横山広美・研究ブログ
男女平等態度とSTEMの男性イメージの関係について
一方井祐子・南崎梓・加納圭・井上敦・マッカイユアン・横山広美
雑誌名:Journal of Science Communication
論文タイトル:Gender-biased public perception of STEM fields, focusing on the influence of egalitarian attitudes toward gender roles
Available open access at
https://jcom.sissa.it/archive/19/01/JCOM_1901_2020_A08
概要
本研究では、科学を含む様々な分野に対する日本人のジェンダーイメージを調べました。20歳から69歳までの男女1086名(男性541名、女性545名)を対象にオンライン調査を実施しました。その結果、(1)分野に対する性別適正のイメージについて、女性は看護学、男性は機械工学に向いているというイメージが強いことが分かりました。また、性役割に対する平等主義的態度のレベルが低い回答者ほど、(2)看護学が女性に向いている、(3)STEM(科学・技術・工学・数学)に関する分野は男性に向いているという傾向が見られました。これらの結果は、日本ではSTEMに対するステレオタイプなジェンダーイメージが存在することを示しています。
内容
世界的にSTEM(科学・技術・工学・数学)分野を学ぶ女性が少ないことが問題となっています。日本でもSTEMを学ぶ女性の割合は少なく、特に物理学や数学、機械工学といった分野では女性割合が20%以下ときわめて低い状態です。女子のSTEM分野への進学については、「STEMは男性に向いている」といった分野に対するジェンダーイメージが障壁となる可能性があります。しかし、これまで日本での調査はありませんでした。
そこで本研究では、インターネット調査会社を通じて、20歳から69歳の男女1086名(男性541名、女性545名)を対象に、STEMを含む18分野(数学、化学、物理、機械工学、情報科学、生物、農学、地学、医学、歯学、薬学、看護学、法学、経済学、社会科学、人文学、音楽、美術)に対するジェンダーイメージを、(a)男性・女性に向くという「性別適正」、(b)男性・女性の就職に向くという「就職適正」、(c)男性・女性の結婚に有利になるという「結婚適正」の3つの点で調査しました。
また、日本のジェンダーギャップ指数が世界的に低い(2019年は153中121位)ことを鑑み、性役割に対する平等主義的態度と、各分野に対するジェンダーイメージの関係についてもあわせて調査しました。心理学分野で開発された15問の質問群からなる「平等主義的性役割態度スケール短縮版(SESRA-S)」を用いて回答者の平等主義的態度を測定しました。
分析の結果、(a)性別適正の点では、最も女性に向く分野は看護学、最も女性に向かない分野は機械工学でした(図1a)。一方で、最も男性に向く分野は機械工学でした。STEM全般で、女性よりも男性に向いているというイメージがありました(図1b)。(b)就職適正の点では、最も女性に向く分野は看護学、最も男性に向く分野は医学でした。(c)結婚適正の点では、最も女性に向く分野は音楽、最も男性に向く分野は医学でした。さらに、性役割に対する平等主義的態度のレベルと「性別適正」との関係を分析した結果、平等主義的態度が低い回答者ほど、看護学は女性向き、機械工学は男性向きと回答する傾向がありました。
これらの結果は、日本には分野に対するジェンダーイメージが未だ根強いこと、このようなステレオタイプなイメージが物理や数学、機械工学など「男性向きである」というジェンダーイメージの強い分野への女子の進学の障壁になりうることを示しています。
本研究は、科学技術振興機構 (JST) のRISTEX 「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」の2017年度採択プロジェクト 「多様なイノベーションを支える女子生徒数物系進学要因分析」(JPMJRX17B3研究代表者:横山広美) の支援を受けたものです。
図1 性別適正のジェンダーイメージについての回答。女性に最も向いている分野は看護学(a)、男性に最も向いている分野は機械工学(b)だった。
図2 平等主義的態度のレベルと、看護学の性別適正のジェンダーイメージの関係。平等主義的態度のレベルが低い人ほど、看護学が女性に向くと回答する傾向があった。
論文紹介:クラウドによって作られる”科学”
クラウドによってつくられる科学
科学は誰がどのように決めるのか。「境界画定作業(“Boundary Work”)」の議論は長く続けられてきました。中でも各ジャーナルがその時々に判断をして線引きをするジャーナル共同体(“journal community”)の概念はピアレビューシステムの根幹です。 今回、我々は、近年盛り上がりを見せる科学のクラウドファンディングでは、従来の科学にある予算申請時のレビューがないことに注目をしました。そして、従来の科学は、ジャーナル共同体によるレビューの前に、この論文で新たに定義した予算共同体(“budget community”)によるレビューがあることを指摘しました。 さらに、予算共同体から自由になった、クラウドファンディングによって生まれた科学を”クラウドが支援する科学(Crowd-supported science)”と呼び、この特徴について議論しました。
