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(2010 年 4 月 30 日「研究ブログ」に設置)

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2019/06/12

ミラー対称性紳士録

Tweet ThisSend to Facebook | by Takebe
学年末の忙しさのせいで二週間も経ってしまいましたが、先々週の5月27日から6月1日まであった、"Who is Who in Mirror Symmetry" という研究会(HSE のミラー対称性と保型形式国際ラボラトリー主催)の復習です。

最初「紳士録(Who is who)」というのは多様体の擬人化か何かで、特徴のある多様体のミラー対称性の話を "博物的" にいろいろ見て回るのかと思いました。何せ私の近く(物理的にではない)に「多様体愛護教会」なんてのを立ち上げた人もいるくらいですから。ところが、実は研究会の名前、ロシア語だともっとあけすけで «Встреча мировых лидеров гомологической зеркальной симметрии» =「homological mirror 対称性の世界的リーダーとの出会い」。彼ら、意外と「権威」好き?(^^;;

とにかく「紳士録」というだけあって講演者は錚錚たる顔ぶれ。この分野の大家が目白押しですから、あまりこの分野に詳しくはない(かと言ってまるっきり無縁というわけでもない)私もノコノコ顔を出してみました。まあ、例によって授業その他の合間を縫って、ですから半分程度しか出られませんでした(タイトルを見て最初から「こりゃ分からん、無理」とあきらめて出なかったのも少なからず)。講演のビデオも公開されていますが、全部を撮っていたわけではないようです(多分、バイトの人の都合など)。

以下、聞いた講演の中からノートが全く意味不明なものを除いて復習。話を聞いてからあまりに時間が経過したため、ノートを見ても内容を思い出せないことが多く、かなり不完全です。


  • M. Kontsevich: Birational invariants from quantum cohomology
量子コホモロジーを使って新しい双有理不変量を作って代数幾何へ応用しよう、という話。例えば generic な三次四次元多様体は有理的ではないことが証明できる。但し、まだ予想段階の部分が多い。主な道具は semi-orthogonal decomposition (SOD); 有限次元線形空間 V に、対称性も反対称性も無い内積 (,) を定義し、i>j ならば (Vi, Vj)=0 となるような V1,...,Vl の直和に分解する。この l を長さと呼ぶ。長さ l の SOD 全体には組紐群 Bl が自然に作用する。symplectic 多様体のコホモロジーに量子コホモロジーの積を使いながら内積構造を入れて SOD 分解をする。この長さが canonical に不変量になるだろう、というのが予想。さらに、量子コホモロジーにパラメーターに関する D 加群の構造を入れて…、以下ついていけなかった。
  • H. Iritani: Quantum cohomology of toric blow-ups
Kontsevich の話よりも具体的に、toric blow-up という多様体の量子コホモロジー空間の量子 D 加群構造を調べる(「量子 D 加群」と言っているのは、量子コホモロジーの積を使って微分作用素を定義しているからで、D 加群としては普通の D 加群と変わらない)。出てくる D 加群は不確定特異点を持ち、その Stokes データなどによって SOD がラベル付される。代数幾何の詳しい議論は分からなかった。ここで書いたことは、実は講演後に入谷さんに直接素人の質問をぶつけて解説して頂いたこと。
  • D. Nadler: Real and symmetric matrices
「ホモロジー的ミラー対称性は動機づけだけだよ」と断っての話。一番簡単な例:複素平面 C2(あ、Gauss 平面じゃなくて、C 上二次元の線形空間のことです;やっぱり「複素数平面」という言葉も必要か?私の世代より上には非常に評判が悪いし、僕も普段使わないけれど)には二種類の symplectic 形式、ωhol = Re(dz1 dz2) と ωKaehler = i(dz1 d \bar z1 + dz2 d\bar z2)/2 があり、途中を補間することも出来る。これらに関する Lagrange 平面はそれぞれ C と R2 で isotopic. これらも補間する事が出来る(hyper-Kaehler 回転しているだけ)。n×n 複素べき零行列の空間 Nn に二種類の symplectic 構造を入れて、それぞれの Lagrange 部分空間として実行列のなす空間と、対称行列のなす空間が取れ、補間することが出来る。証明は Nn の元 A に対して C[t]/(t-A) で P1 上の framed torsion sheaf の空間の原点での茎に対応させて、代数幾何の話にする。
  • K. Fukaya: Floer homology of noncompact Lagrangian submanifold in the divisor complement
Symplectic 多様体 X とその divisor D のペアに対して Floer ホモロジーの理論を作る時、コンパクト Lagrange 部分多様体 L が D に触っていない時には問題ないが、L がコンパクトではなくその境界が D に含まれている状況では新しい現象が起きる。境界作用素 ∂ を「いつものように」作ってしまうと ∂2 ≠ 0 となってしまう。そこで新しい境界作用素 ∂+ を定義した。いっぱい模式図を書いていたけれど、さーっぱり意味が分からなかった。深谷さん、字の汚さは相変わらずですが、他の講演者の皆さんも相当なもの。

