2018年9月
卵巣静脈血栓症を伴った産褥熱に周産期心筋症を合併した一例
香川産科婦人科雑誌
- 巻
- 20
- 号
- 1
- 開始ページ
- 35
- 終了ページ
- 38
- 記述言語
- 日本語
- 掲載種別
- 出版者・発行元
- 香川産科婦人科学会
産褥熱の原因は多岐にわたるが、そのひとつに骨盤静脈血栓症が挙げられる。今回我々は、卵巣静脈血栓症による産褥熱、および同時に周産期心筋症を合併した一例を経験したので報告する。症例は28歳、2妊1産の女性。妊娠38週6日に遷延分娩のため前医で緊急帝王切開術となった。産褥後3日目より発熱を認め、抗菌薬をCEZからCTRXへ変更するも38度を超える発熱が持続し、さらに浮腫の増悪と呼吸困難が出現したために、産褥6日目に当院へ紹介となった。当院で行った造影CTでは子宮は腫大し、子宮と膀胱の間に液体貯留と遊離ガスを認めた。また右付属器から連続するように右腎門部まで高吸収結節像を認め、右卵巣静脈内血栓症が疑われた。血栓が下大静脈内に進展していたため術前の心機能評価目的に心エコーを施行したところ、左室駆出率の低下と心嚢液貯留を認めた。以上より、卵巣静脈から下大静脈に至る血栓および子宮感染の腹腔内への波及および付属器炎が疑われたため、感染巣の同定と外科的ドレナージを目的に開腹術を施行した。感染巣と考えられた右付属器の切除と腹腔内ドレナージを施行し、その後は抗菌薬による加療を行った。血栓に対する抗凝固療法に関しては、ヘパリンの持続静注やエドキサバンの内服を行い、術後2ヵ月に施行した造影CTで血栓の消失を確認した。また、心機能低下に関しては他の心疾患を除外した上で周産期心筋症が疑われたため、ブロモクリプチン療法を行い、徐々に心機能の改善を認めた。抗菌薬に反応しない産褥熱の原因として、卵巣静脈血栓症を鑑別にあげる必要があり、診断にはD-dimerの上昇や造影CTによる画像検索が有用である。また、産褥期に心不全兆候が認められる場合には稀な疾患であるが周産期心筋症の可能性も考慮することも重要である。(著者抄録)
- ID情報
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- ISSN : 2185-1409
- 医中誌Web ID : 2019169410