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2018/12/06

向井「中世後期南フランスにおける都市と農村の政治的関係」

Tweet ThisSend to Facebook | by yoichi.isahaya
井伸哉「中世後期南フランスにおける都市と農村の政治的関係——ペジエの都市エリートとヴァンドレス村落共同体(一三五〇—一四〇〇)——」『史学雑誌』127/10 (2018): 1–30.

同部屋の伸哉君から抜刷をいただいた論文、『史学雑誌』最新号で巻頭を飾っています。せっかくなので読了。フランス中世史の論文とか実に久しぶりです。でも、門外漢にも読みやすかった。簡にして要を得た叙述、見習わなければいけません。

この論文で扱われるのはフランス人研究者が現在に至るまで多大な関心を寄せてきた「都市=農村関係という大問題」です。向井さんはしかし、この種の問題関心が主として社会経済的な次元に偏り、政治的次元で論じられることは少なかったと研究史をレビューしながら語ります。そしてその要因には史料の性質があったと。都市の史料や公証人文書といったこれまで多く使われてきた史料は、上記の関係の政治的次元については多くを語らないのです。

そこで向井さんが取り上げるのが村落で記された史料、とくに村落自治体会計簿です。これは現代的に連想される数字の羅列としての「会計簿」とは異なり、村の「年代記」あるいは「生活と運営の要覧」とも言いうる性質のものなのだと。この史料を使って、中世フランスにおける都市と農村との関係を、例えば既にあるイタリア型都市国家における都市=農村関係モデルを安易に援用するのではなく、さらにはその関係を経済的次元にのみ注視するのでもなく、特に政治的次元において解明することが目的である、伸哉君はそのように本稿の意義を強調するのです。

そしてこの論文で扱われる都市および農村というのが、フランス、ランドック地方のベジエ市とその南、地中海から出張った潟に面したヴァンドレス村ということになります。黒死病到来前夜の1344年には176世帯を数えたこの村落は、その規模にしては例外的に大量の自治体会計簿を残しており、その残部は1359年から1389年という14世紀後半に集中しています。この史料とベジエ市に残る都市史料とを組み合わせることで、向井君が描き出すのが、ベジエの都市エリートとヴァンドレス村落共同体との関係なのです。

都市エリートは裁判権や徴税権などを通じて支配者・命令者としてその姿を村落共同体に現す一方で、例えば国王税の減免や係争の際の調停人・裁定人など村落の保護者・協力者としての顔も持ち合わせていました。さらにそれらの関係が一方的なものでなく相互関係に基づくものであったことが、贈り物(serviri)の互酬分析からも明らかになるのです。村落共同体のような「下から」の分析によって、フランス中世史研究が半ば教条としてきた「領主の時代」から「君主/諸侯の時代」へ、という推移の間に「都市エリートの時代」が確かにあった、向井さんはこのように結んでいます。


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