2009年 - 2011年
アスベスト誘発発癌機構の解明とその予防
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費 特別研究員奨励費
多層カーボンナノチューブ(以下、NT)はアスベスト繊維と類似の物理化学的性質を持っため、中皮腫を引き起こす可能性について社会的懸念がある。今回、NTの毒性・発がん性を決める因子を評価するため、5種類のNTと3種類のアスベストを用いて中皮細胞に投与したところ、アスベストは細胞に効率良く取り込まれたが、NTは殆ど取り込まれなかった。NTによる中皮細胞毒性は直径と逆相関であり、さらに透過型電子顕微鏡を用いて観察すると細いNT(~50nm)の方が太いNT(~150nm)よりも中皮細胞の細胞膜や核を貫通し易い事が明らかとなった。一方、アスベストの直径はどのNTよりも大きかったが、膜構造に囲まれた状態で細胞内に存在していた。NTは膜構造に囲まれておらず、NTとアスベストは異なる機構で細胞に入る事が示唆された。NTをラットの腹腔内に投与すると、細いNTは太いNTと比べて、強い炎症を惹起し、中皮腫発生も早く、高率であった。NTをマクロファージに投与し、毒性やサイトカイン産生能を調べたが、直径の異なるNT間に差異は認められなかった。従って、炎症惹起性や発がん性について、中皮細胞傷害性が強く関与している事が示唆された。直径が小さく、かつ凝集塊をつくるようなNTは細胞に入らず、発がん性も最も低かったことから、中皮細胞傷害には直径が小さい事と剛性・直線性が高いことが重要であることと考えられた。以上の知見は、繊維状物質の発がん機構解明に寄与することが大きいだけでなく、社会的意義の高いものであると考えている。また、アスベストの発がん予防についても一定の成果を得られており、現在論文投稿準備中である。
- ID情報
-
- 課題番号 : 09J02479
- 体系的課題番号 : JP09J02479