西川 仁

自然言語処理，その中でも特に自動要約の研究に従事しています．自動要約は，要約の対象となるテキストをより短く簡潔なテキストに変換する処理です．その処理には，流暢なテキストを生成するという課題と，テキスト上に現れている情報の中から要約に含めるべき重要なものを同定する内容選択という課題が含まれます．前者だけでも自然言語処理の課題として興味深いものですが，後者の内容選択においては重要な情報を選別するという人間の知的活動において極めて重大な位置を占める，意思決定の模倣が必要となり，この過程を計算モデルによって表現することは実に興味深い課題です．現在はこの過程に対して，大規模なデータから機械学習を利用して帰納的に模倣する方法論と，人間が行う要約処理を観察することにより演繹的に模倣する方法論とを両輪として，計算モデルの構築へとアプローチしています．

深層学習により，流暢なテキストを計算機が生成する能力が飛躍的に進歩した一方，上述の内容選択の問題は依然として断崖のように我々研究者の前に立ちはだかっているように感じています．それは根本的に，意思決定というものには無数の変数が絡み合い，極めて動的かつ私的，個人的なもので，したがって過去の事例を参考としづらい性質を持っているからのように考えています． "cutting the Gordian knot" と呼ぶことのできる創造的な意思決定について，どのように人間と計算機が手を携えてアプローチすることができるか……これを地道に炙り出していく作業にいまは従事しています．