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2019/12/03

田畑「環オホーツク海地域の経済発展」

Tweet ThisSend to Facebook | by yoichi.isahaya
田畑伸一郎「環オホーツク海地域の経済発展」田畑伸一郎・江淵直人 (編)『環オホーツク海地域の環境と経済』北海道大学出版会, 2012年, 141~166頁.

いまのスラ研の父である田畑先生の論文。先週のゼミ担当の学生さんが、ロシア極東の経済について報告したので、その事前準備にと読みました。ほんと、此処に来る前はロシア経済について何1つ知りませんでしたが、こうした機会を得て少しずつ勉強させていただいています――「オランダ病」について、説明できるようになりました♪「本章では、環オホーツク海地域の経済発展が持続可能なものであるかについて分析する」と先生は明言します――専門がロシア経済であることから、ロシア極東経済の比重が大きくなるという断りもあります。

ロシア極東ではソ連が解体する1990年代初めに大きな変化が生じました。ソ連時代においてこの地域は、閉鎖経済のなかで連邦の資源開発と国防に重要な役割を担い、物資の輸出入はその多くがヨーロッパ・ロシアとの間のものでした。しかし、ソ連崩壊とともにこの種の分業体制は意味を失います。体制転換に伴う国家財政の危機のなかで極東への補助金はほぼ無くなり、90年代を通じて極東の経済発展は政府の関心事ではなくなりました。こうした状況のなかで自然の流れとして、極東ロシアは東アジアとの繋がりを強めていかなければならなくなったのです。

一方で2000年代に入ると、原油価格高騰を背景に、ロシア全体が年平均で7%にもなる高い経済成長を享受するようになります。このことはロシア極東にも以下の3点において大きな変化をもたらすことになりました。1)ロシア極東がアジア・太平洋地域の重要なエネルギー供給源となった。2)中国・日本・韓国の3ヶ国がロシア全体の輸入のなかでも大きなシェアをしめるようになり、ロシア極東はその玄関口として機能するようになった。3)連邦政府が主導する形で、特に2008~2013年にこれまでに無い規模の大きな開発プログラムが実施された。こうした3つの契機を経て、ロシア極東は貿易に関して空前の発展を見ることになります。これは、この地域とアジア・太平洋地域との統合がこれまでになく強まったことをも意味していました。

ただし、ロシア極東の貿易における輸出と輸入とでは、その統合の度合いに大きな違いがありました。ロシアから東アジア諸国への輸出に関しては多くがロシア極東からの搬出であるのに対し、輸入に関してはロシア極東に向かう割合はそれほど高くないのです。これはロシア極東の市場規模(人口)が小さいことによると先生は説明しています。ロシア極東はアジア・太平洋地域の要地として再び再登場したものの、ロシア極東経済自体は、特にその地の住民自身はその恩恵を十分に享受しておらず、そのなかでは地域財政が好転している地域であるサハリン州ですら、人口の流出と減少とに歯止めがかかっていないのです。

こうした状況に鑑み、この章の最後に先生がまとめるのが、ロシア極東の持続的経済発展の可能性です。それらは以下の4点に集約されます。1)ロシア極東地域経済を牽引する石油・ガス開発については、一定の基盤が整いつつある。2)こうした石油・ガス開発の進展は、ロシア極東からの輸出を増大させるものであり、これによってこの地域と東アジアとの貿易のさらなる発展が見込まれる。3)以上のような経済発展のために好ましい要素はありつつも、より持続的な発展のためには地域住民の生活向上(雇用の創出など)が急務となっている。4)依然として発展が遅れているロシア極東の製造業分野に関しては、なかなか展望は開けないものの、政権としてもその投資には前向きであり、方向性は間違っていない。特に最後の点に関して、製造業の発展には外国からの資本及び技術の移入が必須であり、ロシア極東については、東アジアからの投資をどれだけ呼び込めるかが鍵になると、このように締めくくられています。


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