錯視アート展

2012年11月の記事一覧

東大数学科同窓会会報を飾った錯視アートたち

錯視アート・オプアート展 No. 6

 東京大学理学部数学教室・大学院数理科学研究科の同窓会会報の表紙デザインに私の錯視作品を使いたいという依頼が2008年に同窓会理事長の楠岡茂雄教授よりありました.以来,今年までの5年間,会報の表紙を私の錯視作品が飾ることとなりました.
 今回は,その5年間の足跡を振り返って見たいと思います.

【2008年】
 まず2008年の12号はフラクタル螺旋錯視とその色による効果に関する作品でした.

渦巻き錯視(新井)

 左図はフラクタル島を使った渦巻き錯視(新井・新井,2007).同心円に配置されているフラクタル島が渦巻いて見える錯視.右図は同じデザインで色を変えたもの.同じデザインなのに渦巻き錯視が見られません.幾何学的錯視が色に影響される例となっています.

【2009年】
 この年の表紙は数学的方法を使って,同窓会用の文字列傾斜錯視を作成しました.文字列が傾いて見える錯視は,2005年頃に日本のインターネット掲示板で産声をあげました.匿名でいろいろな文字列が傾いて見える錯視が掲示板に投稿されました.私は新井しのぶと共同でこの錯視の数学的研究を行い,数学的に文字列傾斜錯視を見出す方法,及び錯視量の制御に成功しました.2009年の作品はそのときの手法を用いて発見した文字列傾斜錯視(左上)と錯視量を抑えたもの(右下)です.

文字列が傾いて見える錯視(新井・新井)

 左上の文字列は平行であるにもかかわらず傾いて見えます.右下は数理的方法で文字列傾斜錯視から錯視成分を除去したもの.「東大一高」と「十一月同窓会」のうち,「十一月同窓会」の錯視はその後,テレビで紹介され広く知られるようになりました.ちなみにこの年の同窓会は十一月に開催されました.
 その後,文字列傾斜錯視の研究をさらに進め,2012年の3月には,文字列傾斜錯視自動生成アルゴリズムとプログラムの開発を行いました.

【2010年】
 2010年は脳科学的な考察から新井・新井が発見した錯視です.これはややマニアックなものです.

錯視 双曲型(新井・新井)

左の画像は,フレーザーのねじれ紐のパターンを直角双曲線座標(右図)に沿って配置したものです.しかし,直角双曲線座標からはかなりずれて見えます.これは大脳皮質のV4野にある神経細胞の特徴から,このような錯視ができることを予測し,それを実際に作成して示したものです.新井・新井はこの種の錯視を『双曲型錯視』と名付け,さらに双曲型錯視の錯視成分の特定にも成功しました.

【2011年】
 この年は浮遊錯視にしました.新井・新井は静止画が動いて見える錯視が,脳内で行われているどのような情報処理により起こるかを研究しました.その結果,ある種の静止画が動いて見える錯視を見たときの神経細胞の反応を数理モデルで特定することに成功しました.そしてどのような画像でも静止画が動いて見える錯視に変換する浮遊錯視生成アルゴリズム(新井・新井,特許取得,JST)を開発しました.
 これまでこの種の錯視は,心理学者などにより特定の単純なパターンを用いて作られていました.そしてそのパターンが錯視アートなどに利用されてきました.これに対して,浮遊錯視生成アルゴリズムは,アーティストが使いたい好きなデザインを浮遊錯視に変えることができるのです.これは錯視アートに新たな技術を提供するものとなっています.

 2011年度の画像は東大教養学部教務課のマスコットである「ユータスくん」が動いて見える錯視にしました.ユータスくんの著作権の問題があるので,今のところ掲載は控えたいと思います.

【2012年】
 今年は浮遊錯視生成アルゴリズム(新井・新井)を使った別の画像にしました.

静止画が動いて見える錯視(新井・新井)

 UNIV. TOKYO 数学同窓会の文字列が浮遊する錯視です.画像の中央の丸印を見ながら,顔を画像に近づけたり遠ざけたりしてください.すると文字列が回って見えます.

 同窓会の表紙には毎回,彌永昌吉先生の題字「会報」が載っています.

 錯視画像による表紙は,今回でお休みをいただきました.5年の間,同窓会の表紙を飾らせていただきましたことを,たいへん光栄に思います.
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