錯視日誌 - はじめに -

 
 錯視日誌では、研究、教育、アート,その他のことについて、いろいろなことを書いています。数理視覚科学の研究から生まれた学術的な新しい錯視図形や錯視アートの新作も発表しています。もともとは文字列傾斜錯視日誌という名前で、文字列傾斜錯視自動生成アルゴリズム(新井・新井、特許取得、JST)による作品の発表を中心にしていましたが、文字列傾斜錯視以外の話題が多くなってきたので、名称を「錯視日誌」に変えました。

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2019/05/26

応用重視の線形代数はどのような内容を講義すればよいか

Tweet ThisSend to Facebook | by araih
 現在,ご存知のように線形代数は高校数学から省かれています.応用数学を研究・教育しているものの立場からすると,線形代数は,むしろ全く新しい形態で大いに取り入れた方がよいと個人的には考えております.高校の数学教育についての具体的私案は別の機会に述べることにして,今日のブログでは,大学の線形代数について少し書いてみようと思います.

 15-16年ほど前のことになりますが,これからの線形代数はデータ解析の観点から講義内容を組み直す必要があると考え,そのためには大学で線形代数の何をどのように講義すべきか,どのような応用例が必要か,そんなことを真剣に一人で検討していたことがありました.特に依頼があったわけでもなく,なぜそんなことに時間をかけていたのか思い出せませんが,諸事忙しい合間をぬって,線形代数についていろいろと思いを馳せながらノートをまとめていました.かなりの分量になってしまったものの,幸い2006年に日本評論社から530ページ強の拙著『線形代数 基礎と応用』として出版されました.
「無限個のデータを扱うのが解析学であり,有限個のデータを扱うのが線形代数である」(『線形代数 基礎と応用』の序文より)
という思想が基軸になっている線形代数の教科書です.

 内容は,いろいろと練っていくうちに,線形代数の基礎のきっちりとした説明は外さないようにしつつ,
 特異値分解,一般化逆行列,巡回たたみ込み,離散フーリエ解析,
 ウェーブレット,回帰分析・主成分分析など多変量解析の基礎,テンソル積
などになるべく重点を置き,
 画像処理,音声のスペクトログラム,信号の特異性の検出などの応用例
も入れました.
 当時はこのプログラムがスタンダードな教養の線形代数のコースになるはずもありませんでしたし,これまでのスタンダードが悪いとも思っていなかったので,標準の授業とは別に,下記内容の「第3部応用編」を全学自由研究ゼミナールで有志の1年生・2年生に何年か講義していました(東京大学駒場にいた頃の話です).


図:特異値分解を用いて行列の階数を減らすことによる画像データ圧縮例 (新井仁之著「線形代数 基礎と応用」第16章 特異値分解とその応用より)

 その当時練った内容が次のものです:

『線形代数 基礎と応用』の目次          
             
  第1部 基礎編 - 行列と行列式 -      
             
   第1章 数ベクトル空間、線形写像、基底
       1.1 数ベクトル
      1.2 数ベクトルの算術(線形演算)
       1.3 線形写像
  第2章 行列と行列の演算
       2.1 行列
       2.2 行列の演算
       2.3 基本的な行列の例
       2.4 逆行列
  第3章 線形写像と行列
       3.1 線形写像の行列による表現
       3.2 行列と線形写像の演算
       3.3 写像と逆写像
  第4章 ガウスの消去法
       4.1 具体例
       4.2 より一般場合のガウスの消去法
       4.3 基本行列の積による行列の変形
       4.4 逆行列の計算 -掃き出し法
  第5章 行列式
       5.1 置換
       5.2 置換の符号と偶置換,奇置換
       5.3 行列式
       5.4 行列式の基本的な性質
  第6章 行列式の余因子展開とその応用
       6.1 余因子展開
       6.2 余因子展開を用いた行列式の計算
       6.3 行列式と余因子を用いた逆行列の計算
       6.4 行列式と連立1次方程式の解法
  第7章 いろいろな行列の行列式
       7.1 ファンデルモンド行列式と補間多項式への応用
       7.2 置換行列
       7.3 巡回行列の行列式
       7.5 固有多項式
       7.5 小行列と小行列式
  第8章 ブロック行列
      8.1 ブロック行列の演算
       8.2 ブロック行列の逆行列
       8.3 ブロック行列の行列式  
         
