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2019/10/17

遅きに失したIOCの「マラソンと競歩の会場変更」の案は実現するか

Tweet ThisSend to Facebook | by suzumura

昨日、国際オリンピック委員会(IOC)は2020年に開催される予定の東京オリンピックのマラソンと競歩について、猛暑の中での実施に懸念があるため、北海道札幌市で開催する案を検討している旨を発表しました[1]。


観戦チケットが販売され、購入者が代金の支払いを済ませた時点での開催場所の変更は、たとえ利用規約の中にIOCやJOC、あるいは大会組織委員会は会場の変更によって生ずる購入者の損害に対する責任を免除される条項が含まれるとしても、道義上の問題は避けられません。


また、大会組織委員会が競技の開始時間を繰り上げることを公表し、各国の選手も指定された時間に対応するよう準備を進めている段階で開催場所を変更することは、選手に無用の混乱をもたらしかねないところです。


それにもかかわらずIOCが札幌での開催を検討している背景としては、今年9月27日(金)から10月6日(日)にかけてカタールのドーハで開催された世界陸上選手権において、深夜に開催されたマラソンや競歩で途中棄権者が相次いだことが挙げられます[2]。


確かに、酷暑の中で競技を実施することで棄権者が続出し、競技そのものが成立しない可能性があるとすれば、よりよい環境を求めることは適切な態度と言えます。


しかし、7月末から8月にかけての東京都の天候が温暖ではなく暑熱であることは、2020年のオリンピックとパラリンピックの開催地を決定した2013年の時点で自明の事実でした。


この間、IOCをはじめ関係者がマラソンや競歩などの競技を東京都以外で開催することを実際に検討してこなかったのは、一面においてIOC側が「天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」という招致委員会による「立候補ファイル」の記述[3]を額面通り受けて止めてきた結果であるとともに、他面において東京都の夏の気候を軽視してきたためとも言えるでしょう。


また、世界陸上選手権での「惨状」[2]を受けてマラソンや競歩の開催場所の変更を検討するのは、いかにも機を見るに敏なトーマス・バッハIOC会長らしい態度ではあるものの、もしドーハ大会がつつがなく行われていれば、事態が放置されたままであったことを示唆します。


あるいは、IOCが定めるオリンピック憲章には開催すべき年を「オリンピアードの最初の年に開催され」ると定めているものの[4]、開催すべき月は明記されていません。


そのため、理論上は10月に行われた1964年の場合のように今回も開催時期を7月末から8月までではなく10月に移行させることは可能でありながら、2014年から2032年までの夏季と冬季の10大会を米国で独占中継する権利を購入したNBCの意向に沿って9月以降の開催に同意しない態度[5]からは、IOCがかつての「商業主義」の発展形としての「スポンサー第一主義」に囚われていることを推察させます。


さらに、IOC側の態度に「唐突な話」と不快感を示し、「なぜこうなったのか説明を聞かないといけない。アスリートファーストは重要だが、どのように東京大会を成功させていくか、大きく捉えて進めていきたいた」と述べた小池百合子都知事[2]は、意図的か否かにかかわらず、非人道的な環境の中で競技を行うことが選手、観客、大会関係者のいずれにとっても不利益でしかないこと[6]を等閑視しています。


脱水症状や熱射病で犠牲者を生む危険性を考慮し、他の場所での開催を検討することは、大会の返上が現実的ではなくなった現時点では、最善ではないとしても次善の策となります。


そして、もし東京都が選手、観客、大会関係者の健康を配慮して会場の変更を支持するなら、東京の名前は「目先の利益を追わず、真に選手のことを最優先する優れた都市」として不朽のものになり、今後のオリンピックのあり方を矯正する最善の方法となるのです。


幸いにも、北海道は「現実的に高温状態でなく、台風の危険性が極めて少なく、なおかつ競技環境が完備され、競技開催実績があり、競技役員、ボランティアの現地調達が可能で、ホテル一棟借り上げによる選手村設置及び警備体制が可能で、プレスセンターの設置ができる場所」[7]です。


それだけに、関係者には、今回のIOCの措置を奇禍とし、より現実的な方策を速やかに決めることが望まれるのです。


[1]INTERNATIONAL OLYMPIC COMMITTEE ANNOUNCES PLANS TO MOVE OLYMPIC MARATHON AND RACE WALKING TO SAPPORO. International Olympic Committee, 16th October 2019, https://www.olympic.org/news/international-olympic-committee-announces-plans-to-move-olympic-marathon-and-race-walking-to-sapporo (accessed on 17th October 2019).
[2]暑さで棄権続出 IOCが懸念. 日本経済新聞, 2019年10月17日夕刊10面.
[3]立候補ファイル(日本語版). 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会, 公開日未詳, 13ページ, https://tokyo2020.org/jp/games/plan/data/candidate-entire-1-JP.pdf (2019年10月17日閲覧).
[4]オリンピック憲章〔2019年6月26日から有効〕. 第32条第1項, 国際オリンピック委員会, 2019年, 60ページ.
[5]鈴村裕輔, 開催時期を変更できない「2020東京オリ・パラ」をより良い大会にするためにIOCと組織委員会がなすべきことは何か. 2018年7月25日, https://researchmap.jp/jok8w1757-18602/
[6]鈴村裕輔, 開催2年前を期して東京五輪の返上の検討を勧める. 2018年7月24日, https://researchmap.jp/joykhh35n-18602/.
[7]伊藤龍治, 東京オリパラに非常時体制の準備を. 体育科教育, 67(10): 80, 2019年.


<Executive Summary>
Moving Olympic Marathon and Race Walking to Sapporo Might Be a Better Plan for the 2020 Tokyo Olympic Games (Yusuke Suzumura)


The International Olympic Committee announces that they plan to move marathon and race walking of the 2020 Tokyo Olympic Games to Sapporo on 16th October 2019. It might not be the best plan, but a better one, since Tokyo in late July or early August is not a good place to conduct such sports event.


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