講演・口頭発表等

2017年

品種の開発・普及からみた国内イチゴ産地の盛衰

日本地理学会発表要旨集
  • 小林 基

記述言語
日本語
会議種別

1. 問題の所在 <br><br> 農産物の産地間競争の研究は、農業地理学と農業経済学において多くの先行研究があるが、1980年代後半以降はほとんど見られなくなった。その理由としては、農産物の輸入自由化により「輸入対応」への研究の重要性が増したこと、アグリビジネスの隆盛や食に対する不安の高まりなど新たな問題群が出現し、フードシステム論が重視されたこと、国内の農業の生産規模が縮小傾向にあることなど、農業に関する条件と研究者の問題関心の変化が生じているためと考えられる。しかし、農業が国民経済における「成長産業」と捉え直される傾向が強まっており、競争力ある農産物産地がいかに形成されるのか、産地の盛衰がどのようなメカニズムで生じるのか、といった問題について検討することの重要性はむしろ高まっていると考えられる。また、過去の産地間競争の研究には、競争の展開過程についての記述的な検討が多く、モデル化を試みている一部の研究には、一般均衡論の立場から地域ごとの農業の優位性を比較検討するものが多い。本報告は、高度成長期以後の日本におけるイチゴの諸産地の盛衰パターンを対象として、品種の改良と産地における導入とを関連付けて把捉することで、従来の産地間競争研究よりも長期的・動態的な見方で産地の盛衰メカニズムの図式化を試みることを目的とする。<br><br> 2. 研究方法 <br><br> 本研究は、より多くの優良品種が開発され、速やかに新品種の採用を行っている産地ほど生産規模と市場シェアを拡大している、という仮説を検証する方法で産地間競争の分析を行う。イチゴの産地を研究対象とした理由としては、①産地の盛衰が激しいこと、②品種改良が活発になされてきたことが挙げられる。具体的には、①各産地の生産規模と卸売市場における価格・市場占有率との変化のパターンを整理し、②農林水産省の登録品種に関するデータを参照して品種の系譜関係を復元し、産地の盛衰パターンと突き合わせる、という手順をとる。 <br> 3. 結果と考察 <br><br> 1965~2015年の期間について、農水省「作物統計」と、東京都の「東京都中央卸売市場年報」を用い、生産・出荷の規模と、卸売価格の変遷を分析した。この結果、1980年代後半までに大規模化を実現していた産地はその後も規模を維持するかさらに成長し、小規模であった産地はますます縮小するという傾向が見られた。産地の盛衰パターンには、①福岡・佐賀など、生産規模を大きく拡大し、高価格をも実現している九州型の産地、②栃木・愛知など、生産規模を拡大・維持するが価格がやや低い関東・東海型の産地、③北陸・近畿・中国地方などの小規模衰退型産地、④埼玉・岐阜・奈良などの大規模衰退型産地、⑤北海道・東北の四季成品種による夏期出荷型産地、のおよそ5つを見出せた。<br><br> 次に「東京都中央卸売市場年報」から、それぞれの時期の上位5品種の取扱量の変遷についてのデータを得た。出荷量の多い品種は、はじめ大規模な産地が高い占有率を有し、当該品種の出荷量が低落すると大規模産地のシェアが真っ先に低下するという傾向が見て取れた。このことは、大規模な産地ほど優良品種の採用・撤退のタイミングが早く、小さな産地ほどこのタイミングに乗り遅れることを意味していると考えられる。<br><br> 次に、登録品種データを用いて品種の開発・採用プロセスを分析した。普及率が高いとみられる品種の開発・普及パターンは、都道府県の農業試験場により開発された品種が、普及所により普及される場合であると考えられる。出荷量の規模が大きい都道府県は品種登録数も多い傾向にあるが、特定の試験場が作出した有力品種が、複数の都道府県で育種・栽培のため利用される傾向があり、開発力のある研究機関には偏りがあることがわかる。 以上から、国内におけるイチゴ産地の競争優位性は、研究機関における優良な育種素材を利用した活発な品種開発活動と、産地における新品種への速やかな移行により獲得・維持されると考えられ、これにより諸産地はさらなる拡大/縮小への道を歩むものと考えることができる。 <br><br> なお、本研究は現状では統計データのみに依存しており、今後産地や研究機関への聞き取りによって裏付けを行いたい。

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URL
http://ci.nii.ac.jp/naid/130005635778