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2019/05/25

岩下「進化するボーダースタディーズ」

Tweet ThisSend to Facebook | by yoichi.isahaya

故あって読みました。ボーダースタディーズ/境界研究を牽引するスラ研の岩下さんが、この学問分野についてこれまでの経緯と成果とをまとめたものです。

岩下さんはボーダースタディーズを「空間を切り分けるボーダーの生成と再生 (bordering、re-bordering) と脱境界化、場合によってはその消滅 (de-bordering)、越境 (transbordering) が織りなす諸現象を分析する」ものだと定義し、時に境界の領域性や政治性をも問い直す、分野横断的なものであるとしています。ボーダースタディーズの学会としての形成は、米墨間のボーダーを扱う研究者コミュニティによる1976年の設立に遡り、21世紀初頭に岩下さんがスラ研を中心として立ち上げたプロジェクトもその世界展開に大きく寄与することになりました。さらに、この研究が「現場」を重視するものとして地理学や人類学の影響を強く受けていること、さらには様々なボーダーの比較検討という世界展開を可能にする研究分野でもあることが語られています。

そしてこのように「現地」を大事にするボーダースタディーズが、いかにしてその場所との双方向的かつ継続的な関係を構築していくのか。この回答を模索する過程が、行政や市民社会との関係構築の難しさとともに語られて行きます。例えば与那国島のような小規模な地域では、それは人間関係——特に対立関係——と切り離せないのです。両者の側に立つことは不可能であると。。この学問を「現地」と双方向なものとする際に岩下さんが重視するのが、1)境界市民の意識向上、2)境界相互間の交流、3)境界地域そのものへの関心の高まり、からなる三層構造です。そしてこの構造の要として岩下さんのプロジェクトで推進されたのが「ボーダーツーリズム/境界観光」ということになります。

特に国内旅行と海外旅行とが明確に区別される日本の観光業界において、両者を渡るボーダーツーリズムという発想は希薄でした。こうした状況のなか、このプロジェクトは、2013 年12月の福岡・対馬・釜山ツアーを皮切りに、モニターツアーを積み重ね、ボーダーツーリズムの造成と商品化を目指してきたのです。最後に岩下さんはボーダーツーリズムに対するアカデミアからの反論の主要なものとして、1)ナショナリズムの問題、2)現地との関係性、の2点を挙げます。2)に関してはツーリズムが活況を呈したとしてその利益享受者が現地の全員とはなりえない以上、円満な解決は難しいものの、あくまで「現地ファースト」の姿勢を堅持することが大事であると。1)の問いが学問的により深刻なのは、サハリン、中ロ境域、東南アジアといったボーダーツーリズムの対象がいずれも「大日本帝国」の足跡と重なることからも明らかであす。ただ一方で、ボーダーへの注視は、その地域が境でありつつも「ゲートウェイ」でもあった事実を明らかにしうるものでもあり、ナショナリズムの陥穽から自らを引き上げるものでもある。そうした可能性にも言及が為されています。

僕も「知の境界」を研究テーマとしている者でありますので、境界研究、大いに興味を惹かれるところでありました♪


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