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2019/08/17

カナダ国会における身体障がいのある議員の活動について

Tweet ThisSend to Facebook | by okdkntr
【カナダ国会における身体障がいのある議員の活動について】
(取り急ぎのメモで何度か内容を修正することがあります(初稿2019/08/01))
 
 カナダ国会での障がいを持った議員のひとびとの活動について問い合わせがありました。れいわ新選組のお二人が参議院議員に当選したことを受けてのことだと思われます。大事なことだと思いますので、参考までにカナダ国会における状況について以下まとめました。

 カナダ国歌であるO Canadaの歌詞をジェンダー・ニュートラルな内容に変えることに尽力したモーリル・ベランジェMauril Bélanger下院議員が有名です。ベランジェ議員については、NHKWEBの記事のほか、オタワにある在カナダ日本国大使館で政務担当の専門調査員を務めた仲村愛さんによる丁寧なインタビュー記事もあります。

“やさしい国会”になれるか(NHK NEWSWEB 7月23日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190723/k10012005351000.html

カナダにもALS患者の議員 国歌の歌詞修正に尽力(朝日新聞デジタル 7月28日)
https://www.asahi.com/articles/ASM7W62Z6M7WUHBI018.html

ベランジェ議員が提出した国歌の歌詞をジェンダーニュートラルに変更する動議は、以下のyoutubeでカナダ下院での採決の様子を見ることができます。
Mauril Belanger in House as anthem bill passes to Senate(CTV)
https://www.youtube.com/watch?v=GciilgZWodc

注意してみていただければと思うのですが、カナダ国会の下院には、色鮮やかなターバンを巻いたインド系議員や乳児を抱きながら採決に参加している女性議員の姿を見ることができるかと思います。(8月9日加筆)

 カナダではベランジェ議員より以前にも、首から下の下半身に障害があり、電動車椅子による議員活動を続けたスティーブン・フレッチャーSteven Fletcher下院議員(現在はマニトバ州議会議員)もいますし、現在でもケント・ヘールKent Hehr下院議員が活動しています。ヘール議員は現在のジャスティン・トルドー政権下で大臣等の要職を務め、2018年まではスポーツおよび障がい者政策担当国務大臣を務めていました。
 私の知る限り、フレッチャー下院議員が大型の電動車椅子で議会に登院した最初の国会議員ではないかと思います。ベランジェ下院議員が電動車椅子で登院するさい、特段の議論もなかったのはそういった先達がすでに存在していたこともあります。
 またフレッチャー下院議員が初当選して議会活動をはじめるにあたっては、連邦議会議事堂や下院本会議場のバリアフリー化のための改修工事がなされています。その際、そういった支出への批判や、議会活動における介護費用などについての批判的な議論はなかったように思います。おそらく費用の支出そのものについて批判することが政治的な道義に反するという雰囲気が、当時からカナダ社会全体にあったように思います。最近の議論を借りるならば「柔らかいガードレール(レビツキー&ジブラット著「民主主義の死に方」(新潮社)」がカナダでは機能していた、ということになるかと思います。そしてそれは、いまでも機能しているように思われます。

 弱い立場のひとびとへの理解や、そういったひとびとを包摂しようとするカルチャーは、もとをたどればカナダが育んできた多文化主義の歴史に行き着くように思えます。もともとカナダの多文化主義は、言語的・民族的マイノリティである仏語系住民のカナダへの包摂を企図するものでしたが、それがアジア系などをはじめとする移民・難民のひとびとのカナダ社会への包摂へと拡大し、さらにはLGBTのひとびとや障がいのあるひとびとを社会につつみこもうとする流れへとつながっています。当初はエスニックな、言語的なものを念頭に置いていた多文化主義が包摂の論理としてその射程を拡大しつづけ、その結果障がいをもったひとびとの社会への包摂までも意図するようになったといえると考えています。「拡大をつづける多文化主義」といったところでしょうか。そういった考えはカナダ社会に広く根付いているようにも思えます。たとえばバンクーバーの公共交通機関のバスなどは、ほぼそのすべてに車椅子用の電動ブリッジが備わっていたりしますし、社会全体で弱い立場のひとびとを受け入れ受け止める感じになっているように思っています。

 政治の役割として、大きくは「包摂」や「統合」ということが重要であるように思います。しかし現在の世界の政治状況をみていると「包摂」とは逆方向の「排除」の論理が目立つようになっています。自分の研究対象であるカナダやカナダ政治を賞賛するつもりは毛頭ないのですが、それでもカナダ政治を見ていると、いまだ「包摂」の力学が強く働いている、今日ではきわめて例外的な国なのではないかと思っています。
 
 また、イギリス議会における障がい者議員の車椅子での登院についても問われたことがありますが、詳細についてはわかりません。ただイギリス議会下院(庶民院)の議場の構造上、電動車椅子が議員席に入ることはかなり無理があります。議場自体もかなり狭い印象があります。私見ですが、カナダ議会の半分程度の大きさではないでしょうか。党首討論のさいなど議場の議席には下院議員が座りきらず、席の間の階段にも腰掛けるような状況です。議長席の向かい、議場への入り口付近には座りきれない議員が立ったまま党首討論を聞いていますが、そのスペースに車椅子の議員がいたことをネット上の動画でみたことがあったような気がしていますが、記憶が定かではありません。(2019年8月1日)

 なお、9月に刊行予定の社会科の先生向けの雑誌である『歴史地理教育9月号 特集もっと知ろうカナダの今』では、カナダ国王(エリザベス二世)の名代である連邦総督や副総督といった象徴的な地位におけるマイノリティの表出についてまとめています(岡田健太郎「カナダ政治の現在 イギリスらしさと独自性と」同号26頁~34頁)。この原稿は6月末に脱稿したもので、今回のことには触れていません。ただこれらの地位には車椅子を利用している障がいを持つひとびとが就いていたこともあり、カナダにおける障がいと政治との関わりという論点はきわめて今日的意義を持つものだと考えています。
 
 実際の状況については、以下をご覧ください。
たとえばオンタリオ州のデイビッド・オンリー副総督については以下のyoutubeをご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=lxpPVlqQJL4(8月2日付記)

電動車椅子で活動している元バンクーバー市長のサム・サリバンSam Sullivan BC州議会議員についての記事
Sam Sullivan: a candidate defined by ideas — and limited by them, too
CBC News, January 31, 2018
https://www.cbc.ca/news/canada/british-columbia/sam-sullivan-leadership-profile-1.4510928
(8月7日加筆)

車椅子で活動するカナダ下院議員の活動を報じるニュース(October 1, 2011 Global News Media) 
New wheelchair-bound MP takes fight for disability rights to floor of Commons
https://globalnews.ca/news/161320/new-wheelchair-bound-mp-takes-fight-for-disability-rights-to-floor-of-commons-6/?fbclid=IwAR3zDgULyj5Mgzu6XtJMqomN97oLs-OL11vadmD80Mz9gFaa6Q81JU2FQmU
この記事によると、カナダ国会の議場は完全なバリア:フリーではなく、改善が必要なところもまだあるとのこと。2019年現在、カナダ国会の議事堂は大規模な改修工事に入っていて、現在は議事堂も仮のものとなっています。新しくなる本会議場も含めて、カナダ議会におけるバリア・フリーの現状についても調べてみる必要があるように思っています。(8月7日加筆)


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