講演・口頭発表等

2018年8月3日

医学教育における社会科学の位置づけ

第50回日本医学教育学会大会
  • 星野 晋

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その他

2017年の医学教育モデル・コア・カリキュラム改定では、「行動科学」分野と並んで医療に関連する「社会科学」分野が医学教育で学ぶべき必須項目に加わった。それは社会科学がWMFE国際認証の必須項目に含まれることへの対応という側面が強かったが、それ以上に、近年の在宅ケア拡充の動向や患者の多様化などによって、臨床現場で社会科学的視点・方法へのニーズが増していることと関連づけて考えたい。そこで本報告は、社会科学とはそもそもどのような分野で、医学・医療とどのように関わり、今なぜ医学教育に導入する必要があるのかを確認し、その学修プログラムのあり方について提案することを目的とする。
ある集団が単なる個体の集合ではなく、そこに地縁・血縁・民族性・経済・法・制度など、メンバー同士を結びつける「関係性」が見いだせるとき、その集団を「社会」と呼ぶ。そしてそのように集団を「社会」たらしめる「関係性」について探求する学問群が「社会科学」であり、文化人類学、社会学、経済学、法学、経営学、政治学などがこれに含まれる。
医療を社会科学的にとらえる際には、医療それ自体が法・制度・政策・経済等にもとづく社会構造の一部であるというマクロ的側面と、患者やその家族、対する各種専門職など、臨床現場における当事者すべてが関係性を生きる社会的存在であるというミクロ的側面の両方に注目する必要がある。
少子高齢化等によりマクロ的な社会構造が変化すれば、医療のあり方も専門職の使命も変化し、育成すべき医師像は変わる。一方、高齢化対策で在宅ケア拡充政策がとられ、異なる職業文化を背景とする他職種が連携してこれに取り組むことが求められる今日、臨床現場の課題解決には、くらしや人間関係を生きる社会的存在としての人にどのようにアプローチするかという社会科学のミクロ的視点・方法の助けが不可欠となる。
このような社会科学的アプローチを学ぶためには、臨床現場で求められる多様で変化する状況に応じた課題発見・解決力を培うべく、座学ではなくケースや経験主体の学修プログラムを用意する必要があると考える。