対象と方法
・ 一般市民(男女950名)と研究者(クラウドファンディングの参加経験がある20名)を対象にオンラインのアンケートを行い、クラウドファンディングのレビューシステムについてどのように考えるかを選択式で尋ねました。
結果
・ 研究者の90%(18名)は、クラウドファンディングのレビューシステムは現行のままで良く、従来の科学に見られるジャーナル共同体のピアビューは必要ないと回答しました。 ・ 一方、一般市民の約30%(306名)は、クラウドファンディングにもジャーナル共同体によるピアレビューシステムがあるとよいと回答しました。
考察
・ 研究者と一般市民の間には、クラウドファンディングのレビューに関して認識のずれがあることが分かりました。
・ 一般市民の約30%がクラウドファンディングにもジャーナル共同体によるピアレビューがあった方がよいと回答したことは、研究不正や疑似科学への不安からくるものかもしれません。
・ ボランティアの科学者による緩やかなピアレビュー(“gentle-peer review”)などを取り入れることによって一定の質が担保され、一般市民の不安感も拭えるのではないでしょうか。
・ クラウドファンディングよりクラウドが支援する科学という新しい領域が生まれる可能性があります。この領域では、研究成果のアウトプットは論文だけに留まらない可能性があります。
・ クラウドファンディングは公衆の科学への参加を促進させる方法のひとつです。
論文 Ikkatai Y, Mckay E, Yokoyama M H (in press) Science created by crowds: a case study of science crowdfunding in Japan. Journal of Science Communication.
【提言】緊急時に科学コミュニケーターは何ができるか
~「スキル・専門性・感情」の3つの壁を越えて~
東日本大震災後、社会と科学をつなげる役割を担う「科学コミュニケーター」もまた、悩みながら活動を展開した。しかし、一部は国費も投じられて育成された科学コミュニケーターの活動がもっと活発であるべきだったという批判もあった。我々は、当事者である科学コミュニケーター自身が、こうした批判をどのようにとらえたのか、また震災後にどのように活動をしたのか、あるいは何が壁となり活動が制限されたのかをテーマに研究を進めた(「東日本大震災後、科学コミュニケーターは何ができたか」 科学技術コミュニケーション 2016年7月 )。
立ちはだかったのは「3つの壁」
困難なときほど、科学者は科学コミュニケーターと共に
この分析が多くの科学コミュニケーター、および科学者に届き、議論の糧やいざというときの行動指針として使って頂ければ幸甚である。
【提言】緊急時の研究者の助言スタイル:グループボイスの提案
〜ワン・ボイスの困難を補う、緊急時の研究者情報発信〜
グループ・ボイスの提案
彼らは福島第⼀原発の事故を受け、⾃らが貢献できることを考え、住⺠および⼟壌の放射線測定に名乗りを挙げた。ただ、研究者がいきなり活動に乗り出そうとしても、⾃治体や住⺠とのネットワークもないので勝⼿に活動をすることはできなかった。そこで、⽂部科学省と連携し、外から⾒ると⽂部科学省が研究者に依頼する形で、測定したデータを確実に世に出していくことに成功した。
⼤阪⼤学や東京⼤学の有志により⾏われたこうした活動を⾒ると、⽇ごろから共に研究活動を⾏っている研究者集団による「グループ・ボイス」注)が社会に貢献をしたことが分かる。「⽇ごろから共に」という点がポイントであり、信頼関係がすでにある間柄でこそ、合意形成が可能であった。分野によって流儀や常識が異なる中で、分野を越えた合意形成がどれだけ可能になるかは、現在でも未知数である。完璧を⽬指して何もしないのではなく、研究者の間でも意⾒の違いがあることを⽰しながら、政府・省庁を通じた発表を⾏っていけばよい。幸いなことに、インターネット環境がかなり整いつつある現在では、社会も⼤量の情報やさまざまな情報から、⾃らに必要な適切な情報を拾い上げることに慣れてきている。迅速性が要求されることもあり、その都度その都度、グループで真剣に議論をし、発表をしていくことしかできないだろうし、まさにそうした活動こそが社会にも求められるであろう。
注)「グループ・ボイス」は横⼭による造語である。ワン・ボイスが科学者全体の声に対して、グループ・ボイスはそれぞれのグループによって発せられる声という意味で⽤いた。
法整備、そして責任の所在の整理
1つ⽬は法整備である。震災直後、地球惑星科学の研究者が放射性物質の拡散のデータを公表することは、気象業務法に抵触するのではないか、という議論があった。
筆者は下記の図のように考える。グループ・ボイスでさまざまな研究グループから、当該の問題に対する科学的情報が発信される。発表は、「責任の所在を明らかにす
もう⼀点、重要なのは、リスクマネジメントの要である⾸相に、科学者を代表する助⾔者がつくことである。震災後、話題になった英国の⾸席科学顧問のように、⾸相