連休中は締め切りを過ぎた原稿をいくつか仕上げねばならないのですが、昨日よりポロック展に行く計画をたて、今日決行しました。
 美術館に着いたのは4時をかなり回っており、間もなく入館を締め切るというアナウンスが流れていました。閉館間際の駆け込み入場でしたが、チケット売り場には少し行列ができていましたし、館内もそこそこの混み具合でした。
 まずはポロックの初期の作品から見はじめました。時間もないため、やや足早にポーリング技法を使った作品へと移行していきます。そして、今回の展覧会の最大の目玉『インディアンレッドの地の壁画』に到達しました。大きさといい、作者の集中力といい、そのすごさは桁外れのものです。ところが、次の展示を見てさらに衝撃を受けました。『Number 9, 1950』です。ポーリング技法を駆使して描かれた絵の上に、さらに彼自身の作品をあたかも否定するかのように銀色の塗料が塗られています。その銀色の燻されたような輝きが美しく、むしろはかなさを感じさせるものでした。これは彼にとって最後の輝ける作品だったのかもしれません。1951年以降は、展示品の作風は変わり、作品から受けるインパクトも私には弱いものになっていきます。

【トーテム・レッスン2】
 今回のポロック展で最も感心した作品(感動ではなく感心)は「トーテム・レッスン2」です。何を感心したのかというと、これが網膜の構造を反映させた絵であると考えられるからです。中心ははっきりとしていて、周辺にいくほどぼんやりとする。この抽象画には、意図してなのか、あるいは図らずもそうなったのか、その原理に則した構造があります。その結果、中央の黒い人は絵の中で、ひときわ目立って、むしろ立体的にすら見えます。他の彼の絵の構造とは少し異なっているものが見出されます。このようなことに目が行ってしまうのは、数理視覚科学者のさがかもしれません。
 ところで、その構造は、少なくとも私の持っている2冊の画集をいくら見ていてもわかりません。印刷物と現物との違いかもしれません。やはり絵は印刷物ではなく、実物を見る必要があります。

【ポロックに因む文字列傾斜錯視】
 さて、今日の文字列傾斜錯視はポロックに因んで、次のような題材を文字列傾斜錯視自動生成プログラム(新井・新井)に課してみました。


錯視展覧会
文字列傾斜錯視自動生成プログラム(新井・新井)をMATLABに実装した画面




【引用文献】
[1] 大島徹也、絵画の歴史を変えたポロック「5つの革命」、芸術新潮、2012, 3月号、pp.46-61.
[2] JACKSON POLLOCK, A centennial retrospective, 生誕100年 ジャクソン・ポロック展 2011-2012. (美術館図録集)
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★ 測度・積分・確率論 : 文字列傾斜錯視日誌(21)

 学生の頃、A. N. コルモゴロフ著『確率論の基礎概念』(根本伸司訳、東京図書)を読み、測度と積分の概念が見事に確率論の諸概念と結びついていることに大変感動しました。今でもこの翻訳書は大切にとってあります。コルモゴロフは測度論的な確率論を創始し、現代の確率論の基礎を築いたロシアの数学者です。
 ところでコルモゴロフの確率空間は、現在定着している確率空間の定義とは見かけ上異なり、完全加法性ではなく「連続性の公理」が要請されています。確かに現在定着しているように、全測度1の測度空間を確率空間という方がすっきりしています。しかし、コルモゴロフの本にある定義には、確率モデルの構成というところまで視野に入れると、なるほどと思うところもあります。
 最近では、コルモゴロフの本の新訳が、何と、文庫で出版されています。『確率論の基礎概念』(坂本實訳、ちくま学芸文庫)です。これには、解説としてシリャーエフ『確率論の成立史』とコルモゴロフの記念碑的論文『確率論における解析的方法』の翻訳も収められています。
 まだ文庫本で数学を勉強した経験はありませんが、文庫本を左に置き、ノートで計算や証明の式を書きながら follow する気分はどのようなものなのでしょう。計算中に本のページが閉じないようにしておくのには工夫が必要かもしれません。しかしポケットに入るので、通勤電車の中や喫茶店でちょっと勉強するのには便利です。

 今回は次のような文字列傾斜錯視を、文字列傾斜錯視自動生成プログラム(新井・新井)で作成しました。
 もし画面が拡大表示になっている場合は、拡大表示を外してご覧ください。拡大表示していると錯視量が激減することがあります。

錯視
文字列傾斜錯視自動生成プログラム(新井・新井)をMATLABに実装した画面


 錯視量が少ないので、あまり良い作品ではありませんが、次のようなものも計算されました。

錯視
文字列傾斜錯視自動生成プログラム(新井・新井)をMATLABに実装した画面


 言うまでもないことですが、「から率論」、「確論積分」のような用語はありません。

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