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2019/01/09

「憲法改正」を公言する安倍首相は改憲の機会を意図して遠ざける

Tweet ThisSend to Facebook | by suzumura

去る1月4日(金)、安倍晋三首相は訪問先の三重県伊勢市で年頭の記者会見を行い、憲法改正に向けた取り組みを継続する姿勢を示しました[1]。


一方、自民党と連立する公明党は、国会の憲法審査会において立憲民主党など野党の理解を得ない議論に反対するとともに、立憲民主党や国民民主党など主要な野党の出席がなければ自民党案の提示も認めない方針です[2]。また、主要な野党各党も自民党による憲法改正案の提出に反対しています[3]。


こうした状況から、2019年の政界の大きな争点が憲法改正問題になると考えることは妥当といえるかも知れません。


しかし、安倍首相の主張と「改憲派」と目された過去の自民党政権の動向を重ね合わせると、安倍首相が憲法の改正に向けて本格的に行動する可能性は決して高くないことが分かります[4]。


すなわち、鳩山一郎、岸信介、中曽根康弘などの「改憲派政権」は、憲法の改正を掲げつつも日ソ国交正常化や日米安保条約改定、あるいは国営事業の民営化など、他の重要な政策の実現を優先させてきました。そして、これらの政権は主たる支持層に対する求心力を維持するために憲法の改正を唱え続けていたのでした[4]。


安倍首相の場合も憲法の改正を主張し、衆参両院で与党が総議席の3分の2を占めているにもかかわらず、与野党の幅広い協議の重要性を指摘していること、戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を定める憲法第9条の第1項と第2項を残したまま、自衛隊の存在を明記する第3項を追加するという、論理的な説明が決して容易ではない案を提示していることなどは、むしろ改憲派や加憲派と護憲派の対立を深め、事態の収拾や意見の一致を難しくするばかりといえます。


実際、年頭の記者会見でも「憲法改正について、最終的に決めるのは、主権者たる国民の皆様であります。だからこそ、まずは具体的な改正案を示して、国会で活発な議論を通じ、国民的な議論や理解を深める努力を重ねていくことによって、また、重ねていくことが選挙で負託を受けた私たち国会議員の責務であろうと考えています。国会において活発な議論がなされ、与党、野党といった政治的な立場を超え、できる限り広範な合意が得られることを期待しています。」と、憲法の改正に向けた努力を強調するものの、改憲の時期については明言を避けています[1]。


もちろん、国会での議論を尊重するという立場を取る以上、改憲の時期を明言することは議論そのものを制約することになりかねないということを考えれば、少なくとも公の場での発言が曖昧になるとしても不思議ではありません。


しかしながら、2012年の再組閣以降、いわゆる「三本の矢」に象徴される経済、金融政策や「地方創生」、「女性活躍」、「働き方改革」といった政策を打ち出して実行に移したことは、安倍内閣の支持率を高め、6年を超える長期政権を可能にしました。


安倍首相もこの点を十分に理解しているからこそ、実現しやすい改憲案の提出を目指すのではなく、与党内からも反論が生じる構想を提起し、自らを支持する保守層に対して改憲の姿勢を見せつつ、改憲が現実のものとなる機会を先延ばしにしていると言えるでしょう。


しかも、安倍首相が憲法の改正を唱えれば、それだけ「改憲反対」を唱える野党は存在感を発揮できます。そのため、野党にとっても実際に憲法が改正されることは避けねばならないとしても、安倍首相が改憲に意欲を示し続けることは党勢の維持や拡張に有益であると言えます。


何より、安倍首相が政治上の手本とする岸信介が、改憲を目的ではなく手段と捉えていたことを参照するなら、安倍首相が憲法改正を自らの求心力を高めるための手段として考えていたとしても、不思議ではないのではありません。


その意味で、改憲を公言する限り、安倍首相は実際に憲法を改正する機会を意図して遠ざけているのであり、改憲に反対する人々が注意すべきは安倍首相が改憲そのものについて具体的に言及しなくなるときなのです。


[1]安倍内閣総理大臣年頭記者会見. 首相官邸, 2018年1月4日, https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2019/0104kaiken.html (2019年1月5日閲覧).
[2]公明、連立20年の正念場. 日本経済新聞, 2019年1月5日朝刊5面.
[3]通常国会、提出法案絞る. 日本経済新聞, 2019年1月9日朝刊4面.
[4]鈴村裕輔, 安倍首相 憲法改正の本気度は?. WEBRONZA, 2018年11月1日, https://webronza.asahi.com/politics/articles/2018102600005.html.


<Executive Summary>
Does Prime Minister Shinzo Abe Aim to Amend the Constitution of Japan? (Yusuke Suzumura)


It is said that Prime Minister Shinzo Abe aims to amend the Constitution of Japan. On this occasion we examine the possibility of an amendment of the Constitution of Japan comparing with former Prime Ministers who were constitution revisionists.


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