講演・口頭発表等

2020年11月14日

ネパール・ゴルカ地震の記憶と弔い ─カトマンドゥ盆地ネワールの死の儀礼に着目して

文化人類学次世代育成セミナー
  • 伊東さなえ

記述言語
日本語
会議種別
口頭発表(一般)
主催者
日本文化人類学会
開催地
オンライン
国・地域
日本

2015年、ネパールで大地震が発生し、甚大な被害をもたらした。本研究では、この地震による死者を誰がどのように弔うのかについて検討する。
日本では、災害による死者に対し、無宗教の記念碑が建てられ、震災の記念日には黙祷や献花などの儀式が行われる。一方、インドネシアの津波災害や日本の阪神・淡路大震災の被災者については、公的な弔いではなく、家族や生前の知り合いの人たちによる記念碑が作られている。ネパールでも、政府による集合的な記念の動きと、地域で小規模に弔う動きのどちらも起こっている。その一方で、カトマンドゥ盆地に位置する調査対象地のP村では、政府によっても、共同体や家族によっても、記念碑等の設置は行われていない。
P村では、地震発生から3周年を迎えた2018年4月25日前後に、サプター(7日間の儀式)と呼ばれる宗教行事が行われた。サプターの主な目的は、高齢市民ケア・センターの建設費用を賄うための寄付金を集めることであったが、サプターの招待状には、震災の死者のためであることも明記されていた。サプターの主催者は、震災の死者の写真を儀礼をおこなう壇上に置く、と語ったが、サプターの会場を訪れてみると、それ以外の要因で亡くなった死者たちの写真も震災による死者の写真と混在して置かれていた。2018年4月のP村では、サプター以外には、地震に関連した行事は行われていなかった。
本稿では、このように、P村で震災による死者に対する特別な弔いが行われていない理由について、エルツの死の儀礼に関する論考を参照しつつ、災害直後のP村における死の儀礼の実践と関連付けつつ論じる。

リンク情報
共同研究・競争的資金等の研究課題
ネパール・ゴルカ地震後の社会再編に関する研究