MISC

筆頭著者
2020年11月

カリフォルニアの森林火災の現状とその背景について

日本地理学会発表要旨集
  • 宋 苑瑞

2020
0
開始ページ
185
終了ページ
185
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14866/ajg.2020a.0_185
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

<p>森林火災は、熱源、燃料、酸素が揃えば自然に発生する。カリフォルニア州の森林火災は秋から冬にかけて多く発生していたが、近年では1970年代と比べ2~3ヶ月長くなっている。2013年から2019年にカリフォルニア州で起きた森林火災発生件数は年平均8192件であり、7年間の焼損面積は東京都23区の42倍相当の265万haに至る(図1)。特に、2018年の焼損面積は79万haで、100名の死者、森林火災による建物の被害も24226件に上った。米国史上最大規模の森林火災と記録されたカリフォルニア州北部のメンドシーノの火災は2018年7月から始まり、160日間も燃え続け2019年1月に完全に鎮火されたが、森林以外に多くの住居地・商業地などの建物の被害が発生した。また、カリフォルニアで発生した20箇所の大きい山火事の中の15箇所が2000年以降に発生したもので、最も被害が多かった6つの森林火災は過去10年間に発生した。森林や住宅の燃焼時に排出される有害ガスによる大気汚染、土壌・水質汚染のほか、森林火災の鎮圧に使われる費用と住民被害への賠償問題も深刻化している。最近の森林火災の主要因は気候変動とされているが、本稿ではそれ以外の3つの人為的要因について検討する。</p><p> 人為的要因の1点目は、農業および農産物の輸出である。カリフォルニア州の農産物輸出額は2兆円規模であり、最近10年間でほぼ2倍に成長した。主にアーモンド・くるみなどのナッツ類は米国の農産物輸出全量がカリフォルニア州で生産されている。次に多いのはブドウ、オレンジなどの果物とその加工品(ワインや乾燥物)である。カリフォルニア州で利用されている水のうち約8割が農業に使用されている。年間平均降水量が572 mmの地域で、大量の農産物を生産し、州外や海外に輸出をすることは、仮想水として州外・海外に水を移動させていることを意味する。実際に、史上最大の森林火災の被害で人命被害が大きく発生する前に過酷な干ばつが長年続いていた。カリフォルニア州北部に位置する州の最大規模のシャスタダムとオーロビルダムでは水位が7割以上低下し、他の多くのダムでも底が見えるほど干からびた。農業用水や生活用水は常に不足していて、カリフォルニア州のいろいろな地域で農業用、商業用、生活用水にリサイクル水が使用されている。2点目は人口増加である。カリフォルニア州は米国の中で最も人口の多い州であり、1950年から現在までに人口が約4倍倍増加した。カリフォルニア州の多くは地中海性気候で、温暖な気候で晴れる日が多く住みやすいことから移民者も急増した。3950万人の人口が居住し、生活用水の需要が大きく増えた。3点目としてミネラルウォーター事業が挙げられる。米国ではミネラルウォーター市場が広く普及し、その国内(カリフォルニア州以外)や国外での消費量も増えている。このように水源地における水のボトリング事業は限られているカリフォルニア州の水資源をさらに枯渇させている。</p><p> カリフォルニアの森林火災のより根本的な要因には過度な農業・輸出、人口増加に伴う過度の地下水採取、また、ミネラルウォーター事業などが考えられる。地球温暖化による気温上昇はカリフォルニア州だけに限ることではない。気候変動以外の根本的な要因にも目を向けなければ、今後もカリフォルニア州の原因不明の森林火災はずっと続くであろう。</p>

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2020a.0_185
CiNii Research
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390849376473632128?lang=ja
ID情報
  • DOI : 10.14866/ajg.2020a.0_185
  • CiNii Articles ID : 130007949206
  • CiNii Research ID : 1390849376473632128
  • ORCIDのPut Code : 85017940

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