  第2部 理論編 - 線形構造と基底 -  
         
   第9章 基底と部分空間
       9.1 線形独立、線形従属
       9.2 線形包
       9.3 線形部分空間とその基底
  第10章 内積と正規直交基底
       10.1 内積と直交性
       10.2 正規直交基底
       10.3 シュミットの直交化法
       10.4 直交射影と直交補空間
       10.5 最良近似への応用
       10.6 線形写像の値域と核
  第11章 行列の階数
       11.1 一般論
       11.2 階数の計算とピボット
      11.3 行列の標準化
  第12章 連立1次方程式の一般解
       12.1 解の存在と一般解
       12.2 連立1次方程式の一般解の求め方
  第13章 基底変換と行列の対角化
       13.1 基底変換
       13.2 対角化と固有値
       13.3 正規直交基底による対角化
       13.4 エルミート形式とクーラン・フィッシャーの定理
       13.5 幾何的な問題と主成分分析への応用
  第14章 行列の分解定理
      14.1 LU分解
       14.2 LDM*分解
       14.3 コレスキー分解
       14.4 QR分解  
         
  第3部 応用編   
         
   第15章 一般逆行列とその応用
       15.1 一般逆行列
       15.2 ムーア・ペンローズ一般逆行列
       15.3 連立方程式の最小2乗解への応用
       15.4 データの直線、曲線によるあてはめへの応用
       15.5 種々の一般逆行列
  第16章 特異値分解とその応用
       16.1 行列の特異値分解
       16.2 特異値標準形と一般逆行列
       16.3 特異値分解の最小2乗解
      16.4 低階数の行列による近似とディジタル画像
  第17章 多変量解析と線形代数
       17.1 いくつかの基本概念
       17.2 回帰分析
       17.3 主成分分析
  第18章 離散フーリエ解析への応用
       18.1 フーリエ解析とは何か
      18.2 フーリエ基底
       18.3 フィルタリングとその応用(ノイズ除去)
      18.4 循環相関積
       18.5 フーリエ行列と巡回行列
       18.6 スペクトログラム
 第19章 離散ウェーブレットへの応用
       19.1 準備
       19.2 サブバンド・フィルタ・バンク
      19.3 2チャネル最大間引きフィルタ・バンク
      19.4 多重解像度近似
       19.5 ウェーブレットの例 (ハールウェーブレット,
                  ドブシーウェーブレット)
      19.6 ウェーブレットの応用例(特異性の検出)
  第20章 整数値行列とその応用 
      20.1 スミス標準形
       20.2 整数値行列による格子の生成
         
  第4部 線形代数の抽象化   
         
   第21章 線形空間
       21.1 線形空間の定義と例
       21.2 線形写像と行列
       21.3 座標変換について
      21.4 内積
  第22章 テンソル積と外積
      22.1 線形空間のテンソル積
       22.2 線形写像のテンソル積
       22.3 画像処理と線形写像のテンソル積
       22.4 反変テンソル、共変テンソル
      22.5 交代テンソル
      22.6 テンソル代数と外積代数
  第23章 k-ベクトルとk-形式
       23.1 k-ベクトルと線形空間の向き
      23.2 k-形式
       23.3 k-ベクトルに対する内積
       23.4 k-形式に対する内積   
         
         
   A 置換を互換の積に分解する方法
  B 行列式の幾何学的意味
  C 行列に対するノルム
 D ジョルダン標準形
  E 問題の解答
  参考文献  
 
この本を書いてから13年たってしまいましたが,その後,ますます上記のようなことの有用性は増しているようです.


線形代数 基礎と応用(新井仁之,日本評論社,2006)
正誤表など本書詳細情報はこちら

本ブログの履歴:
2019/4/19アップ.2019/5/26 画像・詳細目次等追加


『私の名著発掘』もご覧ください.
https://researchmap.jp/joqw0hldv-1782088/#_1782088


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