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2019/01/11

タバコBY-2細胞から迅速に健全なプロトプラストを調製するプロトコル

Tweet ThisSend to Facebook | by toshisuke

タバコBY-2細胞から状態の良い(顕微鏡観察で原形質の様子が健康的に見え、酵素処理中に壊れる細胞が少ない)プロトプラストを迅速に調製する方法を述べる。

この方法の要点は、プロトプラスト調製時の細胞外液の高張条件を維持するために、mannitol や sorbitol の代わりに KCl を用いる点である。これに細胞膜の安定化作用が知られている CaCl2とMgCl2を加え、さらにアリューロン層からプロトプラストを調製する場合に収率と生理活性の上昇に対する有効性が報告されているアルギニン(Arg)を添加している。また、酵素処理中に発生する活性酸素の害作用を緩和するために、アスコルビン酸ナトリウムも加えている。

BY-2細胞の場合、継代後3〜4日目が最も細胞増殖の盛んな対数増殖期中期で、5日目は対数増殖期の後期から定常期に移る時期であり、分裂細胞の割合が低下し始め、細胞伸長が始まる。0.4 M mannitol あるいは0.4 M sorbitol を酵素処理の際の浸透圧調整物質に用いる通常の方法では、最もプロトプラスト調製が容易なのは上記のうちでは3日目であり、通常30 ℃、60分の酵素処理でほぼ100%の細胞がプロトプラストになるが、得られる細胞の量が少ない。5日目では得られる細胞の量は多いが、完全にプロトプラストになるのに90分〜120分程度処理をしても不十分な場合も多い。

また、培養細胞を材料とする場合、一般に細胞体積(packed cell volume)に対して4〜10倍量の酵素液が必要で、細胞体積に対する酵素液の量が少ないと具合が悪い。

これに対して、KCl を浸透圧調整物質に用いる本プロトコルでは、3日目の細胞では15分くらいで球形のプロトプラストが出現し始め、30分から45分で大半の細胞がバラバラの球形になって、60分以内に細胞壁消化が完了する。4日目以降の細胞では細胞壁消化速度が少し遅くなるようであるが、5日目の細胞でも60分以内に細胞壁消化が完了する。さらに細胞体積に対する酵素液の量は2倍程度で問題なかった。

なお、本方法では、遠心分離によって集めた細胞にいきなり酵素液を加えるのではなく、酵素を含まない高張塩溶液で一度洗浄を行っている。培養液に含まれている糖など、酵素活性を抑える可能性のある物質を除去するためと、酵素を加えない条件で予備的に原形質分離を起こさせるためである。

酵素液を調製する際に注意する点は、加熱を行わない点と酵素を溶かす溶液のpHに注意を払う点である。これは Pectolyase Y-23 は高温耐性がセルラーゼほど高くない上に、含まれる酵素の中にpH7.1では不安定で、一時的にpH7.1にしても、なるべく早くpH5.0まで下げる必要のある酵素もあるからである。

【方法】
1mL
95 mLの培地に植え継いで3〜5日後(対数増殖期)の培養20 mLを、10 mL駒込ピペットで50 mLコニカルチューブに採取し、100×g730 rpm)、2分で遠心して細胞を集める(スイングローター遠心機。ブレーキオフ)。

上清を駒込/パスツールピペットで除く(沈殿した細胞を吸わないように気をつける)。

Hypertonic salt solution(高張塩溶液:180 mM KCl, 20 mM CaCl2, 20 mM MgCl2, 10 mM arginine-HCl, 調整しなくとも成り行きでpH5.46位)をチューブ目盛の50 mLまで加えて、コニカルチューブの蓋を閉めて、穏やかに転頭混和する。

200×g1,040 rpm)、3分で遠心して細胞を集める(ブレーキオフ)。

上清を駒込/パスツールピペットで除く。高張液中のためpacked cell volumeはやや減少する。

20 mL(最初のpacked cell volume2倍量位までは可能)の酵素液(1 %(w/v) Cellulase “ONOZUKA” RS, 0.1 %(w/v) Pectolyase Y-23, 180 mM KCl, 20 mM CaCl2, 20 mM MgCl2, 10 mM arginine-HCl, pH 5.5、使用前に20 mg/20 mLsodium ascorbateを加える:最終濃度5 mM)に懸濁し、100 mL三角フラスコに移す。

フラスコを30℃のウォーターバスに浸して、振幅40 mm、毎分80往復で往復振盪しながら60分間保温する。(15分置きに一滴を60 mm径のシャーレに取って倒立顕微鏡でプロトプラストの単離状況を確認する)。必要に応じて酵素処理を続ける(通常は60分でOK)。

きれいな50 mLコニカルチューブに移し、100×g730 rpm)、5分の遠心(ブレーキオフ)でプロトプラストを沈殿させ、駒込/パスツールピペットで上清を除く(ごくわずかに上清を残すようにする)。圧縮されたプロトプラストの沈殿を、コニカルチューブを手で傾けて上清液が沈殿の上を行ったり来たり動くようにするなどの穏やかな操作で、沈殿をほぐす。

細胞沈殿の約10倍量以上の0.4 M sorbitolをコニカルチューブの器壁を伝わらせるようにして静かに加えて、穏やかな操作(蓋をしてゆっくり転頭混和)で懸濁する。

100×g730 rpm)、5分の遠心(ブレーキオフ)でプロトプラストを沈殿させ、駒込/パスツールピペットで上清を除く。わずかに残した上清で沈殿をほぐす。

0.4 M sorbitol による上記の洗浄操作を繰り返す。

 

【酵素液の作り方】

Hypertonic salt solution(pH5.5弱)100 mL100 mLビーカーに取る。スターラーで攪拌しながら、0.1 g Pectolyase Y-23(あらかじめデシケーター中で室温に戻してから開封)を加える。ついで1 gCellulase “ONOZUKA” RSを加える。液面に浮いた塊が無くなるまで室温で攪拌して完全に溶かす(約1時間を要する)。pHメーターで確認しつつ、溶液を攪拌しながら1 M HClを滴下してpH5.5に合わせる(はじめpH6.2くらいで、1 M HClが8〜12滴程度必要。最初は液がやや濁った感じだったのが、pHを下げるに連れて濁りがなくなり透明になる)。分注して20℃に凍結保存。
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