counter886414
(2010 年 4 月 30 日「研究ブログ」に設置)

研究ブログ

研究ブログ >> Article details

2019/08/17

掛け算の順序

Tweet ThisSend to Facebook | by Takebe
と言うと、小学校教育での掛け算の話が有名かと思いますが(どうも、ロシアにも同じ話があるらしい、というのはだいぶ前に書きましたが)、それは交換法則に関わる問題。今回はもう一つの「順序」、結合法則の話。

例年の通り、神戸大学で野海先生と共著の本についての相談をしています。この本を書くことにしてからもう今年で二十年経過。「時代遅れだ、いい加減止めてしまえ」という声も某T先生より頂いておりますが、一方同じ問題を別のアプローチで本を書いている人の話も聞き、まあ需要はあるだろう、と思ってダラダラと続けています。

実は、書き始めた当初の予定の部分はもう十年前にはほぼ完成しています。ならば何故にこんなに時間が掛かっているのかと言うと、「せっかくだから自分の結果も入れたい」と思ったり「武部君が書くならそこまで書かなくちゃね」と言われたりして、つい欲を出して内容を増やそうとしたら、かなり面倒な理論的問題を解いておかないといけなくなった為。大事な話だと思うのできっちりやっておきたいのですが、無限が絡む問題はいつも厄介で…。

その問題そのものではないですが、関連する小話。今扱っているのは無限サイズの行列です。これ、いつでも積が定義できるわけではないのはすぐに分かりますが(例えば、∞×∞の正方行列で、全部の成分が1だったら、積の各成分が発散する)、仮に積が定義されるような場合でも注意が必要です。野海先生に教わったかなり「びっくり」な性質は、結合法則が成り立たないこと。いつ結合性が成り立つか、というのは野海先生がかなり詳しく調べておられます。

結合律が成り立たない例を、もっと簡単な(?)対象から作れることに気がついたのでご紹介。次の「公式」がタネ:
(1+x+x2+x3+...) (1-x) = (1-x) (1+x+x2+x3+...) = 1,
(-x-1-x-2-x-3-...) (1-x) = (1-x) (-x-1-x-2-x-3-...) = 1.
つまり、(1-x) は (1+x+x2+x3+...) と (-x-1-x-2-x-3-...) という二つの異なる両側逆を持つ。結合律が成り立つ場合は、両側逆元が存在すれば一意だから形式的 Laurent 級数の全体は非結合的。非結合性が見えるように書くと、

(1+x+x2+x3+...)
= (1+x+x2+x3+...) ((1-x) (-x-1-x-2-x-3-...))
≠ ((1+x+x2+x3+...) (1-x)) (-x-1-x-2-x-3-...)
= (-x-1-x-2-x-3-...).

この x に、例えばシフト行列(無限行列で、対角線から一つ上に 1 が並んでいる行列)を代入すれば、三つの無限サイズ行列で積が非結合的な例になります。

大学院生以上だったら、ここで「え、Laurent 級数なのに何で何で?」、「関数の積は数の積なんだから結合的じゃないの?」とか言ってはいけない。
01:29 | Impressed! | Voted(1) | Comment(0) | 教育