錯視 日誌

2013年10月の記事一覧

数学とコンピュータ・グラフィックスの融合がすごい!

 JST 数学領域CRESTの安生健一先生による国際会議 "MEIS 2013: Mathematical Progress in Expressive Image Synthesis"  が開催されました。場所は九州大学医学部百年講堂です。これに招かれ、参会・講演をしてきました。
 この会議は、『数学者とCG研究者が自由な雰囲気で分野を超えた活発な交流と議論ができる』というCREST安生チームならではのものでした。今回このシンポジウムで、初めてCG関係者の方々の学術講演を聴く機会に恵まれたのですが、その内容にとにかく驚かされました。

CGって物理や、とりわけ現代数学を駆使して作られていたのです。

そんなことも知らなかったのかと言われそうですが・・・。とにかく、放物型偏微分方程式、平均曲率の方程式、表現論、離散微分幾何学、乱流など現代数学のオンパレードでした。しかも、それらが魅力的なコンピュータ・グラフィックスのデモとして提示されるのですから、ぐうの音もでません。
 たとえば Ken Museth さんという方(あの Dream Works Animation の人)は、"The Croods" というCG映画の一部を、その原理的な側面に焦点をあてた特製ミニ映画にして見せてくれました。このデモが終わった時には、そのすばらしさに思わず会場から盛大な拍手が沸き起こりました。このほか、安生チームの純粋数学グループの人とCGグループの人の共著論文なども発表されました。 まさにJST数学領域のテーマでもある数学と諸分野の協働にほかなりません。とてもエキサイティングで楽しいシンポジウムでした。
 そしてなにより、今回のシンポジウムに参加したおかげで、CGの見かたが大きく変わりました。
 なお安生先生以外のCRESTチームからも、水藤さんと荒井さんが招待講演をされており、CRESTの横断的な広がりもありました。
 
 ところで、Dream Works Animation の The Croods は日本公開されるのでしょうか?すごいCGなので、公開されたらぜひ見に行きたいと思っています。



会場で配布された本会議の予稿論文集。九州大学マス・フォア・
インダストリ研究所のレクチャーノートシリーズの一つとして刊行。
カラー画像も盛りだくさんです。


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 さて、そんなこんなで、福岡で開催された日本応用数理学会からはじまり、同志社ハリスフォーラム(京都)、数学領域CREST長山チームのセミナー(札幌)等々を経て、CRESTの安生先生のシンポジウムで福岡に戻り、日本を一往復縦断してしまいました。 
 福岡はまだ、なんとなく生暖かい日が続いています。
 ちなみに私の講演のタイトルは、Mathematical models of visual information processing in the human brain and applications to image processing でした。最近得た視覚の数理モデルの各種画像処理への応用に関する最新の結果を報告しました。


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図らずも微細動して見えるやや錯視ぽい傘だった

 雨に濡れた傘を干していたら,傘の模様がちかちかと微細動していました.写真でも少しわかります.しばらく写真の中央あたりを眺めていると,模様が微小に細動しているように見えてきます.
 ごく普通の傘をごく普通の店で買ったのに.図らずもやや錯視の見える傘でした.


錯視傘
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利用視覺科學與數學製造錯視影像

先月,台北の世界貿易センターで 2013 Taipei Int'l Invention Show & Technomart が開催されました.展示会のHPによると,台湾語では「2013年台北國際發明技術交易展」です.会場のJSTブースで,私の研究の一部が展示され,開発ソフトのデモも行われました.そのとき展示された台湾語訳パネルのファイルを,先日JSTの方からいただきました.タイトルは

利用視覺科學與數學製造錯視影像

 錯視は台湾語でどのように書くのか興味深いところでしたが,日本語と同じく錯視でした.
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数学文化20号,錯視の連載も3回目

 以前,ある月刊誌の連載を引き受けて,毎月毎月迫り来る締め切りと格闘した経験があり,なるべく連載は避けるようにしていました.しかし,昨年の春に年二回発行の雑誌の連載を依頼され,半年に一回のペースだから何とかなるだろうと思い,執筆することにしました.月日のたつのは早いもので,3回目の記事が出版されました.『数学文化』20号です.

数学文化20
日本評論社(2013/09/17)
値段:¥ 1,470


 連載を依頼されるまで,『数学文化』を見ることはあまりなかったのですが,これが結構おもしろい雑誌です.たとえば20号の上野健爾先生の『ヒルベルトと現代数学 - 生誕150年を記念して』.ヒルベルトの広大な数学とその後の数学に与えた影響が,この短いページ数の中にまとめられています.ヒルベルトの原論文に基づく解説に加えて,重要な考え方も浮き彫りにされているのはさすがです.私自身は詳しいわけではありませんが,ヒルベルト数学の骨組みが透けて見えるような解説記事です.
 20号には「数学的活動をめぐって」という特集もありました.特集には教育心理学の専門家の犬塚氏による数学教育の話,中・高校の先生の田中氏のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の話,それに芳沢光雄先生のお名前も. じつは9月下旬にあった同志社ハリスフォーラムで,たまたま芳沢先生のご講演を聞いたばかりでした.ご講演のタイトルは記事のそれと同じでした.ということは内容をじかに拝聴できたということになります.それから,「ピックの定理の拡張」という記事があり,最初,雑誌をつらつらと眺めていたときは,どなたか専門家の解説記事かと思っていました.田中氏の記事で,それがSSHの生徒たちが書いたものだとわかりました.
 
 
 西洋中世史の研究者の方の特別寄稿もありました.大月康弘氏の「ギリシャ文化とコンスタンティノーブル」です.これは,めったに知ることのできない歴史の話です.

 歴史といえば,私も ある錯視の歴史を調べたことがあります.調べていくと,どんどんのめりこんでいき,手に入りにくい古い文献も,何としてでも見たいという気持ちに駆り立てられます.文献を見るためなら,たとえ地の果てまでも出向いていかざるをえない衝動が抑えられなくなるのです.歴史調査は興味のない人にとっては,かなりマニアックな世界ですが,はまると中毒になってしまいます.誰も知らなかった歴史的事実を突き止めていくときの気分は,数学の問題に踏み込んでいくときと共通するものがあります.

 次回の連載は,錯視のマニアックな話にしようかなぁ.― もっとも錯視の話そのものがマニアックか.
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