論文

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2019年1月25日

助動詞マシの意味

国語国文
  • 古川大悟

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本稿では、上代から中古におけるマシの基本的意味が「ある事態を可能性として提示し、他の可能性と比較する」点にあることを述べている。上代のマシは、既に実現済みの可能性と、実現しえない(しえなかった)可能性の二者の比較に用いられている。なおかつ、マシによって提示される後者の可能性の方が、言語主体にとって望ましいものである場合に偏っている(資料的な制約のためかもしれない)。それに対して中古のマシは、望ましくない事態の可能性を提示する場合もあり、また三つ以上の可能性の比較検討を担う場合もある(「いかにせまし」など)。上代の資料的制約という問題はあるが、用例分布上はマシの用法が拡張していることになる。このように上代と中古で差はあるものの、「ある事態を可能性として提示し、他の可能性と比較する」というマシの基本的意味は通底している。以上のようなマシの意味記述によって、『萬葉集』や『源氏物語』などの作品の中で従来解釈が難しいとされてきたマシの用例についても、妥当性の高い解釈が可能となることを示した。

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