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2019/06/12

「老後2000万円報告書問題」に際して与野党に求められる党利党略を超えた対応

Tweet ThisSend to Facebook | by suzumura

昨日、麻生太郎金融担当国務相が受け取りを拒否した、金融庁の諮問機関である金融審議会による報告書「高齢社会における資産形成・管理」は、現在金融庁の公式ウェブサイトで閲覧できます[1]。


報告書の21ページでは、「長寿化に伴い、資産寿命を延ばすことが必要」という見出しの下で、次のような記述がなされています。


前述のとおり、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる。重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。それを考え始めた時期が現役期であれば、後で述べる長期・積立・分散投資による資産形成の検討を、リタイヤ期前後であれば、自身の就労状況の見込みや保有している金融資産や退職金などを踏まえて後の資産管理をどう行っていくかなど、生涯に亘る計画的な長期の資産形成・管理の重要性を認識することが重要である。


このような記述は、報告書に「不適切な表現」[2]があったと言うよりは、貯蓄だけではなく投資を行うなど、より積極的に資産を形成することの重要性を提起しています。


そのため、報告書の内容に「不適切な表現」があったとするなら、問題は記述そのものではなく、むしろ読む者の理解力にある可能性が推察されるところです[3]。


その一方で、単純計算であるとしても、報告書は一つの試算として年金のみでは毎月の生活にかかる資金の不足が生じる可能性を示しています。


それだけに、報告書を受理しない、あるいは金融庁は今後報告書の内容を政策立案に用いないといった対応[4]は、適切でないばかりか、今後起こり得る事態への政策的な備えをおろそかにしかねません。


自民党の二階俊博幹事長が「参院選を控え候補者に迷惑を及ぼさないよう党として注意しないといけない」と報告書の撤回を求めた理由を述べたよう[5]に、今回の政府や与党の対応は「参院選対策」という側面が強いでしょう。


また、野党側も政府を批判するだけでなく、「問題が予測されるなら、どう解決するか」を具体的に示すことが不可欠でしょう。


政府、与党、野党のいずれもが党利党略、個利個略を優先して都合の悪い情報から目を背けるなら、そのような状況は決して健全ではありません。


年金制度に対する国民の信頼を繋ぎ留めたいと考えるなら、与野党に求められるのは、好ましい情報を示すだけではなく、好ましくない情報をも明らかにし、対応策を検討する真摯さと胆力なのです。


[1]金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」. 金融庁, 2019年6月3日, https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf (2019年6月12日閲覧).
[2]参院決算委 「老後2000万円」与野党攻防. 毎日新聞, 2019年6月11日朝刊2面.
[3]鈴村裕輔, 「老後2000万円必要報告書」の撤回は何を意味するか. 2019年6月11日, https://researchmap.jp/jo90vdl9k-18602/#_18602.
[4]「老後2000万円必要」撤回へ. 日本経済新聞, 2019年6月11日夕刊1面.
[5]「老後2000万円」金融庁撤回へ. 日本経済新聞, 2019年6月12日朝刊2面.


<Executive Summary>
Ruling and Opposition Parties Shall Do Their Best to Maintain the National Pension System (Yusuke Suzumura)


Financial Minister Taro Aso says that he does not accept a report on the National Pension System published on 3rd June as an official document on 11th June 2019. On this both occasion ruling and oppsition parties shall do their best to maintain the national pension system, since undesirable information is available in fron to the people of Japan.


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