学食で昼食をご一緒させて頂いた時に、深谷先生が五年前からおられる Simons センターや、Simons 氏についていろいろ聞かせて頂きました。
  • K. Ueda: Homological mirror symmetry for Milnor fibers of invertible polynomials
Invertible 多項式というのは、多項式の各単項式の中の各変数の次数を行列状に並べた時に、その行列 A が可逆になるもの。更にその多項式が孤立特異点を定義する時に、その Milnor fibre の wrapped Fukaya 圏と compact Fukaya 圏を、A の転置行列を次数とする多項式で定義される多様体?(特異点?)で記述する。
  • V. Golyshev: Dimensional interpolation and the Selberg integral
分数次元の射影空間や、「個数が自然数でない」変数の組の多項式で定義される多様体を調べる。例えば射影空間上の直線束 O(n) に対する Riemann-Roch-Hirzebruch 公式は Beta 積分を使って表される。これを一般化して Selberg 積分で Euler character が書けるようなものを考える。Weyl の分母公式の一般化でもあり、表現論とも関係する。途中で Ciocan-Fontanine - Kim - Sabbah - Ueda 原理、という言葉が出てきて、植田さんにコーヒーブレイクの時にどういう話なのか説明して頂いたのに忘れてしまいました。植田先生、すみません。
  • Yu. Toda: On categorical Donaldson-Thomas theory for local surfaces
多様体 X 上で、安定性条件のパラメーター σ を決めて X 上の連接層の導来圏上の σ 安定な対象のモジュライ空間を考え、それが σ によってどのように変わるか考察したい。特に、σ が壁を越える時にモジュライ空間が flip や flop で結びついている場合には、モジュライ空間上の連接層の導来圏の関係について予想がある。こうしたことを X が Calabi-Yau 三次元多様体の場合に調べたいが、モジュライ空間が非常に特異なものになるのが困難な点。アイディアとしては、flip や flop を Joyce による d-critical な flip, flop に取り替え、導来圏を圏論的 Donaldson-Thomas 理論に取り替えて、「DT 不変量の wall-crossing formula の categorification を目指す」。今回の話は、これを local surfaces について考えた、というもの。
  • A. Takahashi: Maximally graded matrix factorizations for an invertible polynomial of chain type
植田さんの話でも出てきたいた invertible 多項式の特殊なもの(chain type)について、Milnor fibre の Fukaya 圏の構造を決めた(ある例外対象 E と自己同型 τ があって、E に τ を当てたもので生成される)。
  • S. Barannikov: (第一部)Invariants of Morse complexes and persistent homology.
Arnold が昔「球面の近傍で定義された滑らかな関数を球体の内側に延ばしたら、generic にはいくつの臨界点を持つことになるか」という問題を出した。これは Morse 複体の言葉で記述でき、更に複体に自然な条件を満たす filtration がある、という話に一般化される。このような場合に複体に良い基底を決めるアルゴリズムを 1994 年に求めた。これは、現在では persistent homology の理論の基礎になっている(persistent homology については数学セミナー2017年12月号参照)。

(第二部) Higher genus GW: associative algebra Q(N) and the total generating function for psi-classes and their products.
の方は、すみません、疲れていてほとんど分からなかった(ノートを見ても分からん)。Q(N) とは、スーパー Lie 代数 gl(N|N) の中で odd involution と可換になるもの全体のなす部分代数。

Sergey Barannikov 氏とは、90年代にモスクワの物理屋さん達主催のウクライナの片田舎での合宿形式の国際研究集会で初めて会いました。当時の彼は英語が悲惨で、英語での講演が全然進まない。みんなあきらめて、講演も中途半端で終わり。ところが夕食後、いつもなら飲み会をやっているはず?のロシア人達が研究会をする部屋に集まって何かやっている。何事かと覗いてみたら Barannikov がロシア語で話していて、皆熱心に聞いている。話の仕方も英語の時とは打って変わって堂々としたもの。「うーん、これはロシア語で数学の議論を出来るようにならなくちゃいけないかな」と思わせた場面でした。(おそらく日本に来た外国人は「日本語で数学の議論出来るようにならなくちゃ」と思わせる場面に多々出会っていると思うんだけれど、実際に勉強してくれる人は少ないですよね。)
  • C. Teleman: Coulomb branches and old-fashioned topology
Bezrukavnikov, Finkelberg, Mirkovic, Braverman, Nakajima らの Coulomb branch の性質を昔ながらの?代数的トポロジーの観点から説明する試み、だそうで、したがって日本の方でこの話に興味を持たれる方がいそうなのは予想できますが、私の力では全く説明できないので、ビデオを見て下さい。
  • R. Bezrukavnikov: Mirror symmetry and local geometric Langlands
Global な geometric Langlands 対応は、Kapustin と Witten によって、電気磁気双対やミラー対称性と関係があることが示された。では local なバージョンはどうか。これは、「G 束のモジュライ空間」を「local な G 束の変形」と変えて、affine Grassmann を使って記述し、他方を Steinberg variety 上の連接層を使って書いて定式化する。予想と実際に証明できたことを話していたのですが、ノートが非常に汚くて不正確になりそうなので、後は論文(McBreen (綴不正確かも) と共著の予定)をご覧下さい。


例によって、後になるほどいい加減な紹介になってしまった。m(__)m
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