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2018/03/06

「女性の肥満は低収入と関係する」は普遍的な真実か

Tweet ThisSend to Facebook | by suzumura

昨日、滋賀医科大学の三浦克之教授らの研究班が記者会見を行い、厚生労働省の「2010年国民生活基礎調査と国民健康・栄養調査」に参加した全国の20歳以上の男女約2900人の情報を分析した結果、世帯年収が少ない女性ほど肥満の危険性が高い傾向にあると発表しました[1]。


三浦氏らの研究班は就業状況や教育歴、世帯支出などの社会的要因と、体格や食事の傾向などの生活習慣・健康との相関性を分析し、研究の結果は日本疫学会の学会誌Journal of Epidemiologyに掲載されています[2],[3]。


65歳未満の女性において、世帯年収が200万から600万円未満では、肥満の危険性はが600万円以上の女性に比べ1.7倍、200万円未満では約2.1倍になり、摂取エネルギーに占める炭水化物の割合は、世帯年収600万円以上の男性が58.6%なのに対し、200万円未満の男性は61.1%、女性の場合も同56.8%に対し同59.7%と、年収が低いほど炭水化物の摂取が増えた、という発表[1]は、世帯収入と肥満や摂取エネルギーの間に一定の関係があることを示唆しているかのようです。


しかし、今回の発表の元となった論文を確認数と、例えば世帯収入について「600万円以上」、「200万円以上600万円未満」、「200万円未満」という区分が設けられ、教育歴について「低教育歴」と「高教育歴」といった区別がなされているものの[2],[3]、それぞれの区分の妥当性に関しては先行研究[4]-[7]を参照するだけで、先行研究の内容の適切さを批判的に吟味してはいません。


あるいは、摂取エネルギーについても年齢や世帯の構成人数、世帯収入に基づいてモデルを作り分析を行っているとはいえ[3]、世帯の構成人数ではなく実際に食事をする際の人数や食事をする頻度などが考慮されていないことが分かります。


もちろん、今回の報告は「2010年国民生活基礎調査と国民健康・栄養調査」の情報が基礎となっているため、過去の調査において確認されなかった事項を遡及して確認することが容易ではない以上、所与の情報によって分析を行うことは適正な手続きです。


また、報告の元となった論文の中で「社会経済的要因は栄養素の摂取を通して個々人の健康状態に影響を及ぼす可能性がある」と指摘していること[3]も、研究の限界を考慮に入れた記述であり、適切な態度といえるでしょう。


その一方で、他の可能性もあり得る内容に基づきながら「安価なもので腹を満たそうとすると炭水化物に偏るのでは」といった推測を行うこと[1]は、結果の拡大解釈、あるいは所与の事実の曲解に陥る可能性があります。


何より、たとえ疑問符を付しているとはいえ「女性の肥満は低収入と関係する」といった表現は刺激的であるだけに、条件が限定されている中で得られた結果があたかも一般的な事実であるかのように喧伝されることは望ましくはありません。


それだけに、「2010年国民生活基礎調査と国民健康・栄養調査」の結果によって「女性の肥満は低収入と関係する」と考えるのであれば、今後、論者は少なくとも「「2010年国民生活基礎調査と国民健康・栄養調査」の結果によれば」と議論の前提を明示することが求められるでしょう。


くれぐれも、人目を惹く文言に注意を奪われて限定された情報を普遍的な事実と間違えることは避けたいものです。


[1]女性の肥満 低収入と関係?. 日本経済新聞, 2018年3月6日朝刊42面.
[2]Nakamura T, Nakamura Y, Saitoh S, et al. Relationship Between Socioeconomic Status and the Prevalence of Underweight, Overweight or Obesity in a General Japanese Population: NIPPON DATA2010. J Epidemiol. 2018; Sup III: S10-S16.
[3]Sakurai M, Nakagawa H, Kadota A, et al. Macronutrient Intake and Socioeconomic Status: NIPPON DATA2010. J Epidemiol. 2018; Sup III: S17-S22.
[4]Wang Y, Beydoun MA. The obesity epidemic in the United States-gender, age, socioeconomic, racial=ethnic, and geographic characteristics: a systematic review and meta-regression analysis. Epidemiol Rev. 2007; 29: 6–28.
[5]Dinsa GD, Goryakin Y, Fumagalli E, et al. Obesity and socioeconomic status in developing countries: a systematic review. Obes Rev. 2012; 13: 1067–1079.
[6]Mendez MA, Monteiro CA, Popkin BM. Overweight exceeds underweight among women in most developing countries. Am J Clin
Nutr. 2005; 81: 714–721.
[7]McLaren L. Socioeconomic status and obesity. Epidemiol Rev. 2007; 29: 29–48.


<Executive Summary>
Is "Low Household Income" a Factor of High Metabolic Risk? (Yusuke Suzumura)


On 5th March 2018, it is announced that there may be a relationship between socioeconomic status and the prevalence of underweight, overweight or obesity or macronutrient intake according to statistical analysis of the National Integrated Project for Prospective Observation of Non-communicable Disease and its Trends in the Aged 2010 (NIPPON DATA2010). It might be a fact according to the results of NIPPON DATA2010, but not a universal fact.


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