論文

査読有り
2017年3月30日

カラニ考:上代を中心に

萬葉語文研究第12集
  • 古川大悟

開始ページ
159
終了ページ
180

上代のカラ(ニ)は、軽い原因であるのに重い結果が生じるという意味での逆接を表すとされる。本稿は、そのような接続関係がなぜ生じるのかという原理を問題とするものである。格助詞的に用いられたカラは、事物の本来的性格が必然的に実現・帰結することを表す。そこには大野晋氏や阪倉篤義氏の指摘するカラの原義が残存している。ニを伴い形式副詞的に機能すると順接的に働くが、擬喚述法を含む喚体文の中で用いられることで、前句からは予想されない事態が偶然的に実現・帰結したことへの意外性が表される。その意外性はやがて、喚体でなくとも、「ただ一夜隔てしからに」「かくのみからに」の「ただ」「かくのみ」といった副詞性の成分で標示されるようになる。ここから、軽い原因であるのに重い結果が生じたという意味が分析され、逆接的な意義を獲得した。なお、平安時代のカラニに逆接と解される例があるが、上代とは事情が異なり、反語文の中で用いられ意味が再分析されたことによるものと考えられる。構文論的な視点からカラの語義を考察する論である。

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