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2018/02/10

J. Liouville 氏により1847年に行われた二重周期関数についての講義

Tweet ThisSend to Facebook | by Takebe
というのは、Journal fuer die reine und angewandte Mathematik 誌、いわゆる Crelle's Journal の第88巻(1880年)の pp.277-310 にある論文。講義録を録ったのは C. W. Borchardt ですが、私はこの人の名前を知りませんでした。

数学セミナー連載中の「楕円積分と楕円関数」の連載14回目、今年の5月号でやっっっっと複素関数論の教科書に出てくる「普通の」楕円関数の定義に辿り着きます。この連載はちょっと数学史を意識していて、出来る所では(「出来るだけ」ではなく!)元々の文献の情報も入れてみています。今まででは「Gauss の算術幾何平均の計算」を全集から引用したり、リーマン面のアイディアについての Riemann の論文を引用したりしました。この二つを見つけるのは割と楽でした。一方、アーベル・ヤコビの定理(の種数 1 の場合)を書いた時に、Abel と Jacobi の原論文を探そうとしましたがなかなか分からず、高瀬正仁先生に伺いました。でも教えて頂いた論文を見ても、定式化などがだいぶ違っていて、正直あまり確信が持てず「多分、ここだよね?」という程度で書いてしまいました。

5月号には「複素楕円関数 = 複素(数)平面上の二重周期を持つ有理型関数」という現代の標準的定義を書くわけですが、そこから即座に導かれるいくつかの定理の原論文として表題に上げた Liouville の講義録を引用することにしました。Whittaker & Watson "A Course of Modern Analysis" に書いてある情報が元です。

Whittaker & Watson にあるから間違いないとは思いましたが、文献情報だけ見て引用するのも嫌なので(と言いつつ、上で言ったように Abel と Jacobi のはかなり危ないのですが)、現物を見てみました。ただ、ウチの大学 (HSE) の数学学部には図書室が無く、電子的にも取れず(購読していない?)、科学アカデミーの研究所(Steklov 研究所)にはあるでしょうが、部外者はなかなか入れない、とにっちもさっちも行かないので、日本にいる知り合いの先生に頼み込み、コピーをスキャンして送って頂きました(感謝!)。

読んでみると、Gauss, Riemann, Abel, Jacobi のよりははるかに読みやすく、だいぶ現代に近いなぁ、という感じです。いろいろ面白いことに気がついたので列挙:
  • 既にお気づきかもしれませんが、講義が1847年、講義録の出版が1880年。33年かかってます。ヒドイなぁ…。(^-^;; そのため、ここに書いてある結果の初出が本当にこの講義録なのか、ちょっとあやしいような気がしますが、まぁしょうがない。
  • Whittaker & Watson には、関数論の Liouville の定理「有界で全平面で正則な関数は定数」は「本当は Cauchy によるが、Borchardt による Liouville の講義録で Liouville の定理と名付けられた」(5.63 節)とあります。実際にこの論文を見てみると、第一ページの脚注に(この講義録の出版の経緯と共に)「二重周期関数が有界ならば定数」という定理の証明は Liouville によるものとは異なる、という注意書きがあり、もっと一般的な定理の系として導いた、とあります。中身を見ると、妙に持って回った言い方の次の定理が書いてあります(翻訳に自信が無いので原文を一部省略しつつ引用;但し、アクセント記号略):
Soit f(z) une fonction bien determinee, continue (c'est-a-dire qui ne passe pas brusquement d'une valeur finie a une autre qui en differe d'une quantite finie) et telle que, pour les valeurs de z qui appartiennent aux points situes dans l'interieur de la courbe fermee K, ell prenne toutes les valeurs dont elle est susceptible pour des valeurs quelconques de z; cela pose, je dis qu'il y aura au moins une valeur de z, situee dans l'interieur de K, pour laquelle f(z)=±∞, a moins que f(z) ne soit = constante.

うーん、なぜ「閉曲線 K の内部」が出てくる??それに「正則性」とか言ってない。「連続性」にそうした意味も込めてるのかな?意味がイマイチ取れませんが、証明を見るとどうも最大値の原理的なものを使っている(「Cauchy が代数方程式の根の存在を示したのと同様の論理で」とあります)。
  • この定理の系として、「定数でない二重周期関数は有限に留まれない」という Liouville の定理があり、「Liouville の元の証明は二重周期関数の三角関数による展開に基づく」と書いてあります。つまり、Liouville 自身は「全平面で正則かつ有界」な関数ではなく、楕円関数の場合しか考えていなかった?
  • この後、「無限点が一つの二重周期関数は不可能」(=単純極が一つしか無い楕円関数は無い)が証明してあります。今なら偏角の原理(零点の数と極の数の差を積分で表す)を使うのが普通ですが、ここでは極の主部をいじりつつ奇関数の楕円関数を構成して、それを半周期ずらして掛けあわせたりして矛盾を導いています。
  • 次に、「二点で無限になる二重周期関数」(周期平行四辺形の中に単純極が二個の楕円関数=二位の楕円関数)を 1/(cos(z-h)-cos(h')) の形の一重周期関数の無限和で構成して、これがこの後の主要な道具になります。
  • まず、「極が二つあれば零点が二つある」、「二つの極の和と二つの零点の和は周期を法として合同になる」ということ証明。次に、上で作った二位の楕円関数を使って一般の楕円関数を書いて、「極の数=零点の数」や「極の和≡零点の和」を証明していきます。
  • 後は、一般の楕円関数を二位の楕円関数とその微分の有理式で書いたり、「応用」として Jacobi の sn (sin am と書いてある) の加法定理や n 倍角定理などを証明しているらしい。
  • 一カ所も積分を使っていないのが面白いです。つまり、Cauchy の積分定理が一切出てこない。おそらく、「正則ならば定数」という部分でそれに相当する何かを使っているので、後は使う必要が無いのでしょう。この時代は偏角の原理とか一般的でなかったのかもしれません。
まぁ、「この時代」とか大きな口を叩けるほど文献を見たことがあるわけではないので、知ったかぶりはこの辺で終わり。百数十年前なのに、現代のフランス語の知識で読めたのは助かりました。
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