錯視 日誌

2016年10月の記事一覧

脳のひみつ

『脳のひみつ しくみ、はたらきがよくわかる!』(川島隆太先生監修、PHP研究所刊)が10月24日に発売されました。この本には「脳は簡単にだまされる 錯視のふしぎ」という節があります。
この節と見返しに、新井・新井作の錯視作品と錯視画像が掲載されてます。

脳のひみつ (楽しい調べ学習シリーズ)
PHP研究所(2016/10/25)
値段:¥ 3,240

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視覚情報と自動運転 -異分野に数学者が協働してます

異分野に数学者が協働しているセミナーと言えるでしょう.
第70回日本臨床眼科学会イブニングセミナー(第22回 VISION TIMES セミナー)『視覚情報と自動運転』で,講演とパネルディスカッションをします.場所は国立京都国際会館.私の講演タイトルは
『視覚情報処理の数理モデルとその錯視,画像処理への応用,そして展望』
です.
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オリジネータの本は違う!メイエの『ウェーブレットと作用素』

 ウェーブレットの数ある本の中で,ウェーブレットの数学理論の基礎を作ったイヴ・メイエの『Wavelets and Operators』(Cambridge UP, 1992)は他書とは一線を画しています.メイエは応用数学のフィールズ賞ともいわれているガウス賞を,ウェーブレットの数学理論と調和解析に関する貢献により受賞しています.この本は応用数学者メイエの面目躍如たる入門書で,それは,分かり易さのために数学的正確さを犠牲にした単なる解説書とは対極をなしています.そうだからといってメイエの厳密で精緻な筆致は,決して分かりにくいものではなく,むしろウェーブレットの数学の仕組みを細部に至るまで透けて見えるように提示していると言えるでしょう.そして何より,その厳密な証明はアイデアの原石の宝庫となっています.表面的な理解をさせる本はたくさんあるかもしれませんが,新しいアイデアの種を汲み出せる本はそうあるものではありません.さすが第一級の学者の著書は違う!とうならせます.若いうちにこういうホンモノに親しんでおくのは良いことだと思います.
 オリジネータの書いた本としては, L. シュワルツの『超関数の理論』(訳本は岩波書店)が示唆に富む優れた解析学の本でしたが,『Wavelets and Operators』もそれに劣らずすばらしいものです.

本書の内容はだいたい次のようになっています.
 第1章は
「フーリエ級数,フーリエ変換,フィルタリング,そしてサンプリング」
というタイトルで,古典的な調和解析のバックグラウンドが概説されています.
 第2章では S. マラーとメイエにより創始された多重解像度近似の理論が詳細に解説されています.この概念は今では空気のように浸透していますが,もともとはマラーとメイエにより考案された考え方です.
 ところで多重解像度近似については,こんなエピソードが知られています.この部分の原論文『多重解像度近似とウェーブレット』はマラーの単著ですが,それは当時,メイエがすでに著名な教授であったので,20代前半のマラーの単著で出版するようにしたのでした.研究グループのリーダーだから,あるいはちょっとアドバイスしたから,研究費を補助したからといって,若い人の論文に自分の名前も共著者として末尾に加えさせるタイプの人とは違います.
 第3章は正規直交ウェーブレットとして,いわゆるメイエのウェーブレット,ドブシーのコンパクト台をもつウェーブレットなどが構成されています.
 第5章,第6章はさまざまな関数空間への応用です.この部分はメイエの得意部門で,その後,調和解析に多くの話題を提供することになりました.

 ちなみに,『Wavelets and Operators』はじつは英訳の本で,原著は 1990 年に Hermann書店からフランス語で出版されました.1990年に出版されたときは,日本でも実解析の研究者はこぞって(?)買い求め,フーリエ解析とは違うその革命的な発想に驚嘆したものです.

 ついでに蛇足として,ウェーブレットに関する個人的な思い出を書きますと,私がウェーブレットを知ったのは 1988年か 89年のころでした.当時,プリンストン大学の数学科に滞在していたのですが,そこに1か月ほど日本から I 先生がプリンストンにいらっしゃいました.I 先生から最近,ウェーブレットというのが出てきて,これはすごいものだということを聞きました.それから少しして,イェール大学のR. Coifman 氏がプリンストン大学のセミナーでウェーブレットとヒルベルト変換について講演をされ,これがウェーブレットかと思いました.しかし,私がウェーブレットに本格的に関わるようになったのは,それから10年以上してからです.視覚と錯視の研究に使うためでした.最も視覚と錯視の研究にはウェーブレットでは不足で,フレームレットの一つであるかざぐるまフレームレットなどを作ったわけですが.
 しかし,それにしてもその10年の間にウェーブレットは理論的にも実用的にも爆発的な進展を遂げました.近年,自然科学の進歩は加速化していますが,ウェーブレットもその一例になっていたようです.
 




他の本の書評は『私の名著発掘』へどうぞ


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今月の輝数遇数 ー 数学教室訪問

たまたま雑誌『現代数学』の表紙を眺めていたら,今月号の「輝数遇数 - 数学教室訪問」はJSTさきがけでお世話になった津田一郎先生でした.言うまでもありませんが,津田先生は脳の数学的な研究で有名な方です.
「心はすべて数学である」
というお言葉(&ご著書のタイトル)は,数学者にとってまるで宇宙を前にしている物理学者のような心持ち(といっても私は物理学者ではないのであくまで想像ですが)にさせる一文です.

心はすべて数学である
津田 一郎
文藝春秋(2015/12/09)
値段:¥ 1,620



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数学の講義?錯視の講義?

数理視覚科学の講義といっても,数学の講義の教材に錯視を使って,数学の面白さをアピールするのか,それとも錯視の講義で数学的方法を題材にして,錯視研究のさらなる展開を話すのか.同じテーマの講義でも二つの選択肢が考えられます.
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学習雑誌 『小学二年生』(小学館)が休刊.

『小学二年生』(小学館)が休刊になるというニュースがありました.大正14年創刊だそうです.(同系の雑誌では『小学三年生』から『小学六年生』がすでに休刊になっております.)昔からある老舗雑誌がなくなるのは寂しいものです.
長い間,子どもたちに知識と夢を与えてくれて,ありがとうございました.

以前,小学二年生の編集部から錯視画像の作成を依頼され,そのときに作った文字列傾斜錯視です.

文字列傾斜錯視

詳しいことは下記を参照してください.
『小学二年生』(2008年12月号,小学館)に掲載された文字列傾斜錯視(「錯視の科学館」展示より)
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