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2019/12/11

Dobrenko, "Late Stalinism"

Tweet ThisSend to Facebook | by yoichi.isahaya
今日はSRCセミナーの日。珍しく午前中からの開催でした。

Evgeny Dobrenko (University of Sheffield/SRC), "Late Stalinism: the Aesthetics of Politics."

センターの訪問研究員であるエヴゲニー・ドブレンコさんによる御講演です。聞けば、その道では相当名の知れた研究者であるとか。担当の安達先生によれば、文化・芸術の分野では衰退——良くて停滞——期であるとされていたスターリン期(1924~53年)に積極的に焦点を当てることで、その意義を炙り出す研究が学界の注目を浴びていると。先ごろ浩瀚な著作をロシア語で物し、それは遠からず英訳されるとのことでした。

「政治の美学(Aesthetics of Politics)」って題するぐらいだから、どんな煌びやかなパワポ報告が展開するのかと思いきや、ゴリゴリの論文読み上げスタイルΣ(゚Д゚)。でも中身が濃くて実に面白かったです♪「スターリン主義(Stalinism)」について——況やその美学をや!——何1つ知らない僕も、大いに刺激を受けました。

後期スターリン主義の時代とは1945年の終戦からスターリン死去の53年までの期間です。この時代は、革命に彩られた前期(1924~35年)と戦争のモノクロに染まる中期(35~45年)に比べれば「何も起こらなかった時代」であると。しかし実のところ「スターリン主義」と言えば主にこの後期の遺産のことであり、ソ連崩壊以降今のプーチン政権まで続くロシアの政治文化はこの後期スターリン主義へのリアクションとすら言えるとドブレンコ氏は看破するのです!

レーニンを放り上げ、トロツキーを切って一国社会主義へと突き進んだナショナルな存在としてのソヴィエトのイメージは、後期スターリン主義の時代に固まっていきます。それを小説や映画といった文化テクストから読み解くドブレンコ氏が強調するポイントはしかし、そのイメージはこの時代に「発明された」ものではないということです。中期までのソヴィエトは革命でもって自己を表象していました。しかし、後期スターリン主義の時代は、それ以前には否定的な価値観で捉えられていた「ロシア的なもの」が復古する時でもあったのです。❝内❞のみならず❝外❞との関係性の変容もまた後期スターリン主義を大きく特徴づけています。革命直後はソ連=インターナショナルvs西洋=ナショナルだったのが、戦後はソ連=反コスモポリタンvs「国際社会」へと情勢は完全に転換していました。ソヴィエトの自己表象もそうした情勢転換のなかで大きくその姿を変えていくのです。

「知性主義(intellectualism)」の体系であったマルクス主義に対して、神話や国家主義やシンボリズムに特徴づけられるスターリン主義の「反知性主義」は、或る意味で現代の先取りでもあったとする指摘は実に興味深かったです。当時のプロパガンダなどの記事は、現在の「反知性主義」の論調と驚くべき平行性を示しているとΣ(゚Д゚)。興味深かったポイントがもう1つ!質疑のところで、ドブレンコさんは彼の父が1920年代の生まれで戦争の世代であったと。その世代は実のところ3パーセントしか、戦争から帰ってはきませんでした。その後に来た「スターリン世代」は従って、上の世代なく、異例の長きに亘ってソヴィエトを牽引することになります。その世代は「スターリン世代」であり、「ソヴィエト最後の世代」でもある、このことは決して偶然ではないのだ、とのことでした。小熊英二が日本における「戦争の世代」の終わりと55年体制の終局を関連付けていた議論を思い出しました。

シンポの準備に大童な現状ですが、大変勉強になりました。行って良かったです♪


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