研究ブログ

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本の出版

視覚のメカニズムを解説した著書が刊行されました。

七田芳則, 小島大輔 化学の要点シリーズ「視覚のしくみ」, 共立出版 2023/11/25刊行、ISBN 9784320044876, 総ページ数152.

概要

本書では、視覚について、化学的な観点から興味をひく現象や解析方法を中心に解説する。視覚研究の全貌に触れてもらうことを狙いとする。

我々は身の回りの環境情報を五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)により受容し、日常生活で利用している。視覚分野は、発色団の量子化学から神経ネットワークを含む広範な分野であり、さまざまな自然科学の分野と同様、物理学や化学の基本的な原理を利用した解析が進められている。一方、物理学や化学とは異なり、視覚を含む生物学の研究には、生物が歴史性を持つ(進化の産物である)ことも忘れてはならない。そこで本書ではまず、「視覚の成り立ち」を進化的な観点から概説する。続いて、分子レベルでの記述が可能な視覚現象として、視細胞の光応答メカニズムや、視物質の構造と光反応メカニズム、色覚のメカニズムなどを詳述する。さらには、網膜や脳での視覚情報処理についても解説する。

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英文プロトコール出版

光受容タンパク質の吸収スペクトル解析に関する英文プロトコールが Neuromethods vol186の第8章として刊行されました。

Daisuke Kojima, Yoshitaka Fukada (2022) Spectroscopic analysis of wavelength sensitivities of opsin-type photoreceptor proteins. in “Circadian Clocks”, Neuromethods, vol 186, (T. Hirota, M. Hatori, S. Panda, eds.), Humana, New York, USA; pp. 169–185. https://link.springer.com/10.1007/978-1-0716-2577-4_8

概要
オプシンファミリーは、レチナールを発色団として結合する光受容タンパク質群である。オプシンをコードする遺伝子がさまざまな動物のゲノムにおいて次々と同定されてきた。オプシン型光受容タンパク質の吸収スペクトルを決定することにより、その波長感受性を基に生理機能への寄与を予測することが可能となる。本稿では、オプシン型光受容タンパク質を培養細胞にて異所発現させ、この細胞から調製したリコンビナント蛋白質の吸収スペクトルを分光学的に測定する詳細な方法を説明する。本稿の目標は、細胞から可溶化した試料の調製方法と、異なる調製法における吸収スペクトルの測定方法に関するガイドラインを読者に提供することである。これらのアプローチの利点と限界について紹介する。

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日本語総説掲載

哺乳類の概日光受容体に関する日本語総説がBrain & Nerve 誌に掲載されました。

小島大輔, 深田吉孝 (2021) 概日リズムを位相制御する光受容体. BRAIN and NERVE 73:1193–1199.
https://doi.org/10.11477/mf.1416201917

Abstract
約24時間周期の体内時計(概日時計)に基づいて,私たちの活動・休息などの概日リズムが刻まれる。自律的な概日リズムは,哺乳類では網膜の光受容により地球の自転周期である24時間に同調する。本論では,概日リズムの光同調に主要な役割を果たす光受容細胞として,光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)について詳説する。ipRGCの光受容機構や神経回路,さらにはその多様性について,主にマウスで得られた知見を紹介する。

 

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青色センサー遺伝子の制御メカニズム〜脊椎動物の色覚の起源に迫る〜【論文掲載】

2021.10.6付で Science Advances 誌に下記論文が掲載されました!

Yohey Ogawa*, Tomoya Shiraki*, Yoshitaka Fukada#, Daisuke Kojima# : Foxq2 determines blue cone identity in zebrafish. Sci. Adv. 7, eabi9784 (2021) (*equally contributed, #correspondence) DIO: 10.1126/sciadv.abi9784

【概要】
動物の網膜には複数種の色センサー(色覚に関わる光受容タンパク質)が備わり、これらの組み合わせにより「色」を知覚することができます。脊椎動物の祖先種は紫・青・緑・赤という4種類の色センサー遺伝子を持ち、4色型の色覚が原型であると考えられています。細胞ごとに1種類の色センサー遺伝子のみ転写スイッチがONになることで、網膜全体で複数種類の色受容細胞を備えることができます。これまで、可視光のなかでも中央の波長領域である青に対する色センサー遺伝子のスイッチ制御メカニズムは謎に包まれていました。
 
私たちは、4色型色覚をもつゼブラフィッシュを用いて色センサー遺伝子制御の研究を行いました。その結果、これまで機能未知であった、脊椎動物種に広く保存されている分子Foxq2が、青色センサー遺伝子の転写スイッチ制御に必須の鍵分子であることを見出しました。また、比較ゲノム解析より、foxq2遺伝子は哺乳類の進化初期に失われたことが判明しました。これは青色センサー遺伝子が哺乳類進化の過程で失われたことと一致します。
 
現存する脊椎動物の色センサーは2色型から4色型まで多様化しています。Foxq2による青センサー制御メカニズムを動物種間で比較することにより、4色型色覚が成立した過程や、2色型を基本とするヒトの色覚(変型3色型)への進化的変遷の解明が期待されます。

より詳しい記事はこちら:日本語プレスリリース / Press release in English

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第三の眼:松果体における遺伝子発現と発生を制御する分子【論文掲載】

2019.10.7付でCommunications Biology誌に下記論文が掲載されました!

Hiroaki Mano, Yoichi Asaoka, Daisuke Kojima*, Yoshitaka Fukada*: Brain-specific homeobox Bsx specifies identity of pineal gland between serially homologous photoreceptive organs in zebrafish. Commun. Biol. 2, 364 (2019). 
DIO: 10.1038/s42003-019-0613-1

【概要】松果体は、睡眠ホルモンであるメラトニンを分泌する脳器官であり、ニワトリやサカナなど多くの動物では光を感じる、いわゆる「第三の眼」として機能します。松果体の光受容細胞は、網膜の視細胞と多くの類似点をもつ一方、メラトニン分泌(松果体)と視覚(網膜)という互いに大きく異なる生理機能をもちます。このような「似て非なる」光受容細胞の個性が、いかなる分子メカニズムによりもたらされているのかは、これまで謎として残されていました。私たちはこのような松果体の進化的・発生学的な特長に注目してゼブラフィッシュを用いた遺伝子組換え実験や分子生物学的な実験を行い、この脳内器官において特異的な遺伝子発現を制御する鍵分子Bsxを同定しました。また個体レベルでBsxの機能を解析した結果、Bsxは松果体ニューロンの発生・分化に必須であることがわかりました。松果体はメラトニン分泌という種を越えて保存された機能をもちますが、Bsxはこのような松果体の機能発現に重要な役割をもつと考えられます。
 

(UTokyoFOCUSにも関連記事が掲載されています